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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
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実力差

 ……君は、落雷に打たれたことはあるかい? 


 聖刻狩りをするウリエル様の聖刻を持つジャン。魔法を駆使して戦うその実力は、想像の遥か上だった。

 そんなジャンが造り出した黒雲は、多くの雨を宿し、巨大な落雷を生み出した。


 皆マジで雷に打たれたことある? あれマジで半端ねぇわ。


 打ち下ろされた雷は、眩い閃光を発しながら蛇行し、超速で降って来て感電させる。そう思っていない? 実は俺もそう思っていた。


 しかしそんなのはアニメや映画の世界での話で、リアルは身の毛もよだつ暇さえ与えない無慈悲な物だった。


 ジャンがロッドを振り下ろすと……もう死んでいた。それはマジで、ピカっと明るくなるとか、ビリビリって嫌な感じがするとか、物凄い音がするとか全然そんなレベルじゃなく、気付いたら死んでた。ほんとそれくらい物凄い威力だった。

 俺は体が死んでも魂さえ砕けなければ死ぬことは無いから死んだと分かったけど、多分普通の人なら自分が死んだことすら分からない。ほんと雷はマジヤバかった。


 まぁそれでも、俺にはアズ様の聖刻があるから、そんなのは問題にもならないけど。


 そう思い、渾身の魔法を放ったジャンをビビらせるために、普通に立ち上がろうとした。がっ! どうやらジャンはイカれているらしく、その後もまさかの落雷二連発をお見舞いされた。


 こいつには正直ビビった。普通なら一撃で死んでいる相手に、まさかのオーバーキルをかましてくるとは、即通報レベルだった。


 ま、まぁそれでも、いくら雷に打たれようがそんなもんで俺を殺せるはずもなく、かなりこんがり肉にされたが、全く問題なく立ち上がることが出来た。


 今のジャンの攻撃は、本当に渾身の一撃だったらしく、立ち上がるころには真っ黒だった空は、白い雲が程よく流れる爽快な色をしていた。辺りには薄い水溜まりが鏡のように湖を作り、反射する空が幻想的な絶景を広げていた。


「残念だったな。悪いがそんなんじゃ俺は殺せねぇよ」


 超弩級の攻撃を受け、さらにこの絶景の中での決め台詞。自分で言っていて、これはもし俺が英雄となったのなら、映画やアニメで絶対使われると思うほど決まっていた……と思う。

 そこへジャンの悔しそうな表情があれば最高だったのだが、意外とジャンはへこたれてはいなかった。


「この程度の攻撃で、アズ神様の“聖刻者”を倒せるとは思ってはいません」


 あくまでも倒せないのはアズ様の聖刻。完全に実力では勝っていると思っているのか、あれだけの攻撃が全く効いていない俺に対しても、まだまだ余裕を見せる。


「じゃあ次はどうすんだ? わりぃが俺には、オメェの攻撃は効かねぇよ」


 何度も死ぬほどバリバリ効いているから、通用しないの方が正解。だけど何度でも生き返れるから、どっちでも同じ。

 死にはしないが、あんな災害みたいな攻撃の嵐を受ければ、ジャンの余裕は本心ではめっちゃ怖かった。


「さぁどうすんだ? 諦めて降参すんのか?」


 降参してほしかった。俺が虚勢を張っている内に、ジャンには降参してもらいたかった。

 

 だがやっぱりジャンがそんなことするはずもなく、次なる一手を打ってきた。


「アズ神様の聖刻には、不死の力があるのは知っています。ですがそれは、一部の聖刻者のみが使える秘術。エドワード・アルバインの血族である貴方が、その力を扱えても不思議ではありません。が、まさか本当に扱えるとは何という幸運! 私の全てをぶつけてもまだまだ楽しめそうです!」


 ジャンはそう言うと目を輝かせた。それを見て、ジャンは自分の聖刻の力を試したいのではなく、己の全てをぶつけられる相手を探し求めていたのが分かった。


「なるほどな。オメェ一体何者だ?」

「何者? 私はウリエル様の聖刻を持つ者。今はそれ以外に肩書が必要ですか?」

「そういう意味じゃねぇよ。なんでそんなに自分の力を試したいんだって、そう言ってんだよ」

「大した理由はありません。ただ、己の限界を知らず生きるのは詰まらない。そう思うだけです」


 多分ジャンは、俗にいう天才というやつなのだろう。容姿、知能、身体能力、魔力、おそらく家庭環境までもが恵まれ、凡人が立ち止まる壁さえも容易く越えてきた。だから今まで、自分が全力を出せる敵というものが存在しなかった。

 そんなジャンが、聖刻を手に入れても、まだまだ新人だらけのこの世界では敵はいない。

 

 ジャンが危険を冒してまで格上の俺に喧嘩を仕掛け、楽しむのは、そういった背景があるのだと見えた。


 だが、それはあくまで矮小な人間世界での話。やはりジャンは、ただの愚かな人間だった。


「そうか。そりゃ残念だったな。随分小さな世界しか知らなくて」

「小さな世界? 私は今、大天使であるウリエル様の世界に居ます。私の世界は極大です」

「テメェが居んのは、人間だけの世界なんだよ。ずっと恵まれた環境で育ったせいで、勘違いしてんだ。裸一貫で山に行け。それだけでテメェは限界を超えても倒せない相手に出会える」

「何を今さら。最早大天使の力を持つ私には、獣などでは相手になりません」


 ウリエル様の聖刻者は、インテリが多いとは聞いていたが、ただ何も知らない金持ちのボンボンという意味らしい。あくまで一でしか物を考えられないらしく、阿保みたいなことを言う。


「なんで獣なんだよ? ……まぁ、言っても分からん奴にこれ以上言っても無理か。オメェ、カスケードより全然駄目だな」


 カスケードは全然ダメな奴だ。だけど命を知っている。自分を知っている。居る世界も知っている。だからあんなんだけど、太っとい樹木のような安定感がある。

 ここでやっとジャンの弱点が見えた。


 とは言った物の、依然俺の不利は変わらず、かなりの泥仕合をしなければならない状況だった。


「そうですか。では、もう少し私の力をお見せ致しましょう。そうすれば貴方も、私を認めるでしょう」


 本当にジャンは何も分かっていない。不死の俺に対しいくら強さを示しても意味は無い。

 それを理解していないジャンは、また魔法で攻撃しようとしているのか、今度は俺でも魔力が見えるほど高め、詠唱を始めた。


 ジャンはやはり天才と言われる存在らしく、あれだけ青白い魔力を可視化させる詠唱をしても、あっという間に準備を終えた。


「この攻撃は、対アズ神様の聖刻者用に考案した物です。アルバインさん。本当に私の世界が小さいか、感じて下さい」


 そう言うとジャンは、ロッドの先を静かに地面に向けた。するとその先から、青白く輝く水滴なような物が地上へ落ちてきた。


 その魔法は、とても美しく静かで、今度は大地が爆発するような攻撃が来ると思っていただけに眺めている事しかできず、この後何が起こるのか考えも出来なかった。


 そして滴が湖のようになった水面に落ちると、波紋が広がるだけで何も起きず、これの一体どこが対アズ様の聖刻者用なのかさっぱりだった。が、そこからほんの僅か間を開けると、突然に滴が落ちた所を中心に、湖が一気に凍り始めた。


 ヤバイっ!


 凍る速度は尋常じゃなく速く、あっという間に逃げる俺の両足を捉えた。足を捉えた氷はそこからさらに俺の太ももまで凍らせ、ほとんど一瞬と言っても過言ではない速さでその場に貼り付けにされた。


「南極や北極には、ウィルスは存在しないそうです。この地に太陽が必要なように、生命には熱が必要です。違いますか?」


 どんな極寒の世界でも、必ず命は存在する。だが、ある程度の熱が無いと、動くことが出来ない。そして、不死である俺にとって一番怖いのは、動きを封じられる事。


 ジャンは勘違いしているが、結果的に俺に対して有効な手段を選択している辺りは、さすが天才だった。


「さて、貴方は全身が凍結しても、まだ生きていられるのでしょうか? それとも、凍結させた後砕かなければいけないのでしょうか? もしくは、封印が最も適しているのでしょうか?」


 稀代の天才。ジャンは直感的に俺の弱点を見抜いている。しっかり時間を掛けて芯まで凍らせながら上がって来る氷からは、ジャンの意思のような物さえ感じた。


「何故抵抗しないのですか? それとも、この程度では満足頂けませんか?」


 抵抗しないのではなく、どうすれば良いのか分からないだけ。ここで無理やり足を砕いて逃げても、もう周りは全て凍っている。この状況ではいくら命を集められても肉体形勢は出来ず、最悪俺単体の魂だけになってしまう。

 そうなればいくら不死といっても非常に脆く、下手をすれば簡単に消滅してしまう可能性もあった。


 俺の再生能力を見極め、雷の伏線を張り、きちんと周りまで凍らせるジャンには、お手上げだった。


 かと言って考える時間も与えないのが計算に入っているようで、対策を練る暇なく首まで凍らされてしまった。


「どうしました? まだまだ余裕ということですか? ならば、お望み通り全身を凍らせ、永遠に祭られる彫刻にして差し上げましょう」


 既に後頭部まで凍り着き始めた。このまま本当に全身カチコチにされ封印されれば、実質俺はここでリタイアとなる。

 これは正に窮地だった。


 カスケード! カスケード! ……いやラクダ! ラクダさん! 聞こえる! なんでも良いから助けに来て! 


 俺に出来る唯一の方法。それは苦楽を共にした仲間へ助けを求める事だけだった。


 頼んます! ピンチです! お願いします!


 一応魂をガンガン補給して体温を上昇させているが、全然凍る速度の方が強い。その上ジャンは全然油断せず距離を保ち続けているし、カスケードは絶対来ない。世界を救えるのはラクダさんたち以外に居なかった。


 そんな暇があるせいで、いよいよ顔まで凍り始め、ズ・エンドは近かった。しかしまだまだこの物語は終わらないようで、救世主が登場する。


 カスケードについて。


 彼は元傭兵でした。それもかなり名のある隊に所属していました。カスケードは世界に平和をもたらし、戦争の無い世界を目指していました。しかしある作戦で爆撃を受け、足と指と仲間を失いました。その後、もう戦えない自分に嫌気がさし、福利厚生に厚い日本へ移住しました。そこでカスケードは、真面目な性格により、完璧なダメ人間を目指すことにしました。

 全く働く素振りも見せず生活保護を貰い、酒に明け暮れ、煙草を吸い、朝から晩までパチンコ。彼の目指す場所は、パチンカスでした。

 性格があんなのは、本人も気付いていない心の闇を隠すためです。


 本名、年齢、出身など個人情報は、私も聞く気にもならないため不明です。男です。

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