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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
120/186

共闘

「お話は終わりましたか?」


 ツクモ、フウラ、マリア、ムーさん。運良く駆け付けた四人のお陰で、強敵ジャンを倒すため、俺たちは共闘することになった。


「あぁ、随分待たせた。ここからはこの四人も加えさせてもらう。卑怯なんて言うなよ?」


 俺、マリアのアズ神様の聖刻者二名。ミカエル様の聖刻者ツクモ。そしてまだ聖刻は持たないが賢者の称号を持つフウラ……あと、白い蛇。

 数も力も、戦力的には圧倒的に勝る俺たち。それに対してウリエル様の聖刻を持つジャン一人との構図は、人間的には卑怯以外の何物でもない。だが、これはスポーツではない。勝ってなんぼの殺し合い。

 勝った所で聖刻が手に入る訳ではないが、俺もマリアたちもウリエル様の聖刻狩りという脅威を排除しなければならない状況だけに、ここは是が非でも勝たなければならなかった。


「構いませんよ。これで十分楽しめそうだ」


 余程ジャンは自信があるらしい。これだけの差がありながらも、俺と戦っていたとき以上に目を輝かせる。


「んじゃ、遠慮なく行くぞ」

「ではこちらも、手加減は致しません」


 そう言うとジャンは、俺でも見えるほどの青白い光を纏い、一気に魔力を高めた。それを受けてツクモはマリアたちを守る結界を張る。


「準備は良いですかリーパー? 今からリーパーを空へ打ちあげます」

「フウラは大丈夫なのか? アイツの魔法はかなりヤバイぞ?」

「誰に言っているんですか? 私は魔法の専門家です」


 フウラのこの自信。これはヒーが絶対の自信があるときだけ放つ言葉に良く似ていた。それがとても心強かった。


「なら背中は全部預ける。だからフウラも俺に気にせず、思い切り行け」

「分かりました。私もリーパーは死なないという言葉を信じて、全力で行きます」


 とても心地良い共鳴感。何も気にせず前だけ向いて物事に当たれるというのは、集中力をとても高める。そのうえ俺の言葉を聞いて、吹き飛ばされそうになるほどの魔力を放ち出したフウラはとても頼もしく、共闘する楽しみさえ出てきた。


「すげぇ魔力だ。流石賢者。んじゃ、遠慮なく思い切り空へ打ち上げてくれ」

「分かりました。行きます!」


 フウラは体の前でロッドを横にして集中する。その時間も流石賢者。流れるような動きの中で行い、直ぐに俺にロッドを向けて空へ打ち上げた。


 フウラの魔法は本当に優しく、爆風で飛ばされることは無く、まるでエレベーターに乗ったような、靴の底が迫り上がるような感覚で俺を空へ運ぶ。その速度も凄まじく、見ため的にはロケットのように飛ばされる。だがそれだけの速度でも一切俺の体には負担は掛からない。


「こいつはすげぇや! これなら十分援護できる!」


 打ち上げられた俺は、ジャンの遥か上空まで昇った。そこで降下し始めるタイミングで翼を広げると、かなり後方へと引っ張られたが上手く風に乗れた。これを利用して滑空しながらツクモに借りた脇差しでジャンを狙えば、かなりの援護が出来る。そう思いやる気を出していると、多分フウラはあまり俺に期待していないらしく、打ちあがった俺に気を取られたジャンに対し、いきなりの先制攻撃を始めた。


 立ち上る炎の竜巻。その規模は、本当にジャンをピンポイントで攻撃するために絞られているようで、柱のように上がる。だけどその高さと熱量は尋常ではなく、かなり距離がある俺でも軽い火傷をするほどだった。さらに言えば、その熱風はさらに俺を押し上げるほどで、なんか、フウラは……本当は俺の事が邪魔なんじゃないかと思うほどだった。


 そんな脅威の竜巻だったが、ウリエル様の聖刻を持つジャンの実力も確かなようで、その炎を上手くコントロールして、自分のロッドの先に炎の球体を作り出した。そしてそれをフウラに投げ返す。


 球体はかなり大きく、まるで小さな太陽。そんな物をまだ聖刻を持たないフウラが喰らえばひとたまりもない。だが流石賢者。今度はフウラがその球体をいとも簡単に弾け散らかし、飛び散った火の粉を無数の矢に変えジャンに打ち返す。

 ジャンは近づく矢を、まるで時間が停止したように止め、最後は花火のように火の粉として地上に降り注がせる。


 俺って必要⁉ 


 超ハイレベルな魔法対決。聖刻者相手に互角の勝負をする賢者フウラの実力の前では、なんで俺この戦いに参加してるの? と思ってしまうほど、寂しい気持ちになった。


 それにさ。今ここでチャンスだ! 的に思ってさ、後ろからジャンに襲い掛かってもさ、絶対空気読めないヤムチャみたいに一瞬でやられるじゃん? なんかさ、朝の会で俺だけ前に立たされて、先生に怒られてるみたいな、嫌な気持ちになった。


 そんな俺とは対照的に、ジャンとフウラは楽しんでいるようで、なんかさ、もう俺のこと忘れたみたいに楽しそうに会話する……けどさ、こんだけ離れてて、風の音あるとさ、何言ってるかも聞こえないしさ、そりゃ指モジモジしたくなるよ!


「…………」

「…………」


 二人は何か言ってる。それもフウラは笑顔見せるほどで、強者同士の良い雰囲気だった。そんな二人の遥か先に、あのラクダ二匹を見つけると、ちょっと救われた気がした。


 雨上がりの砂漠の快晴の空は、気持ちが良かった。聞こえるのは風のひゅ~っという心地良い音で、遥か彼方まで続く砂の大地は絶景だった。そこをジャンを中心にやっと軌道に乗ると嫌な事を全て忘れさせてくれた。


 よ~し! 解説役に回るか!


 多分俺は必要ない。そうなると全体を俯瞰できる位置にいる俺の仕事は、魔法は良く分からんがそれくらいしか役目が無かった。


 俺が解説役に回るとそれを察したのか、また戦闘が始まった。


 今回先に仕掛けたのはジャンだった。ジャンはかなりの大技を放つようで、しっかりと詠唱を始めた。そして完了すると大きな炎の龍を造り出し、フウラに向けて放った。


 炎の龍は見た目だけ派手なただの魔法ではないようで、生き物のような動きをし、意思があるかのように真っ直ぐフウラには向かわず、とり囲むかのように周りを回る。


 それは先ほどのフウラの炎の竜巻以上の熱の大きな渦を作り、ここからでも中心にいるフウラが揺らぐほどの熱を作り出したのが分かった。

 それでもフウラにとってはこの程度の熱では熱さも届かないようで、魔法の障壁の中で平然とジャンを見つめる。


 そんな中で、一瞬フウラと目が合った。多分フウラは何かを俺に伝えている。多分何か、援護すれか、ジャンの隙を作るから攻撃しろか、多分どっちかの指示を出している。だが残念なことに、何かを伝えているが何も分からない。だから仕方ないから、とにかく分かったと頷き、いつでもジャンに飛び掛かれるように準備した。

 

 すると多分全然違ったようで、フウラはここで一気に魔力を高め、ほんと全然詠唱なってしたかどうかなんて分からないくらい早く巨大な魔法を発動させた。


 超広範囲に渡る、地面からの岩石の柱の隆起。そのどれもが巨大で、柱が地面から飛び出して来た時はそれほどの速度は無かったが、ある一定以上の高さまで来ると突然加速して鋭い槍と化し、炎の龍と、ジャンと、俺を襲った。


 この予想外の規模の魔法にはさすがのジャンも防御に回るしかなく、この予想外の規模の魔法には、さすがの俺も当然串刺しにされた。


 なんてこったい……一回死んだし、折角マリアに貰った翼も穴開いちゃったぜ。


 多分フウラは“危ないから気を付けろ”または“邪魔だから逃げろ”と言っていた。それすらも理解できず串刺しにされるとは、まだチャオズの方がよっぽど役に立った。


 しかしこれで柱とはいえ足場が出来た。これをうまく利用すれば身を隠しながらジャンに近づける。多分フウラは今の魔法でほとんど魔力を消費したはず。これは多分、フウラからの止めを刺せの啓示に間違いなかった。


 そう思っていたのだが、どうやらマリアの肉体改造は、神の力だけあって遺伝子までもが変化していたようで、体を治すと翼まで一緒に治り、移動にはとても邪魔くさくなった。


 なんだこれ⁉ これどうやって取るんだよマリア⁉ ジャンに近づけねぇよ!


 だから俺は、仕方ないから魂の支配域を広げ、ジャンの動きを先ず探る。


 そんな全く役に立たない事ばかりしていたためか、ジャンを捉え位置を掴むと、次を考える間もなくツクモが飛び出してきて、いきなりジャンを斬り付けた。

 ジャンはかなり高密度の魔力でバリアを張っていた。しかしいくら高密度とはいえ、大天使ミカエル様の断絶の前では意味を成さず、バリアを簡単に突破され左腕を斬り付けられた。

 

 斬った後ツクモは直ぐに柱の陰に身を隠し、間が出来る。そのタイミングで俺は、何とか翼の先に手を成形し、その手を使ってジャンに近づく。


「クックックッ……さすがにこの戦力相手では、今までのようには行かないようです。もう少し頑張って下さいよ!」


 全員に聞こえるような大きな声でジャンは言う。その声には怒りなどという感情は感じられず、寧ろ傷つけられて喜んでさえいた。


「お前随分と余裕じゃねぇか! こんだけ柱があれば俺でも手が届くんだぞ? こっからはミカエル様の聖刻者と、アズ様の聖刻を持つ俺を相手にしなきゃならねぇんだぞ? 頑張んのはテメェの方だろ?」


 これだけ遮蔽物があるともうフウラの援護は期待できない。それでもそれはジャンにも言えた事で、肉弾戦に持ち込んだフウラは十二分に役目を果たした。

 

 魔法のバリアを簡単に破るツクモと、魂を引っ張り出す俺。ジャンを倒すには十分すぎる戦況だった。


「これで私を倒せるつもりなのですか? まだまだ私は全力を出してはいません。頑張って下さいと言ったのは、ここから私は全力を出しますので、今以上のご活躍を期待しますという意味です」

「ご活躍だ? そんな……」

「気を付けてリーパー! こいつなんかする気よ! 油断しないで!」


 この状況でこれ以上の事をジャンが出来るとは思えない。しかしツクモには何か感じるようで、声に緊張感があった。


「懸命な判断です、ミカエル様の聖刻者。では、気を付けて下さい。ここからは少し死者が出てしまうかもしれません」

「何だと⁉」


 マジでジャンはまだ本気を出していなかったらしい。言い終わると俺の声など聞かず雰囲気を変え、目に見えなくとも空気で伝わる程魔力を高めだした。


「リ―パー! 備えて!」


 俺でも分かる危険な空気。当然ツクモは俺以上に感じ取っているようで、マリアたちでも守るのか急降下で地上へと降りて行った。

 しかしジャンはそれすらもさせない気なのか、ここで一気に魔力を解き放った。


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