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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
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強敵

 カスケードが祠に入ると、奴との旅は相当精神を酷使していたためか、やっと一息付けたという感覚に襲われた。それでも一つ課題をクリアしたという気持ちの方が勝っており、久しぶりにのんびりとした時間を、ラクダたちと共に過ごそうと思った。


「君は、アズ神様の聖刻者だね?」

「え?」


 ブロリー戦を経て、単語ではあるが、言葉以外でも生物と会話が出来るようになった俺は、ラクダたちと楽しい会話をしていた。そんな中で、先ほど祠の前で不自然に立っていた男が声を掛けてきた。


「初めまして。私はウリエル様より聖刻を授かった者です」


 そう言い、男はターバンを捲り素顔を見せた。


 二十代前後の西洋人。髪は金髪で瞳は綺麗な青色をしている。鼻筋も綺麗に通り、清潔感のある顔はまるでハリウッド映画に出ていそうなイケメンだった。


「ジャンと言います。よろしくお願いします」


 日本語も堪能で、穏やかな口調はとても礼儀正しい。そして握手を求める姿には好感が持て、格上である俺に対してあちらからの挨拶とは、どこぞのパチンカスとは比べ物にならないくらい素ん晴らしかった。


「リーパー・アルバインです。こちらこそよろしくお願いします」

「アルバイン⁉ まさかあの英雄、エドワード・アルバインさんの御子息様ですか⁉」

「えっ? あっ、はい……一応エドワード・アルバインは、じいちゃんです」

「ワァオッ! これはこれは、まさかお会いできるとは、何という幸運!」


 ニコチン中毒が最初、“彼は聖刻狩りかもしれない”なんて言うから警戒していたが、意外や意外。全然そういうのじゃなくて、まさかのじいちゃんのファンだったとは、やはりプンスカプンスカ煙草を吸う奴の言う事は信用できなかった。


「先ほど祠に入られたのは、アルバインさんのお連れの方ですか?」


 なるほど。どうやら彼は、自分に相応しい聖刻者を待っていたようだった。


 彼ほど礼儀正しく清潔感があり、さらにイケメンとなれば、ここは是非とも仲間にしたい。しかし今現在俺にはお荷物がある。ここからの会話は絶対に間違えられない精密な作業が必要だった。


「い、いえ、彼はここへ来る途中、たまたま出会っただけです。お、俺はなんか、ここへ来るように導かれただけです」


 カスケードは多分祠からは一生戻れないだろう。聖刻を貰うという事はそれほど難しい。かと言って今いるラクダたちには加護印は無い。ならば狂っていた導きセンサーは彼に出会うために発動した。そう考えれば全ての辻褄が合った。


 これで俺は正式な仲間と出会った。ここからいよいよ俺たちの旅が始まる。そう言えるほど彼との出会いは劇的だった。だが……


「そうですか。それは残念です。もし彼が貴方の仲間であったのなら、もっと楽しめた」

「え?」

「私はここで、祠から出てきたばかりの聖刻者を襲っていたんですよ」

「はぁ?」

「もう十人ほど狩ったのですが、一体どれほど力が付いたのか試しをしたかったんです。格上とはいえ、あなた一人では物足りませんが、お付き合いください」

「何を言って……」


 ジャンが突然変な事を言い出すと、いきなり砂嵐が起こった。


「クソッ! ラクダたち逃げろ! 終わったら迎えに行くから安全な場所に避難しろ!」


 何でこういう読みは当たるのか、カスケードの言った通り、ジャンは聖刻狩りだった。それももう何人も狩っているらしく、これだけの砂嵐を起こせるほどの力を持っていた。


「どういうつもりだ! お前、俺がアズ様の聖刻者だって分かって言ってんだろ!」

「分かっています。だからこそ試したいんです」


 こいつはただのサイコパス。同じ聖刻同士でなければ戦う意味が無いし、格上の聖刻相手に挑もうとすること自体が間違い。

 一体どれほどの命を奪って聖刻を強化したのかは知らないが、このアズ様の聖刻、神の力を持つ俺に挑もうとする愚かさには無礼を感じた。


「試したい? 随分と舐めてるな」

「舐めているわけではありません。自信があるだけです」

「それが舐めてるって言ってんだよ!」


 無礼にもほどがある態度には、手加減など必要なかった。そこで身の程を知らすために、速攻で魂を抜きに掛かった。


 ブロリーから得た聖刻により、俺は半径三十メートルは完全に支配できた。それは、その中にさえいれば例え触れなくても人間から魂を引っ張り出せるほどで、かなりのレベルアップをしていた。


「なっ!」


 完全に魂を引っ張り出すつもりでジャンを掴んだ。だがやはり聖刻を持つ相手にはそう簡単な話ではないようで、かなり強い力で引っ張ってもジャンの魂は引っ張り出せなかった。


「なるほど……これがアズ神様の力ですか……」


 魂を引っ張り出すことはできない。それでも引っ張られるジャンには相当負担が掛かるようで、歯を食いしばり苦しそうに言う。


「これは楽しめそうだ。もっと楽しみましょう」

「クソッ!」


 この距離ではさすがに不利だと感じたのか、ここでジャンは視界が無くなる程砂嵐を強めた。そしてそのタイミングを利用して、俺の支配力の届かない距離まで大きく離れた。


 ジャンの造り出した砂嵐は、災害レベルの大きな物だった。その規模は赤子とはいえ、十名以上もの聖刻者から奪っただけあって凄まじく、目を開けていられないほどだった。

 だがこちらも一人倒してきた聖刻者。パワーアップした今の俺の聖刻の力なら、そんな暗闇の中でも魂たちの声を聞いて、目で見る以上に情報を得ることが出来た。相当頑張れば半径五十メートルくらいだけど。


 …………いない?


 かなり砂嵐の風や音が目障りだが、暗闇の中でジャンの位置を探った。しかし相当ビビったのか、限界ギリギリの五十メートルほどの声を聞いたが、ジャンを見つけられなかった。


 どこへ行った? 


 もしかしたら逃げた可能性もあった。だが以前砂嵐は治まることは無い。とにかくこの砂嵐が止まなければ下手に動くことも出来ず、警戒も解くことが出来なかった。

 すると、やはりジャンは逃げたわけではなかったようで、突然砂嵐の中から赤いレーザーが飛んできた。


 レーザーはフリーザのデスビームのように高速で、一発目は全然的外れな方向へ飛び祠を直撃して、貫通した。しかし二発目からは俺の正確な位置を把握しているようで徐々に近づいて来て、数発も打つと俺の右足を掠めて行った。


 レーザーは相当な殺傷能力を秘めているらしく、掠った右足は肉が抉れ、ズボンが燃え、周りの皮膚は重度の火傷を負った。そしてそれ以上に、見境なくウリエル様の祠にまで攻撃を仕掛ける姿勢に危機を感じ、先ずはこの場所を移動することを最優先に考えた。


 ジャンの正確な位置は分からない。だけど聖刻者が持つ気配で何となく方向は分かる。


 視界ゼロの砂嵐の中へ飛び出し、ジャンの僅かな気配を追いながら、ジャンを軸に大きく祠から離れた。その間もジャンのデスビームは執拗に俺を追いかけまわす。


 そんな追いかけっこを続けていると、やっと俺のテリトリーにジャンを捕らえた。しかしジャンには俺以上の感知能力があるようで、その感知範囲ギリギリを逃げる。それもデスビームを打ちながら。


 その動きからは、戦い慣れした感がヒシヒシ伝わり、戦闘経験値ではジャンが圧倒的に上なのだと理解できた。


 そんでも聖刻ではこっちの方が上。例え聖刻のレベルで負けていても、聖刻自体の力では圧倒的に勝る。このまま追いかけっこをして長期戦に持ち込めば、間違いなく俺が勝つ。

 そう思い距離の詰め合いをしていると、やはり経験値の差は大きいようで、突然ジャンの姿を見失った。


 ジャンは俺の感知範囲ギリギリにはいた。それに身体強化では僅かに勝る俺は、体全体を捉えるくらいには常に距離を捉えていた。それが突然、ジャンは加速するわけでもないのに、ふわっと砂嵐の中へ同化するように消えた。

 さらにそのタイミングでデスビームまで止められたため、再びジャンの位置を見失ってしまった。


 ここまで上手く距離を取りながら戦い、完全に格上の聖刻を持つ俺を翻弄するジャンは見事だった。そして、じいちゃんが言っていた『聖刻は強さではなく使い方』という言葉を思い出し、こういう事なのかと一つ勉強になった。


 とは言え、このままやられっぱなしで終われるはずもなく、砂嵐の中必死でジャンを探した。するとやっと捉えることが出来たのだが、ジャンの姿を見て如何に自分が不利なのかを思い知らされる。


 やっと見つけたジャンは、まさかの空にいた。それはジャンプしたとかそういうレベルの話ではなく、本当にドラゴンボールのように宙に浮いており、もう俺の手の届かないくらい高い位置にいた。

 

 これは……魔法⁉


 いきなり始まった戦闘のせいで、ジャンが聖刻をどう使っているのかなんて考えもしなかった。


 ウリエル様の聖刻の力は、変化だという。それは鋼の錬金術師のように物質を自在に変化させる力だという。だからこの砂嵐もその聖刻の力で起こしているのだと思っていたが、空に舞いロッドを持つジャンを見るとどうやら今までの攻撃は全て魔法だと考えた方が良さそうだった。


 おそらくジャンは、何かしらを変化させて魔力を得ている。それが一体何なのかは分からないが、災害レベルの砂嵐やデスビーム、俺の位置の把握と空中浮遊という高度過ぎる技術と変化を超えた多彩さから、魔法で間違いなさそうだった。


 つまり、魔法が全く使えないどころか良く分かっていない俺が、フウラ以上の賢者プラス、無限の魔力を持つ化け物を相手にするというのは、フルボッコにされるフラグ以外の何物でもなかった。


 そんな俺に対し、舐め腐ってまだまだやる気があるジャンは、ここで突然砂嵐を止めた。これにより俺は完全に目視でジャンを捉えることが出来たのだが、これは俺を見下すための物ではなかったようで、どうやらここからが本気の合図だった。


「なっ! なんだこれ……?」


 空に浮かぶジャン。その後ろには真っ黒な雲が空を覆いつくしていた。それも黒雲の中では稲光が轟音を立てているほどで、今までに見た事も無いほど地上に闇をもたらしていた。

 

「なんだ? 雷か? そんなもんで俺を倒せると思ってんのか!」


 多分ジャンは、落雷を使い攻撃をしようとしている。


 フウラ曰く、自然の力を利用した魔法は、人間が生み出す魔法の比ではないほど強力らしい。


 それを使い俺を一撃で葬ろうと考えているようだが、ジャンはまだ俺の聖刻の本当の力を知らないようで、舐めていた。


「アズ神様のお力が、この程度の攻撃に耐えられないとは考えていません。しかしそれは聖刻に限っての話。貴方にはどうでしょうか?」


 あくまでもアズ神様ではなく、俺を舐めているのはよ~く分かった。どうやらジャンは死にたいらしい。


 そうこうしているうちに、いよいよ黒雲は水分を留めていられなくなり、大粒の雨が豪雨となり降り注ぎ始めた。


「随分と舐めてるな? ジャンとか言ったか? もう後悔してもおせぇぞ」


 落雷の下、バケツをひっくり返したような雨の中、空に浮かぶ魔導士との対戦。こいつをぶっ倒せば、武勇伝としてはなかなか良いタネになりそうだった。しかしやっぱり上手くいかないのがこの世界。


「…………」

「えっ⁉ 何っ⁉」


 このバケツをひっくり返したような雨のせいで、俺の声は届かない、ジャンの声も聞こえない。

 二人で『えっ?』みたいな感じになり、ここ一番で全て台無しだった。


 おまけに阿保みたいな雨のせいで地面は湖みたくなるし、跳ねた泥で足元ドロドロになるしパンツびちょびちょだし前髪ピッタンコだし、テンションがた落ちだった。


 まぁそれは俺だけで、ジャンは全然普通で、普通にロッドを天にかざした。


「…………」

「えっ⁉」


 多分ジャンは、なんか決め台詞のような事を言った。だけどそれすらも全然聞こえなかった。そのせいで、ジャンがロッドを振り下ろすと落雷が降り注いだが、なんか分け分からんまま突然攻撃が始まったみたいになって、格好良さとか激闘感とか全然ないまま、俺はふつ~うに落雷の直撃を受けた。


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