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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
113/186

竜拳爆発

 アズ様の聖刻を賭けた戦いは、ブロリーが人間からしかエネルギーを補給できない事実に気付いたことで、いよいよ終盤を迎えていた。

 

「うおおおぉぉぉ! 力が漲るぞぉぉぉ!」


 俺の後に効いて来る必殺のパンチを喰らったブロリーは、増々元気になり絶好調だった。

 そのパワー、スピードは今までの比じゃなく、巨漢はルフィーのギアセカンド並みに赤く染まり、上がる白煙はもう火山の噴火という感じだった。


 そんでも、やっぱり格闘技は素人のようで、未だに攻撃は全部テレフォンパンチ。そのお陰で戦況はかなり不利に見えても、意外と互角の展開を繰り広げていた。


「どうした! 力が漲る割に全然当たらねぇぞ!」

「直ぐにお前をなぶり殺しにしてやる!」


 攻撃は全然当たっていないというわけではなかった。ちょこちょこ拳が掠り、その度に骨折や肉が抉れてはいた。だが俺の回復レベルも上達したのか、負傷してもその程度の傷なら今ならほぼ一瞬で完治していた。

 それが程良く手応えを与えていたようで、これだけ俺がチョロチョロ攻撃を躱し続けていても、ブロリーにはそれほど苦になっているようではなかった。寧ろ俺の必殺パンチのお陰で気分が良いようで、好都合だった。


 そんな中でブロリーはさらに気分が良くなったのか、ここで突然猛攻を繰り出すのを止めた。

 それは、俺がそのタイミングで距離を取っても追いかけてくる様子もなく、休憩というわけでもなさそうだった。


「どうした? 疲れちゃったのか?」

「な~に、準備運動が終わっただけだ」

「準備運動だ? 散々ここまでやっといて、今さら何言ってやがんだ?」

「勘違いするな。お前を殺す準備が終わったと言っているんだ」

「オメェはどんだけ殺すのが好きなんだよ? そんな趣味じゃ、英雄になっても歴史に存在すら残んねぇぞ?」

「全て殺し、俺だけになれば、嫌でも英雄と呼ぶだろう」

「オメェじゃ無理だ」

「それはどうかな?」


 無い頭でどんな作戦を思い付いたのかは知らないが、ここでブロリーはリズムを変えた。


 その落ち着きようはとても不気味で、余裕を見せてはいたが、俺の内心は穏やかではなかった。

 

 何っ何っ⁉ 折角もう少しで勝てそうだったのに何を思い付いたんだよ⁉


 非常にマズい状況だった。俺の見立てでは、後数十分粘れば勝ちは約束されたも同然だっただけに、ここで起死回生の一発を貰うのは非常に勘弁してほしかった。


 そんな俺の心とは裏腹に、本当にブロリーは良い作戦を思い付いたようで、さらに出力を上げた。


「うおおおぉぉぉ!」


 唸り声を上げ、体を強張らせるブロリーは、姿形こそ変えはしないが、全身から迸るオーラが重圧を感じさせるほど威圧を放つ。

 それは本当に残りの体力を全て絞り出すかのようで、事実上これが最後の攻防になりそうだった。


「おいおい。勘弁しろよ」

「もう遅い。行くぞぉぉぉ!」


 ブロリーにとっては全ての体力を使った攻撃。俺にとっては凌ぎ切れば勝ち。死力を尽くしての鬩ぎ合い。

 当然最初に仕掛けたのはブロリーだった。


「死ねぇぇぇ!」


 全開まで出力を上げたブロリーは、また大きく地面を抉りながら煙幕を張った。しかし今回はそんな考えは一切ないようで、飛んでくる瓦礫はミサイルと変わらない。その上砂埃まで後から付いて来て、先ほどとは違い津波と表現しても良い程だった。


 これは完全に回避するのは不可能だった。そこで被弾覚悟で出来るだけ姿勢を低くして砂埃の中に姿を隠した。すると運よくミサイル級の瓦礫にだけは被弾せず、肉体を大きく損傷することは無かった。

 だが今回の煙幕は光を遮るほど強力で、最悪な事にブロリーの位置を見失った。


 間違いなく今の状態のブロリーの攻撃を受ければ、ミンチになる。そうなれば肉体が無くなれば終わると思っているブロリーは、俺の再生が完了する前に魂を引っ張り出すだろう。

 そうなれば俺は死ぬ。

 

 いくら不死の力を持つ俺でも、アズ様の祠ならいざ知らず、こんな所では再生には時間が掛かる。

 絶対にブロリーの攻撃を受けるわけにはいかなかった。


 久しぶりの死の感覚に怯えた俺は、暗い砂埃の中必死にブロリーの気配を探した。しかしそんな精密な探知など出来るはずもなく、遂には右も左さえも分からなくなった。


 間もなく最後の攻撃が来る。そんな絶望的な中だった。


“上っ!”


 声でも言葉でもない。心に直接語り掛ける感覚。それの正体が一体何なのかは分からないが、直感的に感じた声に反応すると、突然暗闇の中からブロリーの拳が降って来た。


 謎の直感により、ほんの僅か早く反応できた俺は、何とかブロリーからの直撃を回避できた。しかしブロリーのパワーは既に避ける程度では意味を成さず、拳が地面に叩きつけられると地面が大爆発を起こした。


 その爆発により、俺は体の全面が吹き飛ぶ損傷を負った。


 両足は吹き飛び、皮膚どころか肉まで抉れ、骨、内臓、目玉まで吹き飛ぶ。だがそのお陰で体ごと煙幕の中へと飛ばされ、一時的だが回復の時間が稼げた。


 この損傷なら、全回復まで六秒から十秒。しかしそれでは間に合わない。だから動けるようにすることだけ考え、突貫で体を治す。それが功を奏する。


 ギリギリ動けるようになると直ぐにブロリーの追撃が来た。丁度距離を取ろうとしようとしていたタイミングだったため、運よく攻撃を避ける。しかしブロリーのパワーのせいでまた爆発が起こり、損傷を受け、暗闇に包まれた。


 今度の損傷は体の右側を持って行かれた。やっと足が治りかけていたところへの追加ダメージは、甚大だった。


 ダメだ! 回復が間に合わない!


 次に動けるようになるまでは十秒以上必要だった。それでも諦めるわけには行かず何とかするが、もう手遅れだったようで、遂にここでブロリーに捕まってしまった。


「これで終わりだぁぁぁ!」

 

 何とかして起きようとしていた矢先、ブロリーの強烈な一撃が俺の体を襲った。その一撃は最早生物の域を超えており、俺の体は文字通りミンチとなって飛び散った。


「ハッハッハッ! 遂に殺したぞ!」


 勝ちを確信したブロリーは歓喜の声を上げる。ミンチにされた俺は、せめてもの抵抗で出来るだけ大きく残った自分の肉片の中へ隠れた。


「さて、お前の魂を頂こう」


 脳筋のブロリーでも、聖刻の奪い方は分かるらしい。そのうえ俺の位置まで分かるらしく、飛び散った肉片の中から正確に俺の方向へと歩いて来る。


 こうなるともう、俺の負けは確定的だった。体の再生は間に合わず、これしかない戦力では魂の引っ張り合いをしても、俺の敗北は火を見るよりも明らかだった。


 それでもリリアたちとの約束がある以上、限界まで諦められず、最後の最後まで抵抗するつもりだった。


 その雑草魂がアズ様に届いたのか、遂にここで俺の必殺パンチが火を噴いた。


 近づいて来るブロリーが、突然躓いて転んだ。それはブロリーにとってはたまたま躓いたという感じだったのだろうが、これこそが俺の狙いだった。


”来たっ! やっと効果が出た!”


 転んだブロリーは“こんな時に!”という感じで立ち上がろうとした。しかし既に俺の毒が回っているブロリーは、もうそこから立ち上がれなくなった。


「なっ、なんだこれは……⁉」


 両腕を使って体を起こそうとするブロリーだが、上半身を持ち上げるのがやっと。その腕もプルプル振るえ、足には全く力が入らない。


「きっ、貴様っ! なっ、何をした⁉」

「だから言ったろ? 俺の必殺パンチは後から効くって」

「ばっ、馬鹿なっ⁉ どっ、どうやって再生したっ⁉」


 俺の再生能力を目の当たりにしたブロリーは、必殺パンチも他所に驚く。


「きっ、貴様っ、化け物かっ⁉」

「まだ勝負は着いてねぇんだ。ネタは教えねぇよ」

「どうやって再生した!」


 もしこれが漫画とかなら、俺のエネルギー供給の秘密や、ブロリーを動けなくした秘密を話すのだろうが、もしそれを話して逆転の糸口を掴まれたら怖いので、俺は絶対に言わない。

 そう、俺は絶対に舐めプはしない!


「答えろっ!」

「だから教えねぇって」


 舐めプ悟飯を期待したブロリーは、意外と堅実な俺にガッカリしたのか、悔しそうに歯を食いしばる。


「それより、お前の負けだ。さっさと諦めて聖刻を渡せ」

「ふざけるなっ! まだ勝負は終わってはいないっ!」


 何をされたのか気付いていないブロリーは、まだ戦えると思っているようで、立ち上がろうとする。だがもう上半身すらまともに持ち上げられない。


「終わってんだよ。今のお前は、もう心臓すら動かすのがやっとなんだよ」

「何だとっ⁉」


 俺が打ち込んだ必殺パンチは、ブロリーにとって超有益なエネルギーを供給するための物だった。

 肉体は活性され、疲労は消える。おまけに潜在能力を限界まで引き出し、体中から力が沸き上がる。ただその代償として、心臓や横隔膜を動かすための、生命活動に必要な体力まで根こそぎ使ってしまう。


 ブロリーにとって、害となるエネルギーなら即座に対処されてしまう。しかし有益となれば気付きもしないだろう。そう考えて送り込んだエネルギーは、俺の予想通りの成果を発揮した。


 人間からしかエネルギーを供給できないブロリーには、ガス欠が一番効果的だと考えた俺の読み勝ちだった。それも運が良い事に、ブロリーが何も考えずに力を使い切ってくれたことで、逆転劇のお膳立てまでしてくれた。

 まぁ当然、ここで窮地に陥ったブロリーが覚醒して、俺みたいに微生物やウィルスからもエネルギーを吸収できるみたいな事態には絶対させないために、半径五メートルくらいは俺が支配したから、その対策も考慮済み。

 

 つまりブロリーは、もうその場から動く事さえ出来ず、体力の回復も出来ない。そして既に最後の体力である生命活動に必要な体力まで使っているため、あと僅かで心臓が停止して体は使い物にならなくなる。


 俺の勝ちは確定だった。


「さぁどうする? 負けを認めて俺に聖刻を渡すのか、それともこのまま体が死んで、魂ごと俺に吸収されるのか」


 今ならブロリーから、直接魂を引っ張り出すことは可能だった。だけどここまで戦えた相手。最後の決断はブロリーに選ばせたかった。


「くっ……くっそぉぉぉ……」


 まだ諦められないブロリーは何とか体を起こそうと頑張る。だがもう言葉を発する体力すら無駄にできない状態。起き上がれるはずが無かった。

 そして無駄に体力を消費してしまったようで、力なく横たわり、もう呼吸すらまともに出来なくなってしまった。

 

 それでも俺はブロリーの判断を黙って待った。


「くっ……そぉ……ぉ……」


 ブロリーは意地を貫き通した。漫画やアニメのような最後ではなく、衰弱して悔しさを噛みしめ静かに息を引き取った。

 その瞬間、ブロリーの体から小さな白い光の玉が沸き出し、それが全て俺の体内に吸収された。


 それはブロリーが持っていたアズ様の聖刻だった。


 聖刻が吸収されると温かさを感じ、力が漲るような感覚がした。そして聖刻の力の応用性が一気に増したのが分かった。


 しかしそこに喜びは無く、横たわる戦友への寂しさと、敬意しかなかった。

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