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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
六章
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神の力と実力

「さて」


 二柱の加護印を持つリリアたちを狙いに来た組織。彼らの目的が魔王を復活させて自分たちで倒すというマッチポンプなのかどうかは知らないが、敵対関係にあるようで幸いなことに力試しに付き合ってくれる事となった。


「なぁあんた。あんたはどんな力使うんだ?」


 実戦経験は無い。というか、正直俺は殴り合いの喧嘩さえしたことが無い。だけどアズ様の聖刻のお陰か、初めての場面でも自然体でいられた。


「アズ神様の聖刻者か。随分と若いな」


 謎の紋章を持つという男。欧米人のようで、年齢は俺よりも大分上。武闘家というしっかりとした体形をしていて、身長も高い。何より落ち着きのある雰囲気は達人という感じで、普通に考えて俺が戦ってはダメな相手だった。


「悪いが、最初から全力で行かせてもらう」


 見た目は俺。頭脳も俺。そんな俺を前にしても男は全く隙が無く、構えに入った。

 それを見ても今の俺は全然余裕だった。


 男は構えから見て素手で戦うタイプのようで、武器は携帯しているようには見えない。だけど構えは完全にプロで、やっぱり俺が戦ってはダメな相手だった。

 それでも俺の心には一切の動揺は無く、構えを取る必要も無かった。


「構えないのか?」


 距離は十分あった。だから構えなかったというわけではないが、男にとってはいつ始めて良いのか気になっていたようで、親切に尋ねた。だから礼儀として答えた。


「いつでもどうぞ」

「了解」


 俺が答えると男は笑みを零した。そして言葉通りいきなり全力で来るようで、両の拳が燃え上がった。


 その炎はとても大きく、炎を超えた赤黒い色はこの距離でも灼熱を伝える。男の足元からは白煙が上がる程で、その力は軽々と人間の限界を超えていた。


 エリックの話では、人間が出した炎の魔法のギネス記録は千二百度ほどらしい。男の炎はそれを軽々超えているのを見ると、どうやら謎の紋章の力は想像以上に聖刻に近いと思っても間違いが無いようだった。

 ちなみに電気の記録は八万六千ボルトらしく、ピカチュウにはまだまだ敵わないらしい。


 炎を出すと男は、それでも構えない俺を見て躊躇ったのか、ほんの僅かな間動きを見せなかった。それでも一切構えを取らない俺に業を煮やしたのか、一気に飛び込んで来た。


 その速度、異常。十メートルはあったという距離は一瞬に縮まり、灼熱の拳が俺を襲う。


 それを受け、アズ神様の力を得た俺は、当然何もできずにクリーンヒット。


 その威力、強烈。胸部に拳を受けると、ゴキャゴギャという体内からの音だけがしたことが分かり、痛みや熱さなんてものを感じる前に遥か後方へとぶっ飛ばされた。そして気が付くと異様な焦げ臭さと共に胸部が燃えており、天を仰いで早くも一回死んでいた。


“頼む地球のみんな! オラに少し元気を分けてくれ!”


 超強敵だった。受けるダメージに関してはいくら喰らっても問題なかったが、あの速さ、あのパワーの前では、とても勝てる見込みは無かった。


 傷の完治は数秒で終わった。しかしどうすれば良いのか分からず、ちょっとだけ死んだふりをして考えた。


 どう考えても無理な物は無理! だけど無理だと言うのも無理!


 いくらアズ様の力を得ようとも、基本は俺。そんな俺は、修行してきたわけでも奥義を伝授されてきたわけでもなく、ただアズ様の聖刻を貰ってきただけ。そりゃ無理だった。


 しかしアズ様の手前、ここで参りましたは絶対に言えず、ここは不死を利用して強者感を出す一択しかなかった。


「フフフッ。なかなかやる……」


 多分無限の体力を持つ俺なら、三日くらい休みなく挑み続ければ男も参るだろうと考えた。その作戦で何とかやり切ろうと不敵に体を起こすと、もう死んだと思われていたらしく、男は炎を消して、あろう事かフィリアにまた絡んでいた。


「準備運動にもならなかったが、余興は終わった。さっさと始めようか」

「おいちょっと待て! まだ終わってないぞ!」

「何っ⁉ 生きていたのか⁉」


 流石にちょっと腹が立った。なんかミスターサタン的な奴が尺伸ばしに来たみたいな感じには、それはちょっと無いんじゃないの? くらい腹が立った。


「なるほど、それが神の力というやつか」


 男は余程俺の事を馬鹿にしているのか、攻撃が全く効いていないのにも関わらず不敵に構える。


「どうやら完全に消し去らなければいけないようだな。炭クズにしてやる」


 炎の力には相当自信があるらしい。炎を司ると言っても過言ではないアズ様の力を持つ俺に対しても余裕の姿を見せる。


 男は再び拳に炎を宿すと、襲い掛かって来た。


 突進してくる男のスピードはやはり速い。そして攻撃スピードにもやはり対応できず、めちゃめちゃ被弾する。それも今回は言葉通り炭クズにするようで、ぶっ飛ばされるようなことは無くタコ殴り似合う。

 全身は攻撃を受けるたびに痛みと異音を伝え、発火により炎に包まれていく。それでもみんなの力の回復の方が早かった。


 そんな状態でしばらく攻撃に耐えていると、次第に攻撃の軌道やタイミングを覚え始めた。


 もしかしたらこのまま続ければ勝てる。異常な速度で成長する自分にそう感じるほどで、遂に俺様伝説が始まるのかと期待に胸が膨らんだ。


 そんな中だった。このままでは無理だとでも悟ったのか、ここで男は急に殴るのを止め、俺の胸に両手をそっと添えた。


 この突然の行動には頭が混乱した。それこそ何が起きたのか理解できないほどで、両手を優しく添えられた事で、男が無防備になっているのを見ても何もできなかった。

 その瞬間だった。本当にドラゴンボールでエネルギー弾を喰らったかのような眩い閃光が視界を奪い、気付いた時には体は真っ黒な炭クズに変わっていた。


 そうなるともう何もできず、体はパラパラと崩れ始め、最後に風に煽られると、俺の体は儚く塵となった。


 ビックリするほどの超高温。謎の紋章がまさかここまでの火力を秘めているとは、さすがに驚いた。だけどそのお陰で、この男はここで倒しておかなければならないと気付いた。


“みんな! 済まない! どうしても倒さなければいけない奴がいるんだ! 力を貸してくれ!”


 みんなに頼りすぎるのはあまりしたくはなかった。だけど今の俺ではなりふり構っていても何もできない。このままではフィリアが危ないと思い、見栄もプライドも捨てる事にした。


 体が塵となった俺は、そのまま火口へと降りた。するとみんなが押し上げるマグマに乗せてくれた。そしてそこで体を再生させ、赤いマグマの竜と化したみんなの上に立ち、男の元へ向かった。


「よう。なかなかやるじゃん。今度はどっちの炎の方が上か、勝負しようぜ」


 深い火口から伸びた巨大な竜。その大きさは火口を飛び出しても男を見下ろすほど天高く、男は驚きを越えたじろぎを見せた。


 フウラが言っていた。ゲームやアニメでよく言われる、火に対しては水、水に対しては電気などの弱点は、実際の魔法でも確かに有効ではあるが、決して弱点とは言えない。もし弱点というのがあるのなら、それは同属性で上回れる事を意味すると。

 つまりあの男の弱点は、圧倒的に火力を上回るアズ様の魂の炎。


 男がそれを知っているかどうかは知らないが、自分より遥かに高い熱量を操る俺に怯むのは仕方が無かった。


「どうした? 構えろよ」


 勝負は完全に決着していた。一瞬にして俺の体を炭クズに出来る男でも、さすがにこの量のマグマを前にしてはどうすることも出来ないようで、本能が降参するように両手を前に出し、構えも取れない。

 

 そんな男だが、このまま生かしておけば必ずどこかで聖刻者を傷付ける。俺たちにとっては邪魔以外の何物でもない男には、心苦しいがここで御退場してもらうしかなかった。


「行くぞ!」


 ここはアズ様のお膝元。例え肉体が消滅しても、魂は必ずアズ様が大切に転生させてくれる。


 命を司ることが出来るようになった今の俺には殺すという認識はなく、躊躇いの“た”の字も無く、マグマの竜で男に襲い掛かった。


 竜が突進を開始しても、男は恐ろしさで身動きが取れず無防備で立ち尽くすだけ。これだけ委縮してくれているとピンポイントで狙え、周りにも被害を出さなくて済む。

 初陣としては最高の締めだった。


 そう思い勝利を確信していると、この土壇場で何を思ったのか、突然フィリアが男の前に飛び込んで来た。そのタイミングは最悪で、もう俺には攻撃を止める術はなく、そのままマグマの竜はフィリア諸共男を飲み込んでしまった。


 そこで慌てて竜を上空へと逃がしたが、フィリアを飲み込んだ後もマグマの竜は止まることを知らず、最後には地面を大きく抉りマグマのプールだけを残した。


 呆然自失とはこの事だった。竜の上でマグマのプールを眺めるだけで思考は働かない。その瞬間は本当に世界から音が消えたと思うほど静かで、この時が止まった時間が永遠に続けば良いと思うほどだった。


 そこから直ぐに我に返ると、直ぐフィリアの気配を探した。正確には探したではなく、みんなに探してもらっただが、本心では絶望的なのは分かっていた。


 すると、流石はミカエル様の聖刻者だけあって直ぐにみんなからの生存報告があり、おまけに男まで救助していたことが分かった。


 どうやらフィリアは、直接触れていればその物もバリアで守ることが出来るようで、何故男を助けたのかは分からないが、これには脱力するほどホッとした。


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