超激戦
「うおおおぉぉぉ!」
ブロリーとの第三ラウンド。巨大な赤鬼と化したブロリーは最早人知を超えた存在となり、そのパワーは一撃で地面にクレーターを作る程だった。
そんなブロリーに対し、初速だけは勝る俺は何とか距離を保ちつつ、攻撃を躱すので精一杯だった。
「どうした。避けているだけでは俺には勝てないぞ」
最初は暴走気味だったブロリーも、次第に理性のコントロールを掴んだようで、白目は相変わらずだが冷静さを取り戻していた。
「今考えてんだよ。お前の倒し方を」
「俺を倒す? “お前”では無理だ」
“貴様”ではなく“お前”。パワーアップの高揚感で怒りまで消えている。また怒らせるには、今の赤鬼状態のブロリー相手ではかなり苦戦しそうだった。
「無理じゃねぇさ。見ろよコレ。お前が暴れまわってこんだけ商店街壊してんのによ、俺はまだ負けてないんだぜ? 先ずは俺にその馬鹿力を当ててからそういう事は言え」
とにかく馬鹿力。地面は抉るし、建物は壊すし、何でも散らかす。だけどどうやら奴は格闘技素人らしく、攻撃は全部テレフォンパンチ。お陰でスピードで上回られても軌道が読みやすく、今のところ被弾は無かった。
「それによ。お前が暴れまわったお陰で誰もいなくなった。お前が思うよりも結構良い勝負してんだよ俺たち」
赤鬼ブロリーの馬鹿力には、さすがの野次馬たちも姿を消した。それにおそらくアルカナの人たちが動いてくれたようで、もう警察官も商店街に近づかなかった。
「良い勝負だと? 俺にはお前の死が近づいているようにしか見えないぞ?」
「もうネタは分かってんだ。お前、人間からしか力を得られないんだろ?」
先ほど警察官を吸収し、パワーアップと治癒したのを見て、ブロリーの力の源が分かった。ブロリーは人間からしか力を得られない。
肉体が同じ人間からなら馴染みも良いしそのまま力として扱える。そのうえ人ひとりから得られる命の量は数えきれないくらいある。それに、魂の引っ張る力の強さも納得がいくし、あれだけ肉体が膨れ上がるのも納得だった。
つまり、このまま長期戦に持ち込めば、いずれ蓄積ダメージで倒せる。短期間での負けはあっても、長期的な戦いとなれば俺にも勝機がある分、意外と俺たちの戦いはイーブンだった。
「それがどうした? どうやって怪我を治しているのかは知らないが、お前を木っ端微塵にすれば終わる話だ」
こいつ、俺の力の正体に気付いていない。体が無くなれば勝てると思ってる。
やはり脳筋。ブロリーは力で押し切れると思っている。
多分アズ様の聖刻者同士の戦いは、如何に早く相手の力の源を知る事が勝敗を分ける。それを理解していないブロリーには、大きな隙が見えた。
「そうか。なら、やってみろよ」
「では、遠慮なく。いくぞっ! うおおおぉぉぉ!」
やっぱりこいつは全然分かっていない。今まで通りのやり方じゃ攻撃は当たらないと言っているのに、また体全体に力を入れて吠えた。
だがこれなら俺が勝つのは時間の問題だと思っていると、少しは知恵があるようで、大きく地面を抉り、破片を飛ばし弾幕を張ってきた。
飛翔する土量は凄まじく、大小さまざまな破片は銃弾と化す。おまけに砂埃も混じる黒い波は土石流のように襲い掛かり、回避は不可能だった。
クソッ! 避けきれねぇ!
飲み込まれた際の負傷に関しては問題なかった。一番の問題は飲み込まれた後、体勢が崩れた中でブロリーの攻撃をどう受けるかだった。
ブロリーの攻撃を受ければ、間違いなく体が吹き飛ぶ。俺の体が無くなれば勝ちだと思っている以上、こちらとしては勝機が見えるまでは、ブロリーにそのことを悟られたくは無かった。
出来るだけ体勢を崩さず、次の行動へ移せるか。その事だけを考え迫り来る土石流に備えた。ところがブロリーは思っていたよりもさらに知恵があるようで、まさかの迫り来る土石流の中から飛び出してきた。
「うおおおぉぉぉ! 死ねぇぇぇ!」
煙幕からの予想外の登場には、さすがに対処が間に合わなかった。そこで直撃だけは避けるため、背筋がブチブチ音を立てるほど強引に体を捩じり、何とか右肩で拳を受けた。
するとやはり想像していた通りの衝撃が走り、右胸から先が全部吹き飛ばされ、おまけに体ごと遥か後方へとぶっ飛ばされた。そして地面を転がると首まで皮一枚で繋がっているような状態になり即死だった。ただ運が良かったのは、煙幕の中へと飛ばされたことでその状態をブロリーに見られることはなく、俺の不死を悟らせずに済んだことだった。
「ハッハッハッ! 体が吹き飛ぶのが見えたぞっ! 今のは死んだっ! 死んだだろっ!」
「死んでねぇよ」
「な、何っ⁉ 確かに体を吹き飛ばしたはずだっ⁉ 何故生きているっ⁉」
「気のせいだろ? お前が吹き飛ばしたのは俺の右肩だけだ」
「そんなはずはないっ! 確かにお前の体を吹き飛ばしたはずだっ!」
ギリギリ。殴られた瞬間、肺ごと吹き飛ばされたのは事実。だけどブロリーは脳筋だから、思い切りハッタリをかませばごまかし通せると思った。
「自分で“はず”って言ってんだろ? お前だって分かってんだろ?」
「そんなはずはないっ! 確かにお前は死んだはずだっ!」
「ほら、また“はず”って言った。確かなのか“はず”なのか、どっちなんだ? オメェの脳みそどうなってんだよ?」
「きっ、貴様ぁぁぁー!」
思い切り余裕をかまして誤魔化した。するとブロリーは上手く騙されてくれた上に、おまけに怒ってくれた。
それもそうだろう。俺はずっと屁理屈屋のリリアと、理論派のヒーと戦ってきた。そんな百戦錬磨の俺にとっちゃ脳筋ブロリーなどでは役不足。
意外な所で自分の力量を認識しながら、リリアとヒーに感謝した。
軽い挑発に引っ掛かったブロリーは、相当頭に来たのか頭から白煙が上がる程体を赤め激昂する。そしてまた単調な行動を繰り返す。
「許さんぞぉぉぉ!」
怒ったブロリーはもう煙幕作戦を止め、ただ愚直に突っ込んでくる。しかし直進スピードは猛烈に速い。
「うおおおぉぉぉ!」
「危ねぇな!」
猛烈な速度で突っ込んできても、攻撃は全部テレフォンパンチ。煙幕なしでは避けるには苦労しない。それどころか振りが大きくなったせいで振り終わりの隙は大きく、増々俺は有利になる。
ここに来てリリアとヒー、今まで二人の相手をして来たことが如何にレベルが高かったのかと思うと、自分は口の上手さだけは世界レベルの域にいるのだと勝手に誇らしくなった。
しかしながら、現在俺の不利は変わらず、少しでも掠れば瀕死のダメージを追う。もし不死がバレればブロリーは即座に魂を引っ張り出す作戦に切り替える。何とかして攻略の糸口を掴む必要があった。
「おっと、危ねぇ!」
「死ねぇぇぇ!」
振り回す拳は正に棍棒。こちらの攻撃は効かない。心中を悟らせないために何とか余裕な姿を演じるが、徐々に追い詰められていく。
最初は長期戦なら勝てると踏んでいただけに、ここまで来ると次第にその考えは甘かったと痛感し始めた。
そんな中だった。一体どれくらいブロリーの攻撃を凌いでいたのかは分からないが、その粘り強さが功を奏したようで、徐々にだがブロリーの異変に気付いた。
それはほんの些細な、ブロリーの汗臭さから始まった。
最初はこれだけ激しく動き続ければ汗も掻くし、体臭だって臭くなる。それくらいだった。そこから攻撃を躱すたびにブロリーの汗を浴びるようになり、息の荒さに気付いた。そして最後に体中が汗でずぶ濡れになっているのを見て、確信に変わった。
そういうことか! こいつ人間からしか力を得られないんだった!
疲労。ブロリーも空気中からある程度命を吸収できるかもしれないが、基本的に人間からしか命を得られない。だから俺とは違い動けば動くほど短時間で疲れる。
それに気が付くと、一気に勝利への道が見えた。そこで一発、特大の一発をお見舞いする事にした。
「うぉりゃっ!」
ブロリーの隙をついての一撃は、ガラ空きになったわき腹に見事に刺さった。
「なんだ今のは? それがお前の全力か?」
当然俺の攻撃なんてブロリーには効かない。だけど今はそれで良い。
「全力の一撃だよ。今の一撃でお前は終わりだ」
「何を言っている? そんな攻撃では俺に痛みすら与えられない」
「俺の攻撃は特別なんだよ。今効かなくても、お前にとっちゃ致命傷になるんだよ」
「何を言っているお前? そんなものなど俺には効かん! 直ぐに殺してやる!」
「効くかどうかは直ぐに分かるさ。来いや! 最終ラウンドだ!」




