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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
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再会

 ジャンの氷結魔法により全身を凍らされ、大ピンチを迎えた。このまま全身氷漬けにされ封印されれば、いくら不死の力を持っていても脱落は目に見えていた。


 そんなピンチに、まさかの救世主が現れる。


 クソっ! ヤバイっ! もう誰でも良いから助けてくれ!


 こんなクソ暑い砂漠の真ん中でもジャンの魔法は強力で、既に氷は全身に回り、残すところは目と鼻と唇くらい。もう間もなく俺は氷の彫刻となり、訳の分からない博物館で半永久的に“アズ神様の聖刻者”みたいな題名で飾られる。それもなんかジョジョ立ちみたいな変な格好で。


 まだ死んで新たに転生できるならまだしも、下手をすれば人類が滅びるまで封印されるのは勘弁してほしかった。


「所詮聖刻者。いくら神の力を得ようとも、私の前では偽物は人とは変わらない。どうやらここまでのようですね、アルバインさん。それともこれは、私を楽しませてくれる演出なのですか?」


 クソっ! こいつ完全に分かってる!


 無抵抗のまま凍らされる姿は、確かに余裕に見えるだろう。だが、もう完全に俺が泡食ってるのはバレバレ。ジャンは確認するように何度も聞いているが、内心では勝利を確信しているのはヒシヒシと伝わっていた。


「残念です。もう少し楽しめると思っていました。私が英雄となり、世界に平和が訪れた際に、またお会いしましょう。美術館で」


 畜生っ! 美術館の方かっ!


 できれば博物館の方が良かった。そこならまだなんか歴史的な感じがあって……って言うかカスケード何やってんだよ! チクショー!


 圧倒的な実力差。いくら聖刻で上回っていても、実力の前では意味を成さなかった。

 こうして俺は氷の彫刻となり、半永久的に美術館で休みの無いブラックなバイト生活を送る事となる……はずだったのだが、やはり俺は主人公。もうほぼ氷の彫刻となっていたが、このピンチに突然の炎に包まれた。


 なっ、なんだこの火!


 炎の勢いは凄まじく、氷が一気に解けだす。それだけでなく、あっという間に全身の氷が解けると、意思を持つように炎は消え去り、火傷はほぼ無かった。


「な、なんだこれ……?」


 とても優しい炎。一瞬ジャンがやったのかと見上げたがそんなはずもなく、訳が分からなかった。

 そこへ後ろから良く聞きなれた声が聞こえた。


「リーパー! 大丈夫!」

「え? あっ!」


 振り返ると、そこにはマリア、フウラ、ツクモの姿があった。


「な、なんでここにいんだ? お前たち?」


 久しぶりと言っても約十日ぶり。それでも久しぶりに見るマリアたちは、懐かしい気持ちにさせた。


「なんでって、私たちもウリエル様の祠に来たんだよ。そしたらなんか空真っ暗だし、“ラクダさんでも誰でも良いから助けて~!”って聞こえたから、助けに来たんだよ?」

「そ、そうか……ありがとう……」


 マリアは全然変わっていないようで、きちんと説明してくれるが俺を小馬鹿にしていた。


「それより何でウリエル様の聖刻者と戦ってんの? 助けて~! って言ったから助けたけど、もしかして二人で修行してた? それだったらなんか御免。私がフ~ちゃんにやってって言ったせいだから、別にフ~ちゃん悪くないから」


 今の生き物のような炎はフウラの魔法だったらしい。炎にまるで魂を宿したかのような魔法には、さすが賢者の称号を持つだけはあると感心した。


「い、いや、助かったよ。ありがとうフウラ」

「いえ、お役に立てたのなら問題ありません」


 久しぶりに聞くフウラの声は、リリアとヒーとそっくりで、その見た目もあり、思わず頭を撫でたくなった。

 そんな可愛い妹とは違い、落ち着きのない実の妹は、よりパワーアップしてめっちゃ喋る。


「それより何で二人で戦ってたの? あの人リーパーの新しい仲間の人じゃないの?」

「え……いや……」

「同じ聖刻同士じゃなきゃ戦っても意味ないじゃん。だから私たちもさ、最初は二人の気配分かったときさ、もしかして修行してるんじゃないかな~って話してたの。それもさ、竜巻起きたり空真っ暗になって雷落ちたりしてさ物凄いし、凄い人たちだな~って思ってたらツクモがさ、『一人リーパーじゃない?』みたいな事言うし、“助けて~”って聞こえたらやっぱりリーパーだし。リーパーすっごく強くなったね? やっぱ凄いよ!」

「あ、ありがとう……」


 結局! マリアは一体何を伝えたいのかが分からなかった。


「それにさ、私も聖刻手に入れたんだよ?」

「えっ! ……あっ! ホント……」


 いきなりの登場と、いきなりのマシンガントークで全然気付かなかったが、気配に気付くとマリアは俺と同じアズ様の聖刻を手に入れていた。

 でもマリアはただ自分が喋りたいだけのようで、全くバトンを渡すつもりは無い。


「私ね、ハワイ初めて行ったの! ハワイってやっぱ凄いね! 芸能人がお正月に行くの分かるし、ワイハって言うのも良く分かる! 海青いし空青いしお土産一杯あるし、外国人一杯いるし、あっ! リーパーブルーハワイ飲んだ? あれ凄くない? 私も日本で飲んだことあるけど、やっぱ本場の味って全然違うよね? 大阪のたこ焼き食べた時も思ったけど……」


 マリア今状況分かってる⁉ 今ヤバイ奴と戦闘中だよ⁉


 何がマリアをそうさせるのかは分からないが、この状況で普段以上のおしゃべりが出来る能力には愕然とするしかなかった。しかしこのままは非常にマズく、直ぐにでも止めなければならなかった。

 そこへまたまた救世主が現れる。


“マリア? 今は愛しき人と戯れるのは危険です。状況を整理し、この危機を越えましょう。お話はその後、ゆっくりと楽しみましょう”

 

 突然聞こえた心に響く声。その声はとても穏やかで、大人の女性をイメージさせた。そしてマリアの肩から姿を見せたのは、まさかの白蛇だった。


「ムーさん……御免ね」

“いえ。愛しい人に喜びを感じるのは仕方がない事です。気にしないで下さい”

「うん!」

“さぁ、戦いに備えて下さい”

「うん!」


 ムーさんと呼ばれる白蛇は、赤い目をしており、加護印を持つ者の気配を放っていた。

 どうやらこの白蛇が、マリアたちをウリエル様の祠へ導かせた本人らしい。


“初めまして、アズ神様の聖刻を持つ、マリアの兄様。私はムーです。微力ながら助太刀致します”

「は、初めまして、リーパー・アルバインです。こちらこそよろしくお願いします」


 流石我が妹。まさか蛇を仲間にしているとは。それも礼儀正しい。カスケードを仲間にした俺の遥か上を行く奇才ぶりには、頭が下がる思いだった。


 そんな、こんな異常事態でも訳の分からないやり取りをする我ら兄妹は、やっぱり変人だったらしく、ここでさすがにジャンも耐えきれなくなったのか、突然爆発音が響いた。


 それに驚き振り返ると、マリアの仲間は相当優秀らしく、ジャンの攻撃も難なくツクモの結界の力で防いでいた。


「もう話は終わった? 理由は分からないけど、あっちはやる気だよ。そろそろやるよ。リーパー、あいつの情報頂戴」

「あ……はい。分かりました……」


 ミカエル様の聖刻者のツクモと、賢者であるフウラの睨みにより、俺たちは守られていた。その逞しすぎる背中には貫禄以外の何物もなく、このアズ神様の聖刻を持つ俺ですら、雑用として尽力するしかなかった。


「あいつはジャンって言って、ここで祠から出て来たばかりのウリエル様の聖刻者狩ってるヤバイ奴だ。もう十人以上狩ってるらしい」

「十人⁉」


 流石のツクモも、十人という数には驚いた表情を見せた。


「私でもまだ一人だよ。リーパーは何人倒したの?」

「俺も一人だ」

「やるじゃん」

「運が良かっただけだよ」


 ツクモも既に一人倒してるらしい。そんな経験が、聖刻だけでなく心まで成長させたようで、ツクモには大人のような落ち着きがあった。

 これなら防御力には問題なさそうだった。


「で、あいつはどんな戦い方するの?」

「基本魔法で攻撃してくる。それも何かかしらを魔力に変えて、それを吸収してる。だから威力もデカいし、魔力切れも無い」

「行けるフウラ?」


 魔法と聞いて、ツクモは専門家であるフウラを頼った。フウラはそれを受けて、一瞬俺の顔を見て、マリアを見て、何かを考え、返事をする。


「リーパーさんは、どの程度の回復力を持っていますか?」

「俺は体が無くなっても何回でも復活できる。回復どころか不死身だよ」

『はぁ?』


 フウラは戦術を立てるために、俺の情報を欲しがった。しかしどうやら俺の能力は異常を通り越しているらしく、全員が“何言ってんだこいつ?”みたいな顔をした。


「おりゃそれしかできねぇんだよ! できねぇ代わりに、魂さえ無事ならいくらでも周りから魂引っ張って再生できる。だから俺は死なねぇの! 気にすんな!」


 よくよく考えれば、自分で言っていてこの力は異常だ。言ってる当の本人がそう思うほどだから、当然フウラたちの表情は、化け物を見るような目になる。

 そんでもブレハート一族歴代最強のフウラ。そんなゾンビみたいな俺の力を知っても、平然と作戦を組み立てる。


「分かりました。では、ツクモはマリア、ムーさんを守りつつ、私とリーパーさんが避難できる体制を作って下さい。攻撃は私とリーパー“さん”で行います」

「分かった」

「マリアは、もし負傷者が出た場合、治療をお願いします」

「分かった」


 どうやらマリアは、俺に近い治癒の力を扱えるらしい。


「リーパーさんは私と共に攻撃に回り、援護をお願いします。火力では私の方が勝るはずなので、私がメインで攻撃します。リーパー“さん”、空は飛べますか?」

「う~ん……それはちょっと……」

「分かりました。では……」

「あ、ちょっと待って」

「何ですか?」

「その……リーパー、さん。って言うのやめてくれる?」

「?」

「なんかさ、久しぶりにフウラ見ると、リリアたち思い出すんだよね。だからさ、リリアたちみたくリーパーで呼んで。その方が俺もフウラに遠慮しなくて済むからさ」


 マジで従妹だけあって、フウラとリリアたちは似ている。寧ろ今は、リリアともヒーとも見えるくらいで、これから命がけの戦いをするには、フウラを兄妹と思えた方が動きやすかった。


 そんな急なお願いをすると、フウラは一瞬驚いたように表情が広がったが、今の状況では考えている暇は無いようで、すんなりと承諾してくれた。


「分かりました。では、私も今からリーパーさんを実の兄だと思い、全幅の信頼を置いてこき使います」

「サンキュー。頼むぜフウラ」


 このお陰で、俺はやっとフウラの頭を撫でることが出来た。これにはフウラもちょっと恥ずかしそうにしたが、今はこの絆は非常に大きなアドバンテージになる。


「そんでどうすんだフウラ? 俺は援護しろって言われても、空も飛べないし、石も無いからジャンに攻撃できない。どうすれば良い?」

「それならマリア。リーパーにアレを。リーパーは不死身だそうですから、命一杯お願いします」

「了解! ちょっとリーパーこっち来て?」

「え?」


 フウラのリリアっぽい言い回しには、本当に懐かしさを感じた。それに対し実の妹はやっぱり頭がおかしいようで、俺の背中に手を当てると、物凄くサイコパスな事をしてくれた。


「なっ! なんだこれ⁉」


 マリアが俺の背中に手を当てて力を送り込むと、急に背中が重くなり、なんか物凄くデカい羽根が生えた。


「翼だよ。これでリーパーも空飛べる”はず”だよ?」

「はぁ? お前一体どうやったんだよ⁉」


 これもアズ様の聖刻の力の一部だろうけど、まさかこんなことまで出来るとは驚きだった。っというか、はずって何⁉


「簡単だよ。リーパーの体をいじって、鳥みたくしただけだよ? リーパーも練習すれば多分出来るよ?」


 何をどう練習すれば出来るのかは知らないが、言ってみればこれは人体を利用したキメラ実験の成果。我が妹ながら、このサイコパスな思考には末恐ろしい物を感じた。


「あ、ただ気を付けて。その羽動かすのすっごい大変だから。それに空飛ぼうと思ったら、多分直ぐには無理だから」

「はぁ?」

「だって私でもまだ空飛べないから」

「それだったら意味ねぇだろ!」

「でも天使みたいで格好良くない?」

「そんなもん要らねぇんだよ! こっちは神の力だぞ!」


 ただのお洒落のためだけの人体改造。マリアは狂っていた。

 それでもフウラ的にはこれが正解だったらしく、満足そうに頷いてから指示を出す。

 

「安心してくださいリーパー。飛翔は無理でも、滑空は出来ます。私が空へ打ちあげますので、リーパーは羽を広げ空を滑空してください。それだけでも十分相手にとっては脅威となります」


 翼は神経まで繋がっており、広げる分にはそれほど苦にならない。だがその大きさは、広げると俺ん家の茶の間でも治まらないくらいデカく、自力で飛び上がるのは無理だった。それでもフウラの言う通り滑空には適しているようで、その方法なら何とか陽動くらいには慣れそうだった。


「ツクモ、短刀をリーパーに渡して下さい。それがあればより効果的です」

「良いよ。じゃあこれ使って。ハイ」

「あ、ありがとう。借りるよ」


 ツクモは脇差を貸してくれた。それはかなり重く、マジの刃が付いた本物だった。これがあればただ飛び回るよりもジャンには脅威となる。


 これでフウラ的には十分なようで、ロッドを構えジャンを見上げた。


「それでは準備は良いですか? 作戦を開始します!」


 これにより、まさかの共闘作戦が始まった。


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