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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
125/186

 鬱蒼と茂る森。高い木は何かチクチクした葉の形をしており、地面にはでっけぇ松ぼっくりがあちらこちらに散らかり、どこかから鳥のさえずりと共に、時折怪物が叫んでいるような声が聞こえる。日影が多いせいか草木はほとんどなく、木と岩石だらけだがそれなりに見通しは良い。

 気温はかなり涼しく、世界は夏へ向かっているはずなのに、ここはまるで冬へ向かうようだった。


 俺たちが次に辿り着いたのは、なんか良く分からない森だった。


「多分この辺なんだよな」

「この辺? ……なるほど。大将、多分アレじゃないのか?」

「どれだよ?」

「あの木だ」

「……おめぇもしアレがそうだったら、どうやって連れてく気なんだよ!」

「ハッハッハッ! 木だけにか? 大将!」

「オメェぶっ飛ばすぞ!」


 ジャンとの戦いを終えた後、俺とカスケードは次なる仲間と出会うため、この森に来ていた。


「だが、この辺というのはどういう事だ大将? 今の大将ならもっとはっきりと位置が分かるはずじゃないのか?」

「多分この森のせいだ。気配は強く感じるんだけど、この木とか鳥の気配のせいで良く分かんねぇんだよ」

「オメェは何か感じねぇか?」

「そうだな……」


 そう言うカスケードは少し歩き、背中を向けたまま足を止めた。そしてしばらく動かなくなった。


「どうした? 何か見つけたのか?」

「風を待っていた」

「風?」

「あぁ」


 木々を見上げ佇むカスケードからは、何か神妙な雰囲気を感じた。

 確かに微風は吹いていた。だがカスケードに言われて初めて感じるほどだった。


「この風がどうしたんだよ? まさかお前、臭いで追える力とか使えるのか?」


 カスケードは現在、砂からピストルを作る、葉っぱから煙草を作る、石からライターを作る、石からパチンコ玉を作る、くらいしか出来なかった。しかし聖刻が馴染んでくると様々な力が使えるようになり、あれから一週間ほど経つ今のカスケードなら、いい加減しょうも無い以外の新しい力の使い方を覚えていても不思議ではなかった。

 そう思っていたのだが……


「そうじゃない大将。小便をしようと思ってな」

「えっ?」

「風があると自分に小便が掛かるかもしれないだろ?」


 見るとカスケードは、既に発射体制に入っていた。


 こいつは糞だ! 今この流れで立ち小便をしようと思うその心は、一体何を目指してんだよ!


 カスケードの言う事やる事は一切信用ならなかった。そんなカスケードは、残念ながら俺の仲間。終始多難な相棒だった。


「もっとあっち行ってすれ!」


 カスケードは最初にピストルを作った。他にも足や指を失くしている事や、肝が据わったを通り越した心の安定感があることから、それなりにヤバイ人生を歩んできたことは分かる。だけど……何がこうなってこんな性格になったのかは一切不明で、このカスケードしか知らない俺からしたら、やっぱりただの駄目なおっさんだった。

 そんでも神様が選んだ俺の仲間。これは、俺には魔王を倒させないという啓示以外の何物でもなかった。


「それにしても困ったな……」


 現在俺が支配できる範囲は、最大で七十メートルほどまで広がっていた。これを使い広い範囲で捜索も可能なのだが、どうやらこれは相手にも感知されるデメリットがあり、最悪の場合相手には敵意として認識される。

 ここへ導かれた理由は、多分新たな仲間と出会うためだとは思っているのだが、もし敵だった場合は、下手をすれば一気に戦闘になるため、あまり多用は出来なかった。


「大将。どうやらこの辺りで間違いないようだ。臭いがする」

「…………」


 カスケードは小便をしながら言う。だから自分の臭いでまた頭でもおかしくなったと思い、無視した。


 小便を終えると、カスケードは一回ホッとして、それから動き出した。


「こっちだ」

「…………」


 全く信用ならなかった。だけど今は少しでもヒントが欲しい状態。ここでどうするか考えているよりはマシかもしれず、とにかく付いて行った。


 しばらく森の中を歩くと、カスケードは足を止めた。そしてまた臭いを探すように辺りを見渡した。


「こっちだ」


 これは非常にマズい状況だった。多分このままカスケードに付いて行くと、パチンコ屋に行き着く。カスケードという男は、そういう漢だ。そう思っていると、今回はどうやら本気だったらしい。


「あれか……」


 カスケードが足を止めた先には、大きな岩があった。その下にはもたれかかる様に座り込んだ人影があった。


「ふぅ~……今回はハズレか……」


 人影に近づくと、そこにはぐったりとした男の姿があった。男の肌は真っ白になり、服に付いた大量の血は乾いていて、虫が周りを飛び回っていた。手元には武器にでも使っていたであろう拳銃が落ちており、完全に魂の抜け殻だった。


「多分聖刻の奪い合いで負けたんだろう。僅かだがまだミカエル様の聖刻の気配がする。おそらく昨日の晩か、今朝やられたんだろう。少し遅かったな」

「だろうな。でも良かったじゃねぇか。こいつも拳銃使いだ。こいつが生きてたらオメェ荷物持ちくらいしか役目無かったぞ?」

「大将。俺は拳銃使いじゃない。俺がいつ拳銃を使った?」

「この間持ってたじゃねぇか?」

「アレは拾ったんだ」

「嘘つけっ!」


 この意味の無い嘘。こういう所がカスケードの駄目な所だった。


「とにかく次行くしかない」

「無駄足だったな」

「オメェとつるんでから無駄足には慣れたよ」

「そうか。そう褒めてくれるとはありがたい」

「褒めてねぇよ!」


 この森に来るまでに失った時間はデカい。しかし弱い仲間を得るよりはマシだった。これも俺とカスケードが聖刻を馴染ませるための期間と思うしかなく、直ぐに次へ向かうしかなかった。

 そんなガッカリした時だった。


“ダンナ。それはちょっと酷過ぎねぇか?”


「ん?」

「どうした大将?」


 脳に直接語り掛ける声。カスケードには聞こえない。間違いなく俺だけに話しかけていた。

 しかし辺りを見渡しても姿はなく、気配も未だに感じない。


 この不思議なまでの感覚に驚いていると、突然岩の裏からキンッという鉄の音が聞こえ、ジュボッという音が聞こえてきた。

 これに直ぐにカスケードにスイッチが入り、さっき『俺がいつ銃を使った?』と言っていたにも関わらず、拳銃を作り出した。


「誰だ。出てこい」


 頼もしいんだか頼もしくないんだか良く分からない男カスケードは、そう言うと拳銃を突き出した。


“おいおい、随分と不躾だな相棒? これから共にダンナの御供になる仲だろ?”


「…………」


 やはりこの声はカスケードには聞こえていないらしい。その証拠にカスケードは一切反応を見せない。


 そうこうしていると、どうやら岩陰に居る人物は煙草を吸っているようで、紫煙と共にタバコ臭さが漂ってきた。


「葉巻とは随分と洒落てるじゃないか。だが大将はそれほど暇じゃない。さっさと出てこい。それが最後の一服になるぞ?」

「落ち着けカスケード」

 

 目の前に死体。聖刻者二人を前にしても余裕の一服。これだけの相手にカスケードが臨戦態勢に入るのは分かるが、まだ話し合いが通じそうなだけに、慌てる必要は無かった。


「お前が俺たちを呼んだ聖刻者か?」


“それは分かんねぇ。ここに居たらダンナがやって来た。だから俺はダンナに付いて行くと決めた。それだけだ”


 こいつに俺たちは導かれたのか、はたまたそこにある人間だった物に導かれたのかは分からない。もしかしたらここで勝ち残った方と出会うために、ここへ導かれたのかもしれない。

 ただ言えるのは、既に存在を認識していてもなお完璧に捉えられない気配を放つ実力者なら、喜んで仲間に加わって欲しいくらいだった。


「まぁいいや。とにかく先ずは姿を見せてくれ。お互い顔を見て話をした方が早い」


“俺の顔なんて見ても何の価値も無いぜ? ……まぁ、ダンナが望むのならしょうがない……”


 かなり癖はあるが、どうやら悪い奴ではないらしい。俺が頼むと渋りは見せたが、やっと岩陰から出て来てくれた。


「えっ⁉」


“ほらな。俺はダンナが望むようなべっぴんなんてもんじゃない”


 俺たちが驚いたのは、そういう事じゃなかった。

 姿を見せた時、最初は背中の丸まった小さい爺さんが出てきたと思ったが、全部出てくるとそれ以上の存在、まさかのチンパンジーだったからだ。


「お、おいおい、大将。こいつは本当に間違いないのか……?」


 葉巻を咥えたチンパンジーには、さすがのカスケードも困惑していた。だがそれ以上に困惑した俺は、現実を受け止められずに、“こいつは誰かのペットだ!”と思い岩陰を確認するほどで、本心では出来ればいい匂いがする女性を求めてただけに大きな衝撃を受けた。


“おいおいダンナ、残念ながらここには俺以外誰もいないぜ? 諦めな”


 俺は既に命を司る存在。そんな俺にしてみれば女も男も、人間も植物でも、どんな形であれ同じ。だけど俺は人間であったリーパー・アルバインでもある。その人間時代の感覚がどうしてもこのチンパンジーという事が気に入らず、深いショックを受けた。


“まぁそう気を落とさないでくれダンナ。俺だって歩くのならべっぴんが良い。だけどそれは、この戦いが終わった後の楽しみとして取って置こうや”


 チンパンジーに心中を見透かされ、同情までされる。おそらくこの戦いで最も大きな傷を受けた瞬間だった。

 だがこのチンパンが言う事も一理ある。この戦いが終われば俺たちは英雄と呼ばれる。そうなればいくらでも別嬪さんを連れ歩くことが出来る。本当ならマリアたちみたく、神聖さがあり礼儀正しい蛇とか、カッコいい鷹とかフクロウとかが良いが、今は辛く長い旅の途中だと思い、その言葉を胸にまた前を向くことにした。


 ジャンとの戦いの後、普通にマリアたちと別れたので描きませんでした。リーパーとマリアが争わなかったのは、互いに疲れたという事と、まだマリアが聖刻を得たばかりということで奪い合いにまで発展しませんでした。それに、聖刻には奪い合うにも相性があります。特にマリアとリーパーは同系の能力を扱うため、あまり引き付け合いませんでした。ちなみに、リーパーの治癒能力はほぼレベル上限です。

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