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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
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勝手に作った常識

「くそっ! なんかねぇのかよ! のわっ!」


 森で出会ったシシ神様との戦いは、シシ神様が放つ領域展開無量空処、シシ神アタックにより、俺は延延とタックルを喰らいまくっていた。


「こいつはマジでヤバイ。このままじゃ……おわっ!」


 気付けば日が落ち、もう辺りは真っ暗な夜に包まれていた。俺は何度もダメージを受けていたがいくらでも回復できるため無傷アンドNO疲労で進展はなく、ただただ時間の無駄だった。なのにシシ神様は一切攻撃の手を休めることは無く、それどころか俺が木に登って進展させようとしてもそれすら止める勢いで、ある意味完璧な封印術を発動させていた。

 このままでは本当に魔王討伐か人類滅亡のどちらかが完了するまで続きそうで、過去最大の窮地に陥っていた。


「おい! いつまでこんな事続ける気なんだよ! お前だって分かってんだろ! このままじゃいつまで経っても魔王倒しに行けねぇんだぞ!」


 俺たちの目的は魔王を倒す事。いくら聖刻のパワーアップが必要だとしても、このままでは本末転倒だ。


「どわっ! ……テメェ! 先ずは話を聞け!」


 鹿が何を考えているのかは全く不明。もしかしたら人間ほど知能が発達していないから、自分に与えられた使命すら理解できていないのかもしれない。そう思い敢えてアズ様の名を出した。


「お前アズ様の聖刻者だろ! 裏切るつもりか!」


“私は神よりこの地を守るように云い遣った。私は神を裏切らない”


「お前……」


 アズ様―! こいつやっぱり勘違いしてるよー!


 確かにアズ様たちは、この地、この地球を、この地に生きる全ての生き物を守れと遣わした。それをこの鹿は、自分の縄張りを守れという意味だと勘違いしている。こいつは大変面倒臭い事件が発生していた。


「そういう意味じゃねぇよ! アズ様たちはこの地球を守れって言ってんの! 何でお前ん家を守れって言ってると思ってんだよ!」


“地球? ……それはなんだ?”


「…………」


 そりゃそう。俺たちだって学校で習わなければ多分そうなる。多分こいつはアズ様に従順だが、それはあくまで自分の知識の中での話。魔王が復活してこいつの縄張りまで攻め入れば戦うだろうが、そう考えれば日本語以上に意志の伝達というのは難しいのだと分かった。


「まぁ、簡単に言えば……もっと広い縄張りって意味だな……」


“なるほど。つまり私はもっと多くに地を広げ、守れば良いという事か?”


「間違っちゃいないが……まぁ、そういう事……」


 よく考えてみれば、今の時代世界のあちこちに行けるし、情報もバンバン入る。だから俺たち人間は世界=全てを守ろうとなった。だがもしそれが無ければ、自分の領土を守るとなるかもしれない。実際人一人が守れる広さなど知れているし、ハナから全部守ろうとすること自体が、まるで自分が神になったかのような考えでおこがましい。

 もしかしたら間違っているのは、自分の方じゃないのかと思ってしまった。


「おいカスケード、チンパン! 聞こえるか!」

「どうした大将?」


“お呼びですかダンナ?”


「お前ら魔王が北極に居たら、倒しに行くか?」

「大将が行くと言うなら、俺は付いて行く」


“俺はいつでもダンナの味方。ダンナが行く所、例えそれが火の中でもお供しやすぜ”


「いやそういう事じゃなくって、お前らならどうするかって聞いてんの!」

「魔王も俺たちは倒す敵。なら俺は来るまで待つだけだ大将。パチンコでもしながら」


“ダンナの言うほっきょくは俺には分からねぇ。魔王から来てくれるんなら、俺はわざわざ遠くまで行くつもりはないぜダンナ?”


「…………」


 彼らに聞いたのが間違いか、はたまた俺がゲームのし過ぎだったのか。よく考えたら向こうから来てくれるなら、行く意味が無い気もして来た。何よりこのシシ神様みたく、魔王から来てくれるならこっちだって大きな陣を作り、万全の態勢で迎え撃つことが出来る。なんか……シシ神様の方が正しいような気もして来た。


「どうした大将? そろそろ俺たちの出番か? 俺たちはいつでも行けるぜ!」

「いや……お前ら煙草吸って寝てろ!」

「分かった」


“了解ダンナ。目覚めた時には吉報を頼むぜ”


 カスケード達も暇だったらしい。だけどこのマイペースな二人のお陰で、焦ってまで旅をする必要は無いのだと感じた。すると不思議な物で、散々苦しめられたシシ神様タックルの嵐にイラついていた気持ちも治まり、自然と体から力が抜けた。


「なるほどね。自分の敵は自分って言う言葉の意味が分かったわ……」


 自分に言い聞かせるかのような独り言。これにさらに気持ちが落ち着き、ここでやっと綺麗な夜空が頭上に広がっていたことに気付いた。


「おぉ~! すげぇ~!」


 俺が住んでいた田舎の空も綺麗だった。だけど夜空を眺める事などほぼ無かった。だからかもしれない、木々から覗く山の夜空はそれ以上に美しく見え、予想以上に彩り豊かな天の川銀河に、神秘的で幻想的なイメージを抱いた。


 俺が生まれる前からも、全人類が存続を掛けて魔王と戦う時も、決着が付いてどちらかが生き残っても、そんな短い時間では夜空は変わることは無いだろう。アズ様の力を得て“人”を超越したと思っていたが、俺も、俺たちも、とても小さな存在のままなんだと改めて痛感した。


 出来るかどうかは知らないが、いつの間にか魔王を倒そうと躍起になっていた自分を知り、今は先ず自分に出来る事をしようと思った。


「悪かったなシシ神様。なんか勝手に俺がシシ神様の縄張りに入って喧嘩売っちまって。俺は別にあんたの大切な物を奪おうって思ってたわけじゃない。気を遣わせちゃってすんません」


 シシ神様は俺を倒そうと思って角アタックを繰り返していたわけではなかった。自分の縄張りを荒らす俺を追い出したいだけだった。その証拠に、今になってやっと少し離れた所からこちらを覗く他の鹿たちの視線に気付いた。


 雄大な夜空を見上げ、自分の心の焦りを知ると、この戦いは俺だけが聖刻の奪い合いに囚われていたと気付かされた。そして俺はこの鹿が守りたい物をやっと知り、ここで初めて敬意をもって対戦者として向かい合うことが出来るようになった。


「ここからは敵としてではなく、アズ様の聖刻者として戦いを申し込む。俺にもまた会う約束をした家族がいるんだ。出来れば家族を守れるようにアズ様の聖刻者としてまた会いたい。だから、恨みっこ無しで受けてくれないか?」


“…………いいだろう”


 戦いたくはない。だけど聖刻を持つ限り、例えここで俺が退いてもまた別の聖刻者が奪いに来る。そうなればいずれは守りたい家族にまで被害が及ぶ。鹿なりに無い頭で懸命に色々考えた末の答え。悲しさを感じさせる言葉には、そんな想いが滲み出ていた。

 

 鹿が返事をすると、伸びた笹は枯れ始め、ゆっくりと朽ちて砂のように消えて行った。

 見晴らしが良くなった森に佇む鹿の姿が見えると、そこには哀愁が漂っており、まるで偉大な母親のような優しささえ感じさせた。


”少し騒がしくなるが、日が近い。早く終わらせよう“


 俺には今が何時なのかは分からない。だが鹿には夜明けが分かるようで、静かに言った。そしてここから言葉通り一気に決着をつけるようで、角を本当にシシ神様のような枝分かれした樹木のような形に変え、青白い光を纏い始めた。


 ここからは鹿対人間の戦いではなく、アズ神様の力対アズ神様の力の戦い。互いに聖刻の領域を広げると、今までと打って変わって鳥たちが騒ぎ出し、山全体が一気にざわつき始めた。


 最近気づきました。小説のポイントが増えている事に。ありがとうございます。


 私としては、この話いつまで続くんだよと思っている昨今、もう誰が読んでいるかなんていう意識はほぼ無く、ただ完結させたいだけの意地で書いています。実際この話はリーパーの一人称で描いていますが、リリアたちやキリアたち、アドラたちの他に、一応敵である名前も忘れた王子の動きも把握しているのですが、もしこれが全視点だったらと思うとゾッとします。もっと言えば、フィリアは修行していたり、ウィラはどっか行ったり、エリックは裏切ったり、キリアは暴れまわったりしていて、手が付けられません。もっと言えば他パーティーの方がシリアスで、ここだけがギャグパートです。

 この先の展開で、アドラがあれだったり、パオラもあれだったり、アックン出てきたりする予定ですが、全部書いたら何話になるのか分からないくらい膨大なので、伏線等はほぼ回収されない可能性があります。

 

 こんな感じですが、評価して頂き感謝いたします。私としては読者が声を出して笑ったら勝ちなので、負けた方はご評価願います。


 ちなみに、意外と設定はしっかり作っていたようで、前期は一九四三年に魔王復活の兆しがあり、一九四六年にリーパーのおじいちゃん(エヴァ)が生まれており、一九六二年に魔王を討伐しています。早いと言われた前期でも十九年も掛かっているのは、完全に設定ミスじゃないかと、あの時の私に言いたい!

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