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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
七章
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聖刻の旅

 狭く低い空に、凝縮された街。アスファルトに固められた地面は、コンクリートだらけの建物の壁に囲まれ、どこにいても人の姿は消えることは無い。窓から覗く国道には、通勤時の満員電車のように車が犇き、光る信号さえも窮屈に見えた。


「どこかその辺で良いです。降ろして下さい」

「分かりました」


 日本の台所……だったか、そう呼ばれる街。リリアたちとハワイで別れた俺は、聖刻の導きにより大阪にいた。


「ここでよろしいですか?」

「はい。ありがとうございます」


 リリアたちと別れた後、ファウナの助言もあり、俺はアルカナの人の手を借り移動することが出来た。

 これにより俺は一気に日本へ来ることが出来たのだが、本当に目的地がここで合っているのかは不明だった。っというのも、聖刻の導きはかなり大雑把で、ほとんど勘に近かったからだ。

 実際日本へ来たのだって、アルカナの人に聞かれて『あっちの方』から始まり、地図を見て『多分この辺』で指さして、一回東京に降りたら『もっとあっち』ってなって“近い、近いぞ”みたいな感じでやっと到着した。

 だけどこの感覚はかなり正確で、車を停めてくれと言う前には、もう他の誰かの気配を感じ取っているほどだった。


「じゃあ、俺は行きますんで。送ってくれてありがとうございました」

「少々お待ち下さい。リーパー様にお渡しする物がございます」

「え?」


 近くにはいない。だけど向こうも俺の気配は感じ取っているはず。それも悪い事に同じアズ様の聖刻を持つ聖刻者。

 俺が導かれた理由は、今感じている人物ではなかった。導かれているのはもう少し遠い所。だからこの相手には用は無いのだが、向こうがどう出るかは分からないため、すぐにアルカナの人たちからは離れたかった。それなのに引き留めようとする彼らには少々困った。


「携帯電話、スマートウォッチ、どの国でもご使用できるクレジットカードです。ラクリマ様からの御指示により、お渡しするよう仰せつかっております」

「クレジットカード?」

「はい。限度はございません。必要に応じてご使用ください」


 黒いカードにはアルカナのマークが入っており、かなり頑丈に作られていた。


「スマートウォッチはリーパー様の位置を確認するための物ですので、身に付けてご使用ください」

「あ……はい……」


 聖刻を手に入れたからもうこんな物は必要ないし、大体戦闘になればこんな物直ぐにぶっ壊れるか、無くなる。だけどラクリマの名前を出されると素直に従うしかなかった。


「携帯電話は充電が必要ありませんので、お使いにならなくても電源だけは切らないで下さい」

「分かりました……」


 スマホの見た目は普通だった。だけど超高性能だと分かると、金を掛け過ぎじゃないかと思った。


「最後に、リーパー様の近くには、必ずアルカナの者が付く事になっております。通常時はお邪魔にならぬよう姿を隠しておりますが、御用の際はお声がけ下さい」

「あ、ありがとうございます……」


 またどっか遠くに行くときは有難いが、人間が聖刻を持つ俺に付いてくるにはかなり無理があるのではないのかと思うと、ちょっと可哀想な気がした。


「何かご質問はございますか?」

「い、いえ……」


 俺がそう答えると、説明していた人は笑顔を見せた。するといつもの如く白い手袋をした執事みたいな人が車のドアを開けた。


「いってらっしゃいませ。ご武運をお祈り申し上げます」

「あ……ありがとう……ございました……」


 随分こういった待遇には慣れたが、聖刻を貰ったせいかまた昔に戻ったようで、この儀式みたいな感じには戸惑ってしまった。だがこれでようやく解放されるかと思うと……いや、そう思ってもやっぱり気持ち悪い感じがして、そそくさと逃げるように車を降りた。

 それでも尚、彼らは車の前でこちらに向かいお辞儀をしており、周りの人の目も気になるし、最後には人混みを利用して、俺は逃げ去った。


「ふぅ……やっと一人になれた……あっ」


 知らない街、知らない景色。


 やっと解放されると、久しぶりの自由を手に入れられた。そんな気持ちの軽さが出たのか、ふと狭い空を見上げると、改めて清々しさを感じた。それは生まれ変わったときとはまた別の爽快さがあり、初めて来た街に独りぼっちでも不安の一つも感じなかった。


「さて……」


 お金もある、自由もある、時間もある。そして初めて来た街もある。本来なら、先ずは初の大阪を満喫してから目的地を目指すのだが、何はともあれ、近くに居る同じアズ様の聖刻者の気配を追った。

 すると、どうやら向こうもまだ戦う気はないのか、先ほどいた位置からほとんど動いておらず、追ってくるような気配も無かった。

 だが念には念を入れ、目的地を目指しながらもっと離れる事にした……徒歩で。


 目的地はもっと遠い。歩けば多分二日くらい掛かる。だけど田舎の町の駅ならいざ知らず、路線も知らんバスや地下鉄なんて乗れるはずもない。しかしタクシーに乗れば何かあれば巻き込む。

 田舎育ちには過酷な環境だった。


“参った。聖刻を持ってなきゃ泣いてた。やっぱアルカナの人に頼むしかない。だけど……”


 生物としては最強クラスの力を手に入れたはずだが、日本人としては所詮未熟なままだった。それに今アルカナの人たちと分かれたはずなのに、もう助けを求めるなんて見っともなくてできず、人類としても未熟だった。


 それでも二本の立派な脚はあると思い、歩いた。


 ――一時間後。


“どこだよここ!”


 導かれる目的地を目指しひたすら歩いた。だけど歩いても歩いても未だスタート地点付近にいた。っというのも、北海道と違いさすがは元戦国時代に作られた街だけあって、呼ばれるがまま真っ直ぐ歩くとどんどん袋小路に迷い込み、全然行きたい方向へ行けない。

 まっすぐ見える道も微妙にカーブしてたり、行けると思っても家や壁が道を塞いでいて、何回も同じ所を行き来していた。


“しょうがない、もうこれしかない!”


 今の俺に大阪という街は早すぎた。既に都会の高い建物のせいで方角すら見失っており、もうアルカナの人に頼むしかなかった。

 そこで一度大通りに戻り、非常に残念だが手を上げて助けを呼んだ。


「す、すみません。アルカナの人いますか?」


 目立たぬよう小さな挙動で、小さな声で助けを呼んだ。すると流石はアルカナの人。直ぐにスーツを着た若い男女が助けに来てくれた。


「どうか致しましたか?」


 二十代くらいの若い男女。見た目は社会人という感じだが、気配は達人という感じのオーラを放っていた。


「あ、あの……道に迷ってしまって……その~……もうちょっと俺が分かるところまで……送ってください……」


 さっき降ろしてもらって、俺がずっとウロウロしているのを知っている二人。そんな二人に“やっぱり送ってって”というのは、超恥ずかしかった。

 そんな俺に対し女性の方は、嫌な顔一つ見せず快諾してくれた。


「畏まりました。ただいま車を御用意させて頂きます。少々お待ち下さい」


 とても良い人! なんかチェーンソーマンに出てくるマキマさんみたい!


 絶対嫌な顔をされると思っていた。絶対“アイツ道分かんねぇんだ。絶対田舎から出たことないんだ”って思われてると思ったけど、にっこり優しい笑顔で対応してくれる姿に、なんか甘い大人の女性の優しさに包まれた。


 そして車がすぐ来るとドアまで開けてくれて、車に乗って目的地を教えると、おしぼりとジュースまでくれて、涙が出そうになった。


 これで一安心。いよいよここから俺の旅が始まる。何の一時間だったのかは分からないが、やっと地獄から解放されると思うと、ある意味一旅終えた気分だった。

 そう思いホッとしていると、やはりそう簡単な旅ではなかったようで、今まで動かなかった同じアズ様の聖刻者が突然追いかけてくるのが分かった。


 その動きは完全に俺を追跡しており、高速に乗る車に追い付いて来るほどで、かなりの危険を感じた。


「す、すみません! ここで降ります!」

「畏まりました。車を停めて下さい!」


 俺の慌てぶりに事態を察知したのか、走っている最中でも女性は即座に対応する。それも周りに車がいるため直ぐに車を停められる状況ではないのが分かると、女性は席を開け、窓を開けた。


「お時間が無いようでしたら、非常に申し訳ありませんがこのまま窓からの下車願います」

「その方が良いです! 絶対に車は止めないで下さい! 追いつかれます!」


 おそらく俺に付いているアルカナの人たちは、ラクリマ直属の部下。じゃなきゃここまでの対応の速さと無茶を言わない。だからこそこの対応には助かった。


「畏まりました。速度を上げて!」


 相手はかなり早い。車を停めていたらそこで追い付かれる。なんで急にやる気を出したのかは分からないが、このままではアルカナの人たちまで巻き込みかねない状況に、窓から飛び出すことにした。


「ご武運を」

「ありがとうございます! ラクリマによろしくって言っといてください!」

「畏まりました」


 こんな状況でも冷静でいられる人たちを付けてくれたラクリマには感謝した。その感謝を胸に車から飛び降りた。


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