”ヒメ”
「それじゃあ、どこからお話ししますか?」
“えっ! えっ⁉ ……ああ、あ、あの……”
「ああいえ、そういう意味じゃありません。貴女はラファエル様の加護印を持っていますよね?」
“えっ⁉ えっ⁉ ……な、な、なんで……そんなことが……分かるんです……か……?”
「ああ、俺、こう見えても結構聖刻のレベル高いんですよ。それで分かるんですよ」
“そそ、そうなんです……か……?”
「えぇ」
探して探して、遂に見つけたラファエル様の加護印を持つ新たな仲間。彼女は相当な人見知りで、言葉一つ間違えただけで逃げてしまいそうなくらい臆病だった。
そのうえ隠れるのが非常に上手く、もしここで逃がしてしまうようなことがあれば、もう二度と出会う事が出来なくなってしまう可能性もある相手だった。
そんな彼女との対話は、聖刻を賭けた戦い以上に難しく、例えようの無い緊張感があった。
「それでなんですが、俺たち、貴女の持つ加護印に導かれて来たんです」
“わわっ! 私のですか⁉”
「そ、そうです。なんか聖刻って、相性の良い者同士で引き付け合うみたいなんです」
“相性⁉ わわ、私はそんな凄い……いい、いえ! 私にはそんなことは無いです!”
多分相当パニ喰っている。姿は見えないが、手をわらわらさせているのが分かるほどの声の強弱に、もう少し言葉を選びゆっくり優しく喋らなければ、直ぐにでもWastedになりそうな勢いだった。
「だだ大丈夫ですよ。これは別に貴女にというわけじゃなく、聖刻を持つ、っじゃなく、加護印を持っている人なら皆同じですから!」
“えっ⁉”
「あっ! いえ! 今のはそういう意味じゃありません!」
今の俺の発言はマズかった。まるで今の言い方なら、“俺たちは聖刻を持つ仲間が欲しいだけで、別に貴方には興味がありませんから”という意味に捉えられ兼ねなくて、いつグラセフの“客をビビらせた”みたいに失敗するか分からない状況だった。
“ひっ、人ですか?”
「えっ? あ、ああいえ! 人というかなんと言うか……あの、聖刻を持つ人っ……あ、いえ! 聖刻を持つ聖者のことです!」
“せせ、聖者っ! ……ですか……?”
「いいい、いえっ! そっ、その~何と言うか……そそ、そういう……意味、です……」
まだ彼女が人間なのかは分からない。っというか間違いなく人ではない事は確かで、喋れば喋る程墓穴を掘り始めていた。
こいつは間違いなく、“やっちまった!”でWastedだった。折角ここまで苦労したのにここで痛恨のミスを犯すとは、セーブ機能に頼っていた己の脆弱さを呪った。
しかしやはり俺は神に愛された男。無駄に爆運を使う。
“わわ私が聖者ですか⁉”
「え?」
“ほほほ、本当ですかっ!”
「ん?」
どうやら彼女は、相当自分に自信が無いタイプなのか、逆に聖者と呼ばれたことが嬉しいようでテンションが上がったようだった。それは正に舞い上がるという感じで、相当嬉しかったのか、なんか木の影……というか、木の枝からひょっこり顔の一部を見せた。
「んん?」
“ああ、貴方は、優しいんですね? フフフ……”
「え? ……え? えっ?」
目の高さよりちょっと上の木の枝。そこに僅かに動く物が見えた。それは小さくて、黄色かった。
“わ、私は……仲間に……そ、その~……なっても……なりたいん、ですか……?”
「え、えぇ……ええ! も、もしよろしければ、一緒に来ませんか?」
もう目の前に見える仮面ライダーみたいな顔のせいで、ほとんど会話は耳に入って来なかった。だけど……ちっちゃな手で木を掴んで、恥ずかしそうにひょっこりこちらを見る瞳は恋する乙女という感じで、スズメバチだけど、可愛かった。
っというか! 新たな仲間は、まさかのスズメバチだった。
“こ、こんな私でも……い、一緒に行って、その~……良いんですか?”
「あ…………よろしくお願いします……」
“……はい……よろしく、お願い……します……”
挨拶が終わると、彼女はゆっくりと姿を見せた。そして恥ずかしいのか触角をクルクルさせると顔を洗い、黙ってこっちを見ていた。
彼女は多分、キイロスズメバチ。俺は大きさでオオスズメバチとスズメバチの違いが分かるくらいで詳しくは無いが、体長は三センチくらいな所を見ると、多分毎年家に巣を作るスズメバチと同じ種類なのだと思う。そして単独のメスなことから多分働きバチなんだと思う。
ただ会話が出来るせいか、あの臆病でおっとりしたような性格が非常に愛らしく、普通に可愛かった。
「あ、あの~……名前はなんて言うんですか?」
“えっ! あ……いえ……私は……名前は……フォイです……”
フォイ! フォイちゃん!
昆虫にも名前があることに驚きだが、なんか可愛い発音に、増々可愛く見えた。
「おお、俺は、リーパー・アルバインです」
相手はあの恐ろしいと言われるスズメバチ。だけど物心つく前から毎年家に巣を作って、毎年巣の成長を見て、毎年誰かが毎日巣穴から顔を出して見張っているのを知っている俺からしたら、小さな体で頑張るスズメバチは家族みたいなものだった。それも働きバチは女性という事も知っているなら尚の事。ちなみに俺は、一度もスズメバチに刺されたことが無い。
そんな可愛いフォイちゃん。よっぽど照れ屋なのか、落ち着きなくその場をウロウロして名前を教えてくれた。これはもう、めっちゃ触れ合いたかった。
そこで握手代わりに人差し指を出すと、ちっちゃいお手手を乗せてくれて、これは! と来た。
“こ、こちらこそ……よろしくお願いします”
「よろしくお願いします」
こいつぁは~べっぴんだぁ~。おりゃ当たりさ引いた~。
チンパンが言う別嬪が何なのか、今はっきりと分かった。今までさんざん“何が別嬪だ”とバカにしていたが、所詮俺たちは同じ穴のムジナ。おりゃもベっぴんさんさ好きだったぁ~。こいつぁ儲けたぁ~。うぃ~。という感じだった。
ここに来ての大当たり。それも、女性、別嬪、礼儀正しいと来れば、胸を張って街を歩ける。それにみすぼらしい従者一人と一匹も従える。なんか魔王にでもなった気分だった。
「それじゃあ、あっちにいる仲間も紹介するよ。大丈夫?」
“えっ⁉ あっ! ……あ……はい……”
あのくっさい猿と腐った魚にフォイちゃんを会わせるのは気が引ける。だけど、アレでも連れて歩かなければならない。だけどやっぱりフォイちゃんは人見知りだから怖いのだろう。それでも返事をしちゃうフォイちゃんは素直な子で、やっぱりまだアレたちに会わせるのは時期尚早だった。
「良いよ無理しなくて。嫌なら会わなくても良いよ。あの二人……あの人たちは勝手に付いて来ただけの人だから」
“えっ⁉ そうなんですか⁉”
「うん。多分寒くなったら勝手に家に帰るから、フォッ、フォイさん……フォッ、フォイちゃんが会いたくないなら、それでも良いよ」
ここは大勝負だった。いきなりちゃん付けなんてほぼ特攻に近い暴挙だったが、ここを越えられなければ俺は昔のまま。数々の視線を潜り抜けてきた以上、俺も変わる時が来た瞬間だった。
だけど俺の成長なんてフォイちゃんの優しさの前ではあってないような物で、フォイちゃんは女神のような事を言う。
“で、でも、あ、あの人たちも、わ、私の仲間なんですよね?”
「まぁ……一応ね」
“じゃ、じゃあ、挨拶しないと……いけない、ですよね……?”
フォイちゃんも辛いのだろう。あのくっさい二匹に会うのは地獄のようで、小さな手が小さく地団駄を踏んでいる。それでも立ち向かおうとする勇気は、聖刻者の鑑だった。それを見習い、俺も微力ながら助力することにした。
「フォッ、フォイちゃんがそう思うのなら、俺は手伝うよ? どうする?」
“て、て手伝ってください!”
「分かった。じゃあ……俺に乗って。あいつら……皆の所に連れて行ってあげる」
“は、はいっ! ありがとうございます!”
フォイちゃんは本当に凄い。あんな……自分も仲間として認められようと必死に頑張る。それも相当な覚悟のようで、あんなに人見知りなのに、俺に乗ってと言うと迷わず頭に乗って髪の毛の中に隠れるほどで、その勇気に感嘆だった。それにこんなくっさい俺の頭に乗ってくれるなんて。
まるで愛しの彼女と手を繋いだかのような気持ちになった。
こうして俺は新たな仲間、フォイちゃんと出会った。次に目指す先はフォイちゃんの聖刻の獲得。そしてその次は新たな仲間。
辛く暗い旅だったが、やっと光が差したことで、俺たちには明るい未来が待っている。さぁいよいよ冒険の始まりだ! 続く!
っというわけにはいかず、やっぱり彼らにもフォイちゃんを会わせなければ行けなかった。
続く!
謝らなければいけないことがあります。それは、アドラとパオラの姉のフィオラについてです。読み直した際に、フィオラが加護印を出した事を二度言っており、辻褄を合わせるようにセリフをカットしました。しかし、ラクリマは「キリア”または”フィオラ」と言っており「二人が戻らないと詳細は分からない」とも言っている事に気付きましたが手遅れでした。
私の中では、フィオラは父親が危篤の際に帰宅し、そこで加護印が発現しているはずなので、きちんと読むとプロット通りでした。
プロット通りしっかり描いている事。リアリティを出すためにラクリマに断言させなかった事。分かり辛い言葉使い。過去の自分に敗北した事。これだけなら謝罪をする必要はありませんでしたが、既に私の中でこの作品は、私一人の物ではなくなっていた事に気付き謝罪させていただきます。誠に申し訳ありませんでした。
まだ投稿していない部分については私の物かもしれませんが、この作品は既に、過去の自分と読者の物となっております。そのため、もう怖いので編集した部分は直しませんので、ご了承ください。
最後に、フォイちゃんはサブタイトル通り、ヒメスズメバチです。




