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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
110/186

熱戦

 高速で走る車から飛び降り、さらにそこから高架橋を飛び降りた俺は、ここでの追跡者との戦闘を避けるため、住宅街に身を潜めていた。


“近づいて来る。ここで戦う気か?”


 同じ聖刻を持つ者なら、寧ろ戦って聖刻を奪いたい気持ちはあった。だがこんな人だらけが住む地域での戦闘となれば被害は避けられず、ここで戦いたくは無かった。

 そこで気配を消して何とかしようと思ったのだが、どうやら聖刻同士は引き付け合うようで、どんなに隠れながら移動しても追跡者は離れなかった。


 それが悪かった。


「あっ……」


 あの城下町みたいな路地を避け逃げ回ると、最悪な事に人だらけの商店街に出てしまった。


 車両通行止めのアーケード街。そこには八百屋や服やなど個人商店が並びチェーン店のような店もある。歩行者は乳母車を押す女性や年配の買い物客で溢れ、自転車を押して歩く人までいる。

 そこを横断した先には車通りの激しい道が見え、アーケードを抜けるにはかなりの距離があった。


“どうする!”


 もうすぐそばまで相手は迫っており、アーケード街に入らなければ姿を確認される位置まで来ていた。


“くそっ! イチかバチかだ!”


 もう逃げるのは限界だった。そこでイチかバチかの賭けに出るしかなかった。


 アーケード街を横切った俺は、車通りの激しい道までの間で足を止め、ここで迎え撃つことにした。

 上手くいけば会話で場所を変えられる可能性もある。だけど相手から感じる気配は殺気が混じる程で、本当に賭けに近かった。


 相手がどういう考えを持っているか知らないが、それでも元人間。何とかなる。大丈夫。


 そう思い賭けに出たのだが、どうやらその考えは甘かったらしく、姿を見せた相手は何がどうなったらそうなるのかは分からないが、ドラゴンボールのブロリーみたいな姿をしており、アーケード街を抜けるときに通行人をぶっ飛ばしてやって来た。


「お前が聖刻者か」


 上半身裸の肉体は筋肉がはち切れそうなほど膨れ上がり、巨漢に逆立つ頭髪は見上げるほど高い。腕も俺の足よりも太く、差す指も異様に太い。その上気配を追ってきたのに『聖刻者か?』の知能の低さと、おまけの白目。


 思わず『カカロット』と言うんじゃないかと思ってしまうほどのブロリストで、もう会話なんて通じないのが一目でわかった。


「おいおい、一体どうやればそんなんなんだよ?」


 不思議な物で、恐怖は無かった。寧ろどういう力の使い方をするのか、どう攻略するか考え、こいつを倒せば聖刻が貰えるとウキウキするほどだった。


「何を言っている。さっさとかかって来い」


 やはり会話が通じる相手ではなかったようで、すぐにでも襲い掛かってきそうな勢いだった。

 しかしやはりここで戦うには気が引け、何とか上手く言って場所を変えようと思った。


「そう焦んな。ここで暴れれば直ぐに警察が来て邪魔が入る。もっと良い場所でやろうぜ?」

「邪魔? そんな物は俺たちには無い。そうだろう?」


 やっぱり駄目だった。まるで今のは“俺たちには既に邪魔をできる者はいない”みたいな強者の冗談に聞こえたようで、ブロリーは体に力を入れさらに筋肉をはち切れんばかりに膨らませた。

 それは本当に大気を震わせるという例えがぴったり合うようで、ビリビリとしたオーラが伝わって来た。


 その感覚に驚いていると、突然戦闘が始まった。


「行くぞ」


 本当に知能の低いブロリー。戦う事しか考えていないようで、俺が同意も構えも取っていないのに突っ込んで来た。それもあの巨体にも関わらずかなりの速度が出せるようで、正にダンプ―カーが突っ込んでくるとはこの事だった。


「くそっ!」


 距離は十分あった。だがいきなりの突撃とあまりの速度にはとても対応が間に合わず、あっという間に距離を詰められた。それもぶっ飛ばすつもりらしく、ショルダータックルをかましてきた。


 これには正直どうすることも出来ず、両手でガードして受けるしかなかった。


“こいつマジか! なんちゅうパワーだよ!”


 ぶつかった瞬間、両腕の骨が折れ、内臓まで潰れるような衝撃を受けた。それでもまだ衝撃を受け流せず、本当にダンプに轢かれたんじゃないかくらい宙を舞ってぶっ飛ばされ、地面を転がった。


 普通の人間なら、ほとんど助からないだろう。両腕、胸骨、肋骨が折れ、内臓もかなりの損傷を受けた。ついでに言えば地面に衝突したときに頭蓋骨も折れ、脳もダメージを受けた。

 そんなダメージも、アズ様の祠の時ほどじゃないが、あっという間に完治させた。


「死んだか」

「勝手に殺すんじゃねぇよ」

「ほぅ……」


 ブロリーにとっては余程会心の一撃だったらしく、声に反応して俺がむくりと起き上がると、驚いたように眉を上げた。


「お前の心臓が砕ける音が聞こえたはずだぞ?」

「空耳だろ」

「随分と頭から血が出ているぞ? 大丈夫か?」

「あ? テメェのせいでこうなったんだろ」


 奴も俺と同じアズ様の聖刻者。どんなに物理的な攻撃をしても意味が無いのは分かっているはず。なのにまるで俺のダメージを確認するかのような言葉には、意味が分からなかった。


「さっさと食事をして来い」

「あぁ?」

「あっちに行けば人が沢山いるぞ」

「何言ってんだテメェ?」


 ブロリーが何を言いたいのかが分からなかった。わざわざ商店街を指さし、自分が通行人をぶっ飛ばしたせいで大騒ぎしているのを見せて笑みを零す。


「良いから掛かって来いや。次はテメェに一発入れてやるからよ」


 多分ブロリーは、取り込んだ命を肉体強化に使っている。それも俺とは比べ物にならないくらいの量を取り込める。

 多分これは、俺が治癒が得意なように、聖刻に対しての個々の特性や才能から来るもの。こうやって様々な相手から聖刻を奪う事でその力の特性を獲得することが出来る。

 巨体と白目は要らないが、あのパワーとスピードは獲得していても損はなく、俄然やる気が出てきた。


 そこで見様見真似だが、俺なりに肉体を強化して対抗することにした。


 そんなことを知らないブロリーは、簡単に俺の挑発に乗り、また同じようにタックルを仕掛けてきた。


「まだまだ元気だな。今度は殺してやる」


 やはり知能は低いらしく、どうやらさっきのタックルは本気だったようで、ほとんど変わらない速度で突っ込んで来た。


「馬鹿かテメェ!」


 今度の肉体を強化した体では、一度見た事もあり簡単に躱すことが出来た。そして言葉通りがら空きの左わき腹に一発お見舞いしてやった。


「⁉」


 完璧に捉えた全力の一発。それも拳が砕けるほどの。なのに殴った瞬間、鋼鉄の塊を殴ったようなイメージを抱くほどの感触がして、思わず動きが止まった。


「なんだ? 今のは?」

「くっ!」


 ブロリーめ!


 あり得ん硬さだった。もうタイヤとかじゃなく、生物ですらないと感じるほどビクともしない。

 そんな驚きとブロリーのセリフのせいで動けなくなっていると、本当に軽く、まるでハエを払うように振るうブロリーの攻撃を顔面にもろに受けてしまった。


 首の骨が折れた。顎が砕けた。歯が飛んで行った。本当に手打ち程度の払いだったが、そのパワーは計り知れず、重機でぶん殴られたのではないかと思うほどぶっ飛ばされ、ついでに民家の塀を壊す始末だった。

 

「今度こそ死んだか」

「あぁ死んだよ。もう二回は死んだ」

「何っ⁉」


 こいつはどんだけ殺す事に自信があるのか、しつこく訊く。だけどそんなもんは何の意味も無い事は知っているはずなのに、俺が平然と立ち上がると驚く。


「何なんだよテメェ? そういうキャラで行こうとしてんのかよ?」

 

 キャラ作りは確かに必要。もし最後まで生き残って英雄になれば歴史に名が残る。そう考えると、意外と先を見据えているブロリーに感心した。


「お前、化け物か⁉」

「あぁ? そりゃこっちのセリフだ……って、もうそれは良いんだよ。テメェの役作りはもう良いだろ? そろそろこっちも本気で行くぞ」


 準備運動は終わった。ここまでは自己紹介的に力を試していたが、これ以上ドラゴンボールごっこを続けても意味がなく、そろそろ本気で聖刻を奪いに行こうと思った。


 そこで先ず手始めに、通常の肉体強化では攻撃が通らないことが分かったので、両手を合わせ一点に力を集中させ、それを拳、肘、肩、背中、腰、膝、足の部分的に回し、体右側を限界まで強化した。

 っと言っても、ブロリーのような肥大ではなく、フィリア直伝の爆発力を高める強化を行い、重くならないようにした。


「今度のはちょっと痛ぇぞ。打撃の鬼直伝だ」

「面白い、やってみろ」


 ブロリーとは違い見た目の変化はほぼ無い。だがエネルギー量の違いは分かるようで、ニヤけていたブロリーの表情が変わった。


「行くぞコノヤロー!」


 小細工なんてもんは、俺は出来ない。だから全力で突っ込み、全力でぶん殴るしかない。そんな男気なのか、強化した腕が思いのほか脅威になったのか、ブロリーは下手な動きをせずにガードの上から受けた。


 魂を体から弾き出すつもりで殴った一撃は、破壊力十分だった。打ち込んだ瞬間俺の右腕から肩までぶっ壊れたが、何百キロもありそうなブロリーの巨体を大きく後退させた。


 十メートル、いや十五メートルはぶっ飛ばした。体幹が強いブロリーは体勢を崩さなかったが、それでも体全体を後退させる衝撃を受けた。


 これなら十分ブロリーにも力を示すことが出来た。そう思っていたのだが……


「なんだ? 今のは?」


 全くダメージ無し! それどころかどや顔で再びブロリーのセリフを言われる始末! 確かに肉体的ダメージをいくら与えても意味が無いのは分かっていたが、自信があっただけにここまで馬鹿にされるとイラっとした。


「もしかして、今のが全力か?」


 くそっ! 腹立つ!


 肉体強化の面では勝ちを確信したようで、おちょくるように言う。


「止めだ止め。筋肉ではオメェの勝ちだよ」


 勝ち誇ったようなブロリーには相当イラっとしたが、これ以上やっても無駄なので、ここは冷静に素直に負けを認めた。

 

「だけどここからは筋肉なんて意味ないぞ!」


 俺は冷静だった。だからブロリーが勝ち誇って油断しているのが分かった。だから決して頭に血が上っているわけじゃなかった。だから決して、無謀に突進したわけじゃなかった。

 その証拠に、いきなり俺が突進してもブロリーは対処が間に合わず、簡単に肩に乗って喉を掴むことが出来た。


「ここからは本当の力比べだ! テメェの魂を引っ張り出してやるぜ!」


 アズ様の聖刻者の戦い方も、死なない相手から聖刻を奪う方法も分からなかった。だけどブロリーとの戦いのお陰で、なんとなく勝ち方が分かって来た。

 それは、相手に負けを認めさせるか、強引に本体である魂と云われる核を引き抜き取り込むこと。

 肉体的な死が無い俺たちにとっては、多分それしか奪い合う方法は無い。

 そう感じ、とにかくやってみる事にした。


「貴様―!」


 どうやらこれが正解。首を掴んで、文字通り命一杯の力を送り込んでブロリーの魂を引っ張ると、ブロリーも引っ張り出されまいと俺の首を掴んで綱引きが始まった。


「このやろー! 諦めやがれ!」

「ふざけるな!」


 肉体の強弱は関係なかった。あるのは支配できる命の総量。俺が送り込む命とブロリーの命が、ブロリーの体内で戦争を繰り広げる。

 先に仕掛けた分戦場があっちにあるお陰でかなり俺の有利。かなり手強いがここまでアドバンテージがあればほぼ貰ったような物だった。


 ところが、まだまだ精神的には弱っていなかった事や、元より引っ張る力の方はブロリーの方が強かったようで、次第に押し返されるようになった。それでも周りからガンガン命を補充して対抗して何とか均衡を保つまで戻すと、ここから膠着状態に入った。


「しぶとい野郎だな! さっさと諦めやがれ!」

「雑魚が! 捻り潰してやる!」


 命個としての強さならブロリーが上。だけど補給力では俺が上。まだまだブロリーには戦力的には余裕がある状況だが、この状況が続けば間違いなく俺が勝つ。

 かなりの長期戦にはなるが、ほぼ勝負が見えた戦いだった。


 そんな中、この状況をブロリーも理解したようで、ここでまさかのパワープレイをして来た。


「お前、何か忘れていないか?」

「ああ? テメェが負ける事か!」

「俺の方が、筋力は上だ」

「それがどうした! 負け惜し……」


 完全にやられた。命の引っ張り合いに気を取られていると、ピンチを察したブロリーは突然掴む俺の首に力を入れ、骨を折った。

 この瞬間、神経まで切断されたのか、突然体に力が入らなくなり腕も使えなくなった。


“やられた! マズイ!”


「お前の負けだ」


 腕がブロリーの首から離れてしまい、こちらから戦力を送れなくなると、一気にブロリーの兵隊が体内に流れ込んで来た。こうなると戦況は一気に不利になり、慌てて神経を繋ぎ直し再びブロリーの首を掴んでもかなり危険な状況だった。


「どうやら諦めるのはお前の方だったな。俺の勝ちだ」


 一気に流れ込んだブロリーの兵隊の勢いは、あっという間に俺の核まで辿り着いた。そうなるともう負けるのは時間の問題だった。そんなピンチに、今度は俺が咄嗟にパワープレイを思い付いた。


「俺の姉ちゃんがよ……やべぇ奴なんだよ」

「? 命乞いか?」

「……違ぇよ。やっぱ俺たち姉弟なんだと思っただけだ……」

「何が言いたい?」

「こういう事だ!」

「ぐおっ!」


 フィリア流殺人術、目潰し。


 演習の時フィリアが見せた目潰し。このピンチに目の前にあるブロリーの白目を見て思い出したのは、あの人形の目を壊したフィリアの姿だった。

 ただフィリアのような技術が無い俺は、あんなスマートな壊し方じゃなく、顔を掴んで親指を目に強引にねじ込むという荒業だった。


「貴様―!」


 俺たちアズ様の聖刻者にとって、痛みなんてものは壊れた個所を知らせるシグナル。だけど不意を突かれたり経験が無い痛みがすると、人間時代の名残が出る。

 その名残が俺を救った。


 目を潰された事に驚いたブロリーは、魂を引っ張る事を止め、咄嗟に俺を放り投げた。

 それは怒りも混ざっていたのか、力任せに投げられた俺はアーケードの天井まで飛ばされ、ステンドグラスを割って商店街の中に落ちるほど乱暴だった。


「ほんと何なんだよあいつ……」

『どこへ行ったー!』


 何が彼をそうさせるのか。目玉をくり抜かれたくらいで激昂し、自分で俺を投げたのにも関わらずどこだと叫ぶ。


「子供かよ……」


 多分お父さんにもぶたれたことが無いのだろう。怒り心頭の彼は癇癪を起したようで、その後物をぶっ飛ばしながらアーケード街に入って来た。それも相当怒っているようで、目玉も直さず息を荒げるほどで、完全に冷静さを失っていた。


 アーケードにはまだたくさんの人がいた。ブロリーがぶっ飛ばした人を看病するのは仕方ないとして、スマホ片手に俺たちの戦いを見学していた野次馬を見ると、もう逃げない奴が悪いと思い、被害などどうでも良くなった。


「落ち着けよブロリー。たかが目じゃねぇか。何をそんなに怒ってんだ?」

「貴様―!」

「あ、お前もしかしてナルシストか? “僕の綺麗なお顔が傷付けられちゃった!”って怒ってんのか?」


 激昂しているのなら丁度良かった。怒りは精神的な力を多大に使う。もっと怒らせればそれだけ疲労も早くなり、弱らせるには都合が良かった。

 そこで出来るだけ小馬鹿にして挑発した。


「許さんぞー! 貴様―!」


 本当に単細胞。目玉もそのままに雄叫びを上げると、思惑通り突撃してきた。


「良いね~。第二ラウンドだ!」


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