その日まで
「大将。こいつが本当にそうなのか?」
「あぁ、間違いない。こいつに呼ばれたかどうかは知らないが、コイツは間違いなくミカエル様の聖刻を持つ。それに本当にコイツかどうかは旅をしてれば直ぐ分かる」
「……それもそうだな」
良く分からん森で出会った次なる仲間、チンパンジー。こいつが本当に俺たちの仲間になるのかどうかは知らないが、その実力は既に一人倒しているミカエル様の聖刻者である以上、先ずはそう思うしかなかった。
「まぁ、とにかくよろしく頼むよ。お前名前は?」
“好きに呼んでくれダンナ。俺にはもう、名も守るべきものも無い哀れな男だ”
どうやら残念ながら、このチンパンジーは俺たちの仲間らしい。カスケードみたいな事を言うチンパンジーに、“あぁ、俺たちってそういう感じの奴が集まるチームなんだ……”ということが、今はっきりと分かった。
「そ、そうか……なら好きに呼ばせてもらう……」
もう勝手に俺の事をダンナと呼ぶチンパンジーには、諦めるしかなかった。だがこれでやっと二人目の聖刻者を仲間に出来たと思うと、達成感があった。
「んじゃ。次行こうか」
“おいおい、ちょっと待ってくれよダンナ”
「何だよ?」
“俺はダンナの事は認めてる。だが俺はダンナほど賢くない”
「ん? どういう事だよ?」
“こういう事だよ!”
チンパンはそう言うと何を思ったのか、突然俺に襲い掛かって来た。
白い牙を見せ、鋭い爪にミカエル様のバリアを纏い首を狙う姿は、正に野生のチンパンジー。その瞬発力も凄まじく、あっという間に喉元に手を伸ばす速度は、完全に人間を超えていた。
しかしこっちにいるカスケードも負けず劣らずの強者。俺が対処せずにいると空かさず横から発砲し、チンパンに命中させた。チンパンはミカエル様のバリアでそれを防ぎ、なんとか危機を回避する。
「おいチンパンジー。急に腹でも減ったのか? 大将を狙うとは良い度胸だな?」
この二人の攻防は、完全に俺を上回っていた。これだけ頼もしい二人なら仲間として連れて歩くには申し分なく、見た目と性格だけがとても残念だった。
「安心しろよカスケード。こいつが俺を襲ったのはそういう事じゃない」
「?」
チンパンが俺を襲った理由は、俺の実力を見たかったから。俺の読み通りうちのチームがそんなんばっかりのチームなら、最も大切なのは絶対の信頼。カスケードも俺の実力は知らないが、俺も何となくカスケードの実力を認めており信頼している。なんだかんだ言って俺たちに必要な物は、強さだった。
そこで良い機会だと思い、俺の力を見せる事にした。
「丁度良い。カスケードにもまだ見せたことなかったな。見せてやるよ俺の力を。そうすりゃオメェもあんなことする必要なかったもんな」
カスケードには不死は伝えていた。しかし実際見せるタイミングが無く、あくまで口頭だった。
亡骸の手元に落ちていた拳銃を拾うと、弾が入っているかを確認し、銃口をこめかみに当てた。
「なっ、何をする気だ大将?」
「まぁ良いから見とけ。おいチンパン、お前もよ~く見とけ、これがお前たちのリーダの実力だ」
銃の扱いはキャメロットの授業で覚えていた。っというかエアーガンで遊んでもいたから、普通にそのまま自分のこめかみを打ち抜いた。
銃弾は俺の頭の半分を吹き飛ばした。もちろん俺は即死で、カスケードもチンパンも突然の行動に目を丸くしていた。そして今の俺の再生力ならこんな傷でもあっという間に完治し、倒れて間もなく直ぐに立ち上がると、正に開いた口が塞がらないという表情を見せた。
「どうだ? これがアズ様の聖刻の力だ。俺は例え頭が無くなっても死なない。どうだチンパン、勝負してみるか?」
俺に攻撃しても無駄だぞ。というパフォーマンス。実力を確かめたかったチンパンには物足りなかったかもしれない。だけどチンパンもそうだが、カスケードにも十分だったようで、二人は一転して大笑いした。
「こいつは驚いた! 流石大将だ!」
「ウキャキャキャッ! ウキャッ!」
「お前ら、何がそんなに楽しんだよ?」
力を示すためとはいえ、目の前で俺の頭が吹っ飛ぶのを見て笑う二人は、理解し難かった。
「こんな愉快なことは無い! 死なない指揮官。最高の上官じゃねぇか! まさか本当に死なないとはなっ! あんた最高だぜ大将!」
“悪いダンナ! でも、これなら俺は迷うことなくダンナに命を預けられるぜ!”
なんか知らんが、二人にとっては死なないという事が良いらしい。まぁでも、どうやらこの二人は過去に大切な人を失った節があり、なんとなく喜ぶ理由に納得だった。
「そうかい。二人が納得してくれたなら問題ない」
俺としては、この不死の能力は確かにチート級だとは思ってはいたが、今のところもっと攻撃面に特化した能力の方が絶対良いと思っていた。実際今まで何とか生き残っては来たが、ほとんど運が良かっただけで、ジャンに関してはマリアたちが来なければ絶対負けていた。
そんな感じで納得はしていなかった能力だが、二人の喜ぶ顔を見て、まぁ悪くは無かったと思った。
それにこの能力のお陰で、チンパンはやっと仲間に加わってくれるようで、カスケードに対して握手を求めた。
“これからよろしくな相棒。旦那の左側は俺に任せてくれ”
「お? よろしく頼むぜ……フッ。ブルーノ」
ブルーノ⁉ こいつブルーノって言うの⁉
カスケードにはチンパンの言葉は通じていないはず。なのにカスケードはブルーノと呼んだ。もしかするとカスケードは動物にも詳しく、チンパンはそういう種類のチンパンジーなのかもしれない。
“あんたも銃を使うのかい?”
「どうした? やはり腹でも減ってるのか?」
“なぁに、相棒が何を使うのか知りたいだけだ”
「そうかそうか……ほらよ。チンパンジーならジャーキーくらい食えるだろ?」
“なんだ相棒? これがあんたの得物か?”
「どうした? これは食い物だ。ほら食え」
チンパンに関しては俺の言葉に反応していたから分かっているのかと思っていたが、案の定二人は意思の疎通が出来ていなかった。
“おいおい、そんなに見せびらかさなくても分かったよ相棒”
「なんだいらねぇのか? なら他の……」
“俺はこいつが自慢でな”
そう言い、チンパンは牙を見せた。
「おいなんだ! 落ち着け、別に俺はお前を食べはしない! 仲良くしようぜ?」
“そう気を使うなよ相棒。俺の牙はそこまでじゃないだろう?”
「そうだそうだ。俺たちはこれから仲間だ。俺は敵じゃない」
この二人は基本的に馬鹿らしい。全く意思が通じていないのに、全くそれを気にせず会話している風に会話している。
だけどこれは非常に面倒だった。これから俺たちはチームとして命がけの戦いをする。そこに全く意思の疎通が取れない二人が居れば、それはもうチームじゃない。
ただでさえ面倒な二人だけに、何とかしなければいけなかった。そこでマリアたちが蛇のムーさんと会話をしていたことを思い出し、アレがマリアの力なら俺でも同じことが出来ると思い……通訳になることにした。
「おい。お前ら話し通じてないから、なんか聞きたいことがあったら俺を通せ」
俺は動物とか、その辺に漂う魂とかなら、なんとなく会話が出来る。おそらくもっと慣れれば完璧に会話出来るようになる。だが今はマリアみたいに、俺が受けた信号を全員に伝達するようなやり方が分からず、今はこれしか手が無かった。だから今はこれで我慢してもらうしかなかったのだが、この二人は俺以上に適当だった。
「安心してくれ大将。こいつも同じ類人猿だ。そのうち分かるようになる」
“気にするなダンナ。相棒なら言葉は必要ない”
だ、そうです。まぁ通じてもろくな話はしないだろうから、暫くは問題なさそうだった。何よりこの二人、見た目以上に相性が良く、見た目以上に頼りになる実力を持っているようで、いざとなれば勝手に連携しそうで、仮に役に立たなかったら置いて行くから、もっと良い人材に出会うその日までは、仕方が無いから一緒に行くしかなかった。




