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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
124/186

選ばれし者

「待たせたな大将」

「カスケード!」


 ジャンとの戦いはいよいよ大詰めを迎えていた。そこへ登場したのが、まさかのカスケードだった。


「お前、今出てくんなよ!」


 あと少しでジャンを倒せそうなこの状況でのカスケードの登場には、嫌な予感がした。そんな事など全然気付かないカスケードは、いつものように煙草に火をつけだした。


「そう毛嫌いしないでくれ大将。別に大将にそんな趣味があっても、俺は気にしない」

「そういう事じゃねぇよ!」


 一応俺に選ばれた人間。ほぼ百パーセントと言っても過言ではないくらいフウラの姿になっている俺でも、カスケードには気配ではっきりと分かるらしい。


「とにかく一回祠に戻れ! 今日はお前の出番はねぇんだよ!」


 気配的にはどうやったのかは知らないが、カスケードは一時間足らずの間でウリエル様から聖刻を授かって来た。だが戦力としては期待できず、下手をすればジャンに聖刻を奪われてパワーアップさせてしまう可能性も十分あった。

 この短時間で聖刻の試練をクリアしてきたセンスは認めるが、今のカスケードでは足手まとい以外の何物でもなかった


「そう言うな大将。たまには青保留に期待してみるのも悪くないだろう?」


 フウラの姿のせいか、かなり本気で言っていても伝わらないようで、カスケードは意味の分からない事を言う。


 そんな意味の分からんことばかり言うから、案の定戦況が一変した。


「素晴らしいお連れ様です」


 カスケードがまだまだ何か言いそうだったが、ここでジャンが声を掛けてきた。それも、あれほど取り乱していたのに落ち着きを取り戻しており、体はボロボロだが放つ雰囲気は前以上に堂々としている。

 阿保のカスケードのせいで、どうやらジャンは本来の頭の回転の速さを取り戻していた。


 そんな事も分からないカスケードは、また変な事を言うのかと思っていたが、意外や意外、こっちは完全に臨戦態勢に入っているようで、今まで見せた事が無い顔を見せた。


「随分と礼儀知らずだな。お前の相手は俺だろ?」


 そう言うとカスケードは拳銃を作り出し、慣れた手つきで片手でクルクル回しながらジャンに銃口を向けた。


 咥え煙草に左手はポケットは様になっていて、相当銃の扱いに慣れているカスケードはこれが本来の姿なのだと認識させた。


「この借りは高く付くぜ、兄ちゃん」


 あの拳銃はおそらくウリエル様の力で作った物。形状はリボルバーに見えるが、その性能は未知数。

 もしかしたらカスケードは思っていたよりもそっちに精通した人間だったのかもしれない。そう思うと、意外とカスケードは戦力として数えても問題が無さそうだった。


 空中移動が出来るようになったツクモ。魔法で上回るフウラ。そして遠距離から攻撃できるカスケード。今の傷だらけのジャンを相手にするには申し分なかった。


 これでいよいよ決着。これだけの戦力差があればそう思ってしまうのだが、やはりジャンは相当な実力者で、ここで手のひらを返した。


「申し訳ありませんが、今はこれ以上持ち合わせがありません。借りは今しばらくお待ち頂きたい」


 完全に戦闘態勢を解いたジャンは、無防備に姿勢を正した。それを見ても銃口を外さないカスケードが訊く。


「どういう意味だ? 今のお前さんには十分持ち合わせがあるように見えるが? 置いてくもんは置いてく、それが礼儀ってもんじゃないのか?」

「それならもう、貴方のボスにお渡ししてあります。今回は私の左腕一つを頭金として置いて行きます」


 俺が狩り取ったジャンの左腕。見た目的には火傷を負った右腕の方が重傷に見えるが、あのジャンの言い方だと、それ以上のダメージがあるらしい。


「そして、この左腕の貸しは、必ず取り返させてもらいます」


 おそらくジャンのあの左腕は、もう感覚すらない。じゃなきゃあんな殺意に満ちた目をジャンは俺には向けない。


「今回は残念ながら痛み分けで終わりましょう」


 ジャンはこの状況を冷静に判断し、撤退を決めたようだった。それは、ここでいまジャンを倒しておかなければ後々面倒になる事を知っているが、これ以上の被害を被りたくない俺としては賛成だったのだが、折角チャンスを掴んだツクモには納得できないようだった。


「何勝手に決めてんの? あんた、私たちにも借りがあるのよ?」


 ここまで来れば、後はツクモ一人でもなんとかなるだろう。しかしカスケードのパワーアップ以外こちらにはメリットが無い。寧ろこちらにはフウラを失うデメリットの方が大きく、やはりこれ以上の戦闘は回避したかった。が、今の俺じゃあ絶対ツクモを止められなかった。


 まだまだやる気のツクモ。さらに地上からもやる気満々のカスケード。再び不穏な空気が流れ、ジャンも臨戦態勢に入った。

 

 そこへフウラの声が飛ぶ。


「もう十分ですツクモ! ここはお互い手を引きましょう!」


 まさかの助け舟。考えてみれば、気の優しいブレハートの血を引くフウラからしてみれば、これ以上戦いたくない気持ちは分かる。今回はその優しさが味方してくれた。


「何言ってんのよ! リー……本当に良いのフウラ! 今ここでコイツ逃がしたら、また悪さするんだよ!」


 俺とフウラは、今姿形が入れ替わっている。それを忘れていたツクモは、一瞬強い言葉で否定した。それを見て“ほらやっぱり”と思うと同時に、ツクモの俺に対しての当たりの強さに、結構な心的ダメージを負った。


「大丈夫です! 彼はもう、聖刻狩りなどという姑息な事はしません!」

「そんな事分かんないじゃない!」

「分かります! 彼は今、己の非力さを実感しました。それは聖刻の力ではなく、己の実力です。そんな彼が、再び聖刻狩りをして強くなっても意味が無いことくらい理解しています。そうですよねジャン? 貴方はその程度の人間ではないはずです」


 この素直に相手の事を認める純粋さ。フィーリア様がブレハートを選ぶ理由に納得だった。


 この清々しさには、逡巡したが流石のツクモも反論は出来ず、静かに刀を下ろした。


「ジャンとか言ったっけ? あんた、今回はあんたの負けよ。フウラに感謝しなさい」

「分かっています。ですが、私が負けたのは賢者様ではありません。貴女たちのチームにです」

「何それ? 負け惜しみ?」

「違います。個としては、ここに居る誰にも私は負けはしないでしょう。しかし結果は私の負け。これほどまでに結束された力が強いとは思っていませんでした。見事なチームワークでした」


 例え格上の聖刻を持つ俺やマリアが相手でも、一対一なら負けなかった。皮肉にも取れるジャンの発言だったが、その表情には陰りは一つも無く、素直に称賛する降参だった。

 その表情から、いずれは邪魔になると思っていたジャンだったが、もしかすると大きく成長し、この先頼りになる“仲間”になりそうな期待が持てた。


 これにはカスケードもそう思ったのか、俺の顔を見てもう戦う意思が無い事を確認すると、拳銃を下ろした。


「兄ちゃん、次に来るときは先ずは俺からだ」

「貴方の名は?」

「俺に名前なんて大層なもんは無い。必要だったかい?」


 すっかり丸くなったカスケードの言葉に、ジャンは笑みを見せた。


「いいえ。もう私にも必要なくなりました。貴方には感謝しています。もし貴方が現れなければ、私は感情に任せここで終わりを迎えていたでしょう。その感謝を込めて、いずれ貴方へ挑みます。そして、彼を倒した後、もう一度貴女たちへ挑戦します。賢者フウラ、その時までに聖刻を手に入れておいて下さい」


 ジャンはそう言い、俺の姿をしたフウラを見た。どうやら俺との戦いは既に決着済みらしい。


「分かりました。ただ一つ覚えておいて下さい。私が授かる聖刻は、フィーリア様の物です。再び私に挑もうと思うのであれば、覚悟して下さい」


 一応言っておくが、フィーリア様の聖刻は、聖刻中最強らしい。その強さ足るや、アズ様の聖刻ですら手も足も出ないくらい強いらしく、この世の法則さえも変えられるくらいヤバいらしい。

 例えジャンがこの先大天使様クラスの力を手に入れたとしても、フウラが聖刻を手に入れれば圧殺されるだろう。


 ただフウラは、嫌味でもなんでもなく、自分も力を付けるという意味で言った。この堂々たる姿勢が、ジャンから蟠りを完全に消した。


「ありがとうございます。貴女の情けには感謝致します。今回はこの両腕という安い物ですが、これで御勘弁願います」


 ジャンがどれほどの回復力を持っているのかは知らないが、両の腕に受けた傷は決して安い物ではない。それを安いと言うジャンは、フウラの情けに本当に感謝しているようだった。


「それでは失礼します。また会う機会を楽しみにしています」


 そう言うとジャンは、軽い会釈をして去って行った。


 俺たち五人を相手にして善戦し、カスケードの助けはあったが選択を誤らなかったジャン。さらにあれだけやられても素直に負けを認め、己に足りない物に気付き感謝までした。

 普通なら、例え逃げても憎しみを抱きそうなものだが、それを反省点とするジャンは、やはり聖刻に選ばれるだけの人間だった。


 どうかは知らないが、もし再びジャンが俺たちの前に立ちはだかる時が来たら、間違いなく強敵となるだろう。もしくは、仲間として加わるなら、とても頼もしい仲間となるだろう。

 

 この先どうなるかは分からないが、去り行くジャンの背中には怒りも憎しみも感じず、ただちょっと、期待に似た感情を抱かせた。


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