表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
131/186

聖刻の呪縛

 エモとの戦いが終わり傷も癒えると、空には夜明けが訪れた。騒がしかった生き物たちも落ち着き、山は普段と変わらない静かな朝を迎えた。


「もうあんまり、自分には得意じゃない力の使い方はすんなよ?」


“分かっています。リーパーの御慈悲により、力まで残して頂き感謝します。これで私はまた、家族と共に生きられる”


 意図したわけじゃないが、エモには僅かながらアズ様の力が残った。それはまともな聖刻者と戦うにはあまりにも弱いが、エモが家族を守るには十分な力だった。


「別に俺がそう思ってしたわけじゃない。多分そういうもんなんだと思う」


“いいえ。これはリーパーの心が望んだもの”


「……そうだと良いな」


 ガーディアンとなるためには、ある程度聖刻の力を持っていなけりゃ意味が無い。だから多分そういう事だとは思うが、エモを見つめる家族たちを見ると、俺の意思も少なからず関係していたのかもしれない。少なくともエモたちがまた一緒にいられたことに良かったと思う気持ちに、そうであって欲しいとは思った。


「まぁ、これでもうエモは他の聖刻者に襲われることは無い。勝ったとは言えないけど、有難くエモの力は貰っていくよ」


“この世界では、生き残った方が常に強い。勝つか負けるかではなく、強い者が全て。リーパーが聖刻を持つのは必然”


 エモの言う通りかもしれない。実際聖刻も一度エモを選んだ。


 この戦いは、最後は死ぬ気で挑んだつもりだが、結局保身に走り最後の最後には自分の命だけを残した俺が生き残った。自分の命すら使い切ったエモに対して、往生際悪く足掻いた俺は、間違いなく卑怯者だろう。そんな引け目がこの結果に満足していなかったが、常に命がけで生きてきたエモに言われると、勝ってなんぼではなく、生きてなんぼが正解だったんだと、まだ納得はしていないがこれはゲームではないと納得した。


「んじゃ、俺たちは行くよ。頑張って家族守れよ」


“はい”


 これでようやくレベル三。この先後どれほど戦わなければいけないのか知らないが、何はともあれ、まだ生き残っている事に少し安堵した。


「随分待たせたな。さぁ次に行こうぜ?」


 タバコ吸って寝てろと伝えたはずなのに、結局最後まで俺たちの戦いを見守っていてくれたカスケードとチンパンには、ちょっと申し訳ない気持ちがあった。だが二人の顔を見るとなんだかホッとし、なんか知らんがこんな二人でも一緒にいてくれることに嬉しい気持ちになった。


「これはまた、随分とレベルアップしたな大将。あまりのんびりしていたら、付いていけなくなりそうだ」

「そうか?」


“また一つ男前になったぜダンナ。俺は増々ダンナに惚れちまった”


「きめぇな」


 俺自身はそれほど自覚が無いのだが、カスケード達には分かるらしい。経験として俺自身がレベルアップした気はするのだが、これほどまでの違いがある聖刻には、俺自身のレベルアップは必要無いんじゃないかと思ってしまった。


「まぁとにかく、先を急ごう。……で、どうする……ん?」


 戦いを終えて、先ずは次はどうするかを考えていると、何か忘れてる気がして……と思った矢先、振り返るとなぜかエモが後ろに立っていた。


「どうしたエモ?」


“いえ。何でもありません”


「ん? まぁ元気でやれよ」


“えぇ。リーパーも御自愛ください”


「あぁ。じゃあな……え?」


 もしかしたらエモも寂しいのかもしれない。家族はいるが戦友と呼べる俺との別れは辛いのだろう。それで近づいて来たかと思っていると、いくら歩いても無言で何故かずっと付いて来た。それが異様に怖く、先ずどうするかなんて考えるよりも離れる事で頭が一杯になり、気付けばかなり歩く速度が速くなっていた。


「おい! お前何で付いてくんだよエモ! オメェに追いかけられると怖ぇんだけど!」


“何故と言われても……私はリーパーの従者。付いて行かなければならない”


「ええっ⁉」


 聖刻を奪われた者はガーディアンとなる。ガーディアンとなった者は、聖刻者を守りながら魔王討伐に参加する。エモは正しい。だけどそれだと、あの心温まるエンドは全く意味を成さなくなる。何よりエモは『これでまた家族と共に生きられる』と言っていたし、さよならだって言った。エモの脳みそはピーナッツくらいしか無いのかとさえ思ってしまった。


「いやいや! 別に俺たちに付いて来なくていいから! エモは家族守んないといけないでしょ!」


“家族は娘に頼んだ。問題ない”


「いや問題あるしょ! エモお母さんでしょ⁉ エモがいないと駄目だよ!」


“しかし……では私はどうすれば良い?”


「俺たち来る前みたく、今まで通りに家族と暮らせばいいの!」


“それは出来ない。私はリーパーの従者だ”


 これは多分……そういう事。聖刻を奪われた者は従者とならなければいけないという、聖刻の呪縛。確かに従者が増えればそれだけ生存確率は上がるが、後ろでウルウルする寂しそうな瞳で見つめるエモの家族たちの視線が刺さると、罪悪感で胸が一杯だった。


 これは非常に困った。エモを連れて行けば、馬のように乗れたり、ラクダみたいに荷物も運ばせることが出来る。そして鹿煎餅も良く貰えるようになるだろうし、女子たちからも『写真撮らせて下さい!』みたいになって、もしかしたらウハウハになれるかもしれない。

 だけど駄目だ。だってエモはお母さんだもん! まだバンビみたいな子供だっているもん! お母さん知らない俺だからこそ、絶対にあの子供たちからエモを奪う事は出来ないもん!


 エモは絶対にこの山に残らなければならなかった。だけど聖刻の呪縛に逆らうのは難しく、頭を悩ませた。

 そこで、もうぼ~っと立っているが、立ち上がったのはカスケードだった。


「あんたはこの山と家族を守るんだろう? 自分の使命を忘れちゃいけない」


 アズ様の聖刻者でもないし、ガーディアンと言えど格上の聖刻を持つ相手だし、多分カスケードが言っちゃいけない言葉だった。それでも今はカスケードの助力は有難く、ここだ! と思った。


“私はアズ様の従者。お前の……”


「そうだそうだ! 忘れてた! ありがとうカスケード、お前のお陰で思い出した!」


 やっぱりガーディアンと言えど聖刻では格上らしく、危うく殺し合いが始まるところだった。だがこれで上手くエモを山に帰す方法を思い付いた。


「良いかエモ、良く聞け。お前にはこの山と家族を守ってもらいたいんだ。エモがここを守っていてくれれば、俺たちはいざとなればここで魔王と戦える。そうなったとき、エモがここの縄張りを強化していてくれれば、俺は楽に戦える。ここは重要拠点なんだ」


 そんなわけは無い。こんな足場も見通しも悪いところで戦うくらいなら、東京みたいな大都市で戦った方がよっぽどマシだ。だけどこうでも言わなければエモは納得しないと思い、なんかそれっぽく言った。


「良いかエモ! 今からお前をここの領主に任命する! エモはこの地を守り、より強い魂を育てろ! それが俺からエモに命令する命令だ!」


“喜んでお受けいたします”


 命令する命令の意味が分からないが、命令という言葉が効いたのか、あっさりエモは承諾した。

 これで何とかエモを山に帰すことができ、俺は北海道のどこか知らんが領土を手に入れた。

 

「じゃあほら、エモは早く家族の元に行って、今日は皆で草でも食ってのんびり過ごして。今日は初日だから、エモは休日ね」


“ありがとうございます。王の御厚意、感謝します”


 多分あれだ。従者に対して“命令”と伝えると聖刻の力が働くようで、主は“王”になるらしい。じゃなきゃエモはバカにしているかのどちらかだ。

 まぁとにかく、これでやっと一段落したようで、俺たちはまた次なる目的地を目指し旅立……


「あ、そうだエモ?」


“どうしました?”


「そういえばさ、ここに来た時、エモ以外の聖刻者の気配感じたんだけど、本当にエモは何も知らないの?」


“おそらく聖刻者ではありません。加護者でしょう”


「えっ⁉ そうなの⁉」


“出会った事はありませんが、近くに居る事は確かです。今の王なら分かるはずです”


「え? ……あっ、そうか」


 エモから聖刻を貰ったことで、感知能力も上がっているはず。そこで自分で探ってみた。


 すると、ラファエル様の気配を僅かに放つ加護印の力を感じた。


「へぇ~、既に貰える聖刻が決まってる加護者か……まぁ、俺もほぼ決まってたから不思議じゃないか」


 どうやらこのくらいのレベルになれば、そういう細かいことまで分かるようになるらしい。だけどこのレベルになってもまだ正確な位置までは把握できない実力者のようで、期待に胸が膨らんだ。


「よしっ! んじゃそいつのとこ行くか。エモ、ありがとうな。後は任せるから、しっかり家族守れよ」


“はい。ご武運をお祈りします”


 ただ俺がエモの生活を脅かしただけのような戦いだったが、結果としては蟠りも無く終わることが出来た。もしかしたら俺が来なければもっと良い結果になったのかもしれないが、家族に囲まれ見送ってくれるエモを見ていると、まぁ悪くはなかったのかもしれないとなんか温かい気持ちになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ