表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
123/186

山場

「じゃあ皆行くよ! 準備は良い!」


 ジャンの強力な水魔法により、俺たちは水中に閉じ込められた。それを利用して、マリアが考えた水中からジャンを狙う魚雷作戦が始まった。


 全員は既にマリアの力で、高速水泳能力プラス、エラ呼吸まで可能な肉体に変化しており、準備万端だった。

 後は皆の心の準備次第だったが、肝だけは据わっているメンバーだけに、ツクモの声に全員が頷くだけだった。


「皆死なないでよ。じゃあ行くよ!」


 ジャンが何のために俺たちを水中に沈めたのかは、フウラでも読み切れてはいなかった。ただあのジャンが無意味にこんな事をするはずが無く、何かの準備の可能性は十分あった。

 それが何かは検討も付かず、ここから先は時間との勝負だった。


 それを理解するツクモは、一言声を掛けると迷わずバリアを解いた。


 ツクモがバリアを解くと、一気に物凄い水量に襲われた。さらに水圧も一気にかかり、普通の人間なら間違いなくパニックになる圧に襲われた。しかしマリアの水中適応の変化は物凄く、それほどの圧力を受けても直ぐに体が適応し、ほとんど間もなく皆は一斉に散り散りになった。


 見上げると水位は、俺が立っても二人分くらい、おそらく三メートル。それでも今の体では低いと感じるほどだった。

 これではいくら浮力を利用してもまだまだ水位は低い。それを補うために、フウラが魔法で一気に水位を上げる。


 基本的に俺たちは、ジャンに的を絞らせないように散り散りになる作戦だった。しかし念のためにフウラ、ムーさんはいつでもマリアが治療できる距離で戦う。その距離を利用して、フウラは命一杯魔力を使って水かさを増す。


 フウラの魔力、技術は、ジャンに引けを取らないどころか、完全に上回っている。それを証明するように、あっという間に水位が上がっていく。


 その上昇に合わせ、先ずはツクモ魚雷が飛び出した。


 ツクモは、俺のような広い探知能力を持たない、はず。それなのに真っ先に飛び出した姿には、格好良さを感じた。


 空中に飛び出したツクモは、案の定ジャンから離れた位置に打ちあがり不発だった。だが流石はミカエル様の聖刻者だけあって、空中にバリアを作り、それを足場にして軌道を変えた。


 この急変化にジャンは間一髪で対応し避けられるが、この作戦の肝は水中からの連続攻撃。マリアに回復してもらったフウラが、すぐさま水弾魔法の連射で追い打ちを掛ける。

 それに合わせ、まさかのムーさんが突る。


 フウラの水弾はジャンの魔法障壁で防御された。しかし数うちゃ当たるで打ったフウラの水弾に隠れたムーさんが背中からジャンを襲う。


 ジャンもまさかの空から白蛇は考えになかったようで、ムーさんまさかの一噛み。それも見事に右の耳に噛み付いた。

 これにはさすがのジャンも驚いたのか、慌ててムーさんを掴むとそのまま放り投げた。これによりムーさん、歯は折れたようだが無事生還。


 だがこれでジャンにムーさんの毒が回った。ムーさんが一体何の毒を持っているのかは知らないが、もしかするとこれでフィニッシュしてもおかしくは無かった。  


 そんなムーさんの大活躍に歓喜していると、やはりヴァリーにまでなったジャンにはそんなものは効かないようで、噛まれた事などどこ吹く風だった。ただ、やはり無敵というわけでは無いようで、ジャンの耳にはムーさんが噛んだ跡がくっきりと残っていた。


 やはりマリアのチームは強い。こんなに実の妹が強い事には誇らしいが、俺も負けていられない。次は俺の番だった。

 そう思い突撃の準備をしていると、どうやら神様は俺を主人公にはしたくは無いようで、なんでか俺の番の時に限って、戦況が変わり出す。


 浮力を活かすため湖底まで潜り見上げると、突然水位が下がり始めた。それは湖底からでも明らかに下がっているのが分かる程で、なんでか俺の時だけ、何もさせてもらえなかった。


 そんなんいきなり起こったから、訳が分からず何もできずにいると水位はどんどん下がり、気付くと逆に俺たちはピンチになっていた。


 無くなった水は、全部ジャンが吸収していた。正確には、あれだけあった大量の水で翼とアーマーと剣を作っており、光をも遮断するほど凝縮された水によって装備を固めたジャンは、まるで暗黒騎士のような姿になっていた。

 おまけに水が無くなってしまった俺たちは孤立状態で丸裸にされた挙句、マリアの力で河童っぱにされた姿まで見られてしまった。


「随分とお待たせしました。海水浴はご満足頂けましたか?」


 ウリエル様の翼にさらに一対の黒い翼。鎧のように身にまとう黒紫色の水の鎧。そして、鎧以上に黒い漆黒の剣。

 特にあの真っ黒な剣は、一体どれほどの重量があるのか分からないほど水が凝縮されていて、ツクモのバリアでも防ぎきれるのか不安になる程のプレッシャーを感じた。

 

「さて」


 俺たちの位置を確認するように視線を動かしたジャンは、とても落ち着いていた。そこには心の余裕を感じたが、どうやらそうでもないようで一気に勝負を掛けてきた。


 ジャンが狙ったのはフウラ。魔法では勝てないと思ったジャンは、一変して距離を縮めての剣での直接攻撃へと切り替えた。


 防御ではツクモ、魔法ではフウラ、回復ではマリア、そして殺しても死なない不死の力を持つ俺。この中では最も脆く、攻撃の起点となっているフウラを、それも直接狙うというジャンの判断は、今この場においては決定打だった。フウラがやられれば、もう俺たちに勝機は無い。


 急降下で一直線にフウラに向かうジャン。その速度は速く、離れ離れになり、さらに水中に適した体になっていた俺たちには止められるはずも無かった。

 

 フウラは俺よりも身体能力が低く、間違いなく俺よりも喧嘩は弱い。それだけでもマズいのに、ジャンが持つあの剣は容易にフウラのバリアを突破出来るだけの力を持つはず。

 まさかジャンがこんな局面まで作り出すとは思ってはおらず、勝手に離れ離れになった俺たちの完全なるミスだった。


 降りてくるジャンはもう止まらず、剣を振り上げ切りつけ体勢に入った。この状況ではもうフウラは助からない。ジャンの勝ちだった。間違いなくジャンもそう思っただろう。


 それが、まさかの俺たちの勝利への布石だった。


 降りてくるジャンは勝ちを確信したのか歯を見せた。その斬り付けようとしているフウラが、マリアの力で変装した俺だとは気付かずに。


 この戦いにおいてフウラが主軸となっているのは、ジャンだって俺たちだって分かっていた。そして、恵まれて育ったジャンが、今までの人生において思い通りになって来たのは想像できていた。だからこそ、ここまで簡単にフウラを倒すチャンスを与えれば、必ず慢心する弱点も見抜いていた。

 なんだかんだ言って、この状況を作り出したのは俺たちの方だった。


 俺の支配圏三十メートルに入ると、ジャンはやっと気づいて目を丸めるが、あの重たい剣のせいでもう止まれない。


 ここが俺たちにとっても、ジャンにとっても、最大の山場だった。


 このチャンスは絶対に外せない元より、もう一切の慈悲は無く、ただ破壊だけを目的とした俺は、右手を鷹の足のように広げ爪を刃物とする魂を刈る死神の鎌で、ジャンの攻撃は一切無視して相打ち上等で魂を刈り取る。

 もう止まれないと判断したジャンは、直ぐに覚悟を決めたのかそのまま攻撃を続行するつもりらしい。


 この勝負、リスクは一切無い俺の勝ちだった。


 そんな気持ちが殺気を出し過ぎたのか、直前になってジャンは防御へと回った。


 心臓を狙い俺が腕を振り出すと、ジャンは左腕でそれをガードした。ジャンは左腕に俺の攻撃を受け、俺は一切傷を負わなかった。だが千載一遇のチャンスを逃したのは、ジャン以上のダメージを俺たちに与えた。


 高速の交差により攻防が終了したジャンは、そのままの勢いでまた手の届かない空中へと逃げた。そして逃げて、表情を歪めながら左腕を抱きかかえていた。


 魂を刈る死神の鎌。今の一撃ならあのブロリーからでも魂を刈り取れる自信があったし、手ごたえも十分あった。実際それ以外の場所に当たった場合どうなるかは知らなかったが、さすがはアズ様の鎌だけあってかなりのダメージをジャンに与えたようだった。


 しかしチャンスを逃したことは間違いなく、この失敗は大きな精神的ダメージを俺に与えた。


「くそっ! もう一度掛かって……」


 普通なら今の失敗で終わり。所詮実力の無い俺なんて、フウラの声で罵声を浴びせて、後は逃げて終わり。だけど今回はそう上手くは行かなかった。

 こんな千載一遇をあのマリアパーティーが逃すはずが無かった。


 ジャンが空中に逃げ腕を抱えた瞬間、超巨大なフウラの魔法弾がジャンを襲った。

  

 これにはジャンも一瞬反応が遅れ、咄嗟に剣を出し防御しようとしたのが見えたが、どうやら間に合わなかったようで、大爆発と共に真っ白な煙が舞い上がり、温い大雨を地上にもたらした。

 そして煙幕が晴れジャンが姿を見せると、剣と鎧のほとんどを失い、上半身に大きな火傷を負っていた。


 それでもまだ終わらない。


 何とか耐え切ったジャンが本性を現し『許さんぞゴミどもが!』と叫んだ瞬間、いつの間にか空に昇っていたツクモが、背後からジャンを襲う。それを流石はここまで戦えるだけあって、ジャンは間一髪避ける。


「はぁ、はぁ、はぁ……ゴミどもが調子に乗るな!」


 俺たちの猛攻を凌いだジャンは、何とか安全な距離を確保し、吠える。だが俺とフウラの攻撃で、左腕は力なく垂れ下がり、右腕は痙攣するほどの火傷を負い、体も傷だらけ。さらにツクモは、ミカエル様のバリアで空中に足場を作ることが出来るようになったようで、ジャンは制空権まで失い始めた。


 俺の一撃で勝負を決められはしなかったが、大勢はほぼ決したような物だった。


「もう諦めたらあんた? あんたのお陰で、私はこういうミカエル様の力の使い方見つけられたから感謝してるけど、もうあんたは終わりよ」


 ジャンとは違う形で空中浮遊? が出来るようになったツクモは、浮くというよりも立つと表現した方がしっくりきた。

 あれなら地上と変わらない動きが出来そうで、両腕の使えない今のジャンを倒すのには、ツクモ一人でも十分そうだった。


「これで勝ったと思っているのか」

「いいえ。あんたの首をはねるまで、勝ったなんて思わないわ。ただ、あんたのせいで失くした脇差分はきっちり払ってもらうから」


 そ、それは確かにジャンのせいだけど、失くしたのは俺だから! ごめんツクモ!


 ツクモに借りた脇差は、いつの間にか無くなっていた。貸してくれるから深く考えなかったが、意外と大切な物だったと知ると、ちょっと血の気が引いた。


 ま、まぁそれでも、ジャンが悪いのは変わらないから……やっぱり今考えるのは止める。


「さぁどうすんの? 降参する? それとも私と斬り合う? 言っとくけど、強いよ私?」


 斜に構え、首をクッと傾けると、ここからでもツクモの目が座ったのが分かる程、放つ雰囲気が変わった。


 これに対し、思った通りのジャンの二つ目の弱点が顔を出す。


「頭の悪いガキが調子づいたか。いいだろう、お前から殺してやる。俺の全力でな!」


 距離によるアドバンテージを失ったジャンが、運動能力が圧倒的に勝るツクモに勝てるわけが無かった。

 だが今まで全てが思い通りになって来たジャンだからこそ、自分が思い通りにならない展開になると冷静さを失う。

 ジャンを見ていてずっと思っていた。ジャンは確かに勝ち組だが、失敗が少ない。だからこそ一般人とは違う物の考えがある奴だと。それは俺の友達にもいた……


 家が金持ちで、塾や習い事で全く一緒に遊ばない奴。確かにテストは毎回満点、運動も学校で指折り、おまけに趣味でギターが上手く、有名ブランド品を持っていた。高校も推薦だし、将来は有名大学に行くとも言っていたし、顔もそこまで悪くない奴で、ゲームはしないし、ニュース見るし、漫画見ないで小説読むなんて言っていた。あ、別にキリアの事じゃないよ。


 そんな文武両道の彼は、自分は選ばれた人間みたいな雰囲気あったし、モテて当然という感じだったのだが、ある日、テストで零点を取ったことがあった。友達曰く、解答欄を一つ間違えて書いたせいでそうなったらしいのだが、何故か彼はたかが学校のテストで零点取ったくらいで涙を流し、三日学校を休んだ。そんな彼にジャンは似ていた……って何の話⁉ ってなったので、まぁそんな感じでジャンはそうじゃないかと思っていた。

 それがピッタリはまり、彼には感謝した。……っていう話。じゃなくって、この弱点のお陰で、明らかに不利な状況でもまだ戦う姿勢を見せ、きっちりここでジャンを仕留められそうだった。


 そう思っていたのだが、ここで予期せぬ出来事が起こる。


「随分と待たせたな。大将」


 ここでまさかのカスケードの登場だった。


「ん? 大将、随分と可愛い姿になったな?」

「お、お前、なんで今出てくんだよ!」

「フッフッフッ、ヒーローは遅れて登場するもんさ。なぁそうだろう可愛い大将?」

「きめぇな!」


 本当に空気の読めないカスケードの登場で、また状況は一変する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ