その男 Poop
ブロリーとの戦いは終わった。そこで俺はブロリーから聖刻を奪い、さらに力を増したのだが、残された感情に喜びは無かった。
あるのはまるで楽しかった夏祭りが終わったかのような寂しさで、得た物よりも失ってしまった物の方が多いように感じるほどだった。
それでも俺にはまだまだやらなければいけないことが沢山ある。その寂しさは一時の物だと思い、横たわるブロリーの元を去った――
「お疲れさまでした」
「あ、ありがとうございます……」
商店街を出ると、あのマキマさんみたいなアルカナの人と、若い男性が声を掛けてきた。
それは多分俺の勝利に対しての労いの、建前的なものなんだと思い、それっぽくお礼を言った。だけど違った。
「こちらは、スマートウォッチと携帯電話、クレジットカードです。先ほどの戦いで紛失なされましたので、こちらをお持ち下さい」
「あ……ありがとう、ございます……」
アルカナはどうやっても俺の位置を把握していたいらしい。普通なら『さすがです!』とか、『ご勝利おめでとうございます!』とか言って、俺のご機嫌を取るものだと思うのだが、このマキマさんみたいな人には一切そう言った社交辞令がなく、淡々と仕事をこなす。そしてその横の若い男も淡々と俺にスマートウォッチを渡す。
車から降りた時とかにはめっちゃ頭を下げてくる他の人とは違い、無駄は一切なく淡々と仕事をするのを見ると、ラクリマ直属部隊は……まぁ悪くなかった。
そしてその後の気遣いも完璧だった。
「何かご用件はございますか?」
「あ……じゃあ、どこかにシャワーを浴びれる場所は無いですか?」
アズ様から貰った服は生命からできており、再生が可能だった。だが体に付いた臭いや汚れはさすがに落とすことが出来ず、これから新たな仲間に会いに行くため、一応礼儀として綺麗にしておきたかった。
「畏まりました。お車に御乗り下さい」
「えっ! 俺、今かなり汚いです? 車汚れますよ?」
「問題はございません。この車はリーパー様のための車両です。どうぞお気になさらないでください」
流石アルカナ。一体いくらするのか知らないけど、間違いなく超高級車でも気にするなと言う。だけど今の言い方だと、“これはお前の車だから、別に私たちには関係ない”という意味にも取れ、VIPも意外と大変なんだと思った。
まぁそれはさておき、とりあえずこれでようやく問題が片付いた俺は、今までの苦労は一体何だったのかというほど順調に目的地へ辿り着いた――
“パチンコ ガラガラ”
アルカナの人たちに送ってもらい、ようやっと目的地に到着すると、既に午後十時を回っていた。辺りは暗く、周りには閉店時間を過ぎた店がちらほらあるだけで、コンビニとガソリンスタンド、それとパチンコ屋だけが眩い光を放っていた。
その中で俺が惹かれたのは、まさかのパチンコ屋だった。
俺はパチンコ屋などには、未成年という事もあり一度も入ったことが無かった。それでも強く呼ばれる感覚の前ではそんな事など気にも留めず、“普通に”入店することが出来た。
ただ一応、お店の人に『未成年の方は入店できません』みたいなことを言われると困るので、べ、別にビビってないけど、一応念のためにマキマさん……名前は知らないけど、あの二人にも付いて来てもらった。
店に入ると……凄かった! 自動ドアを抜けると、バーッとカウンターまで見えるほど通路が広く、その通路から横にもワーッとパチンコ台が並びピカピカしている! 床には全面にカーペットが敷いてあり足にも目にも優しい! 天井から照らすライトも一杯あり光量は程よい! さらに空調も効いており温度、湿度も良く、店の人は何かラスベガスのカジノとかに居るようなディーラーの格好をしている!
日本に、それも周りもそんなに都会じゃないのに、こんな高級ホテルのロビーみたいなパチンコ屋には、正直驚いた。ただ、もう夜も遅いせいか、人はほとんどいなかった。
そのお陰か、俺を呼ぶ主は直ぐに見つけられた。
パチンコ台が並ぶ通路に一人。一人だけがパチンコ台に向かい合う。それはまるでそこに並ぶ全てを貸し切りにしているかのようで、俺が思うよりも全然金持ちに見えた。
だが、近づいてみるとやはりそうでもないようで、ブロンド髪に西洋人みたいな顔をした男性は三十代にも四十代にも見え、無精ひげを生やし、ラフな服装に左手をポケットに入れたまま、死んだ魚のような眼をして、死んだ魚のような顔をしながら黙々と台と向き合っていた。
「…………」
「…………」
近づいてみるが、超声を掛け辛い! 相手も俺に気付いていないのか何も言わないし、カラカラ転がるパチンコ玉の音が虚しかった。
しかしどうやら気付いてはいたようで、カラカラカラカラがちょっと続いて、死んだ魚みたいな顔した奴がボタン押して、当たったのかどうか知らないけどいきなりジャラジャラ玉が出てくると、突然しゃべり出した。
「もう少し待っててくれ。これが見えるだろ? これがゼロになったら終わる」
そう言い、死んだ魚の人は、台に赤く光る“5”という数字を指さした。
「……分かった」
俺はパチンコが分からない。だから本当なら直ぐに止めてくれれば良いのだが、多分なんかあの数字が無くならないと終われないらしく、待つしかなかった。
それから待つこと五分ほど――
死んだ魚がボタンを押して、またジャラジャラ玉が出ると、遂に数字がゼロになった。しかし死魚はまだ止めなかった。すると、またしゃべった。
「ここの玉が見えるだろ? これが無くなったら終わりだ」
そう言い、腐った魚は台の上に並ぶ玉を指さした。
「……分かった」
腐魚は俺の返事を聞かずとも、そのまま続行する――
待つことさらに二分ほど。
遂に玉が無くなった。すると本当に終わりが来たようで、ふぅ~っと一息吐くと、腐魚はやっと、本当に腰が重いのか、重々しく席を立った。だが決して左手はポケットからは出さない。そして……
「トイレへ行ってくる。外で待っててくれ」
「……分かった」
そう言い腐は、パチンコ店で相当の激戦を繰り広げたのか、左足を引きずるようにヨタヨタとプ~プをしに行った……




