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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
二章
11/176

普通と普通

「このように、耐性のある一部の生物を除き、加護印を持たない者は、魔王やその配下である魔人から発せられる瘴気に、僅かに触れるだけで精神に異常をきたします。この精神に異常をきたした状態を……」

「なぁ師匠? 師匠ってなんで強いんだ?」

「やっぱりウンコとか食べられるの?」


 アドラたちの誤解が解け、クレアたち抜きで席順が決まると先生は何事も無かったかのように、普通に一時限目の魔王についての授業を始めた。

 これには、この先生は本当に大丈夫なのかと不安になり、俺だけじゃなく全員が疑心暗鬼のまま授業を受けていたのだが、俺はそれ以上にそれどころではなくなっていた。


「そりゃ師匠だもん。食べられるに決まってるだろパオラ?」

「い、いや……ウンコはちょっと……」

「そうだよね。だって師匠だもんね?」

「じゃあ石は?」

「石もちょっと……」

「もちろん食べられるよアドラ。だって師匠だよ?」


 クレアとキリアがいなくなったことで席決めはとても円滑に進んだ。しかし廊下側の俺の前に席を陣取ったのはアドラとパオラだったため、もう授業なんて全く耳に入らない状態だった。


「つまり、加護印とは、瘴気に対抗する手段として最も有効であり……」

「すげぇな師匠! 石食えるのか? フィオラでも無理だぞ?」

「い、いや……」

「だからフィオラ、師匠を師匠って呼べって言ってるんだよアドラ」

「さすがだな師匠」


 この二人、先生が一生懸命に教えてるのに、丸ごと体を俺に向け、とにかく俺に興味津々。だけどこの二人の強さの基準が分からん! なんでウンコとか石とか食えるのが前提なんだよ!


 そして特に困るのが、この二人、真実に決して辿り着くことの無いスタンド攻撃でも受けているのか、必ず同じ所に戻る。


「なぁ師匠? 師匠ってなんでそんなに強いんだ?」

「あ、師匠って料理とかするの?」

「そりゃ師匠だもん、するに決まってるじゃん」

「い、いや……料理もちょっと……」

「そうだよねアドラ、だって師匠だもん」

「じゃあ師匠、毒とか食えるのか?」

「いや……毒は……」

「そりゃ食べられるよ。だって師匠だもん」

「そりゃすげぇな師匠! フィオラでも無理だぞ?」

「だからフィオラ、師匠を師匠って呼べって言ってるんだよ」

「さすが師匠だな……なぁ師匠? 師匠ってなんで強いんだ?」


 ずっとこんな感じ! なんだかんだ話題は変わるが、ほとんど辿り着く質問は何を食えるか。もうマジ誰か助けてよ! スクーピーの隣のフィリアが羨ましいよ!


 ――そんなこんなでやっと昼食を迎えた。しかしここでも異変が起きる。


 睨み合いや席決めで時間を潰したせいで一時限飛んで、やっと二時限目終了のチャイムが鳴ると、それと同時に後ろの扉から、レストランの店員みたいな人が続々荷物を持ち入場してきた。そして何をするのかと思えばテーブルを広げ、アニメとかで見る貴族が食べるような簡易だが豪勢な食卓を作った。


 そこに、エリックとスクーピーが当然という感じで腰を掛ける。


 え? ……まさかあれが昼飯なの?


 驚愕だった。確かにエリックは休憩時間に俺たちは弁当があり、日本では教室で皆で集まって食べるのが普通だと教えると、『そうなんですか!』と驚き、スマホで誰かに昼飯について連絡していた。それにパオラたちでさえ自分で作った弁当を持ってきてると言うのに、この有様はもう訳が分からなかった。


 そんなエリック、食卓に着くと俺たちを見て明るい表情で言う。


「さぁ皆さん。ご遠慮なく卓に着いて下さい。少し狭いですが一緒に昼食を楽しみましょう」


 だ~れも動こうとはしなかった。そりゃそうだ。寧ろ関わりたくない。


「あ、あのエリック……申し訳ありませんが、私たちは自分たちの机で頂きますので、お、お構いなく……」


 フィリアー! お前には気遣いって言葉は無いのか!


 高級料理のフルコースみたいな料理が並べられた食卓は、最早高級料理店だった。そんな景色に流石にあそこで飯を食えと言うのは無理な話だった。だってテーブルには白いクロスが敷いてあって薔薇やワインやら一杯飾ってあるし、何よりエリック弁当じゃないじゃん! 


 それでもあそこまで準備してくれたエリックの誘いを無下に断るフィリアは、少し辛辣だった。

 

「そ、そうですか……あ、スクーピー?」


 だが、ここでフィリアが見せた弁当に、スクーピーがエリックよりも早く気付いたのか、席を立って俺たちの横に来たことで、エリックはやっと場違いな事に気付いたようで、態度を改める。


「あ、あの……申し訳ありませんが、この食卓を片付けて頂けませんか?」

「どうなされましたかエリック様? 私たちに不手際がありましたら、何なりとお叱り下さい」

「いえ、そういうわけではありません。これだけの手間を掛けて頂き誠に感謝しております。ですが……やはり私は間違いを起こしていました。どうやらここは私が知る“教室”とは違うようです。私とスクーピーにはサンドイッチか何か、簡易に食せる物を下さい。私たちは共に勉学に励む盟友と共に、昼食を楽しまなければいけないようです」

「そうでございましたかエリック様。私どもの配慮が足らずにご苦労をお掛けしてしまい、申し訳ありません。早急に片付けさせて頂きます」

「いえ。これは私の落ち度です。爺たちの責任ではありません。どうか気に病まないで下さい」

「ありがとうございますエリック様。では、ただいま軽食を用意いたします。こちらの料理は私共で処理させて頂きます」

「お願いします。それと、料理長には『私の勝手で作って頂いた料理を無駄にしてしまいました。後で謝罪に訪れます』と伝えて下さい」

「承りました。では」


 正に貴族の会話。しかし俺たちからしたらただの寸劇。それでもやっと終わった演目に、俺たちは昼食に入った――


「へぇ~、パオラって料理得意なんだ?」

「うん。いつもやってるから。皆一つずつ食べてみて」

「良いんですか?」

「うん! 私たちもう仲間じゃない!」


 エリックの用意したテーブルが片付くと、俺たちは机を集め、全員で昼食に入った。そこでパオラが自分で作ったというサンドイッチに注目が集まり、場は良い雰囲気に包まれ、リリアたちも意外と嫌な顔をしなかった。


「あ、美味しい! 凄いですねパオラさん! 上手です!」

「え? そ、そう……?」

「はい。私も美味しいと思いますよパオラさん」

「なんか嬉しい……でもパオラで良いよ、私もリリアとヒーって呼ぶから」

「ありがとうございますパオラ!」


 意外とパオラは女の子で、見た目はヤンキーだがきちんと青りんご一個しか持ってきてないアドラの分も用意しており、リリアたちとも相性が良さそうだった。


「おぉ! スクーピー美味しいんですか?」

「うん!」


 パオラが作ったサンドイッチを食べたスクーピーは、飛び跳ねるようにして体全体で美味しいと示す。それがまた愛らしく、場はますます良い雰囲気になる。


「あ、本当だ。パオラの作ったサンドイッチ超美味しい。お店とかで売れるんじゃないのか?」

「ありがとう師匠!」

「あぁ、本当に美味い。パオラは良いお嫁さんになれる」

「また~。本当に?」

「本当ですよパオラ。私も美味しいと思います」

「ありがとうフィリア! じゃあフィリアとジョニーはもう一個食べて良いよ~」

「ありがとう」

「ありがとうございます」


 ジョニーもフィリアもすっかりパオラとアドラには心を許したようで、最早俺たちは友達と呼べる関係になっていた。


「エリック、お前も美味いと思うだろ?」

「はい……とても美味しいです……」


 食卓を片付け、サンドイッチを持ってやって来たエリックだったが、やはりこういうのは慣れていないのか元気が無い。


「どうしたエリック? やっぱこういうのダメか?」

「い、いえ、そういうわけではありません……ただ……」

「ただ?」

「私は本当に何も知らなかったのだと反省しているだけです」

「気にすんなよエリック。どちらかと言えば俺たちの方が悪いんだから」


 えっ⁉ エリックそんなにあの食卓出した事後悔してんの⁉ 確かに日本じゃあれはイカれてるけど、エリックってそういう学校にいたんでしょう? なら仕方ないよ!

 

 教室が日本風になったのは完全に俺たちのせいだ。だから寧ろ反省するのは俺たちの方だが、気の優しいエリックはまるで自分の責任のように暗い顔をする。


「そんなことはありませんよリーパーさん。死んだ祖母が言っていたんです『英雄として生きなければいけない時はいつか来る。その時のために沢山の普通を知りなさい』と」

「普通?」

「はい。祖母は聖刻を持つ英雄でした。そんな祖母曰く、英雄にとって最も必要なのは、普通の中にあるいい加減さらしいです」

「普通の中にあるいい加減さ? なんだそれ?」


 なんだそれ? いい加減さはじいちゃんを見てれば分からんでもないが、じいちゃんは普通じゃないからよう分からん。


「それは私も良く分かりません。だけど、それを知るには、まず普通を知らなければならないようです。それを疎かにしていたと反省していました」

「ふ~ん。じゃあ俺たちと一杯いればそのうち分かるよ」

「本当ですか?」

「あぁ。だって俺たち普通だから」


 皆にも聞こえていたのか、俺がそう言うと皆がそうだと言う感じでエリックに声を掛け、俺たちは昼食を楽しく過ごした。


 2つ目のいいね! を貰いました。ありがとうございます。同じ人なのか違う人なのかはわかりませんが、誠にありがとうございます。ただ、気を遣わせてしまっているのでしたら、申し訳ありません。

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