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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
六章
105/186

参上

 光り輝くマグマのトンネルを、光を目指し光速で上昇する。みんなは大きな声を上げ、一丸となって俺の体を押し上げる。それはまるで、光のロケット。


 その速度は凄まじく、一体どれほど深い場所にいたのか分からないアズ様の元から、あっという間に俺を地上へ運んだ。


 地上へ出てもその勢いは止まらない。マグマの海を飛び出しても、みんなはきちんとリリアたちの所まで運んでくれるようで、勢いそのまま高い火口の壁の上まで運ぶ。

 ただ、一つだけ大誤算があって、派手に頼むと言ったせいか、火口の遥か彼方、かなり空高く打ち上げられてしまった。


 アズ様の力は、生命を操る力。つまり、肉体的な強化は無く、基本身体能力は今までのまま。

 仲間のピンチに、アニメのようにパワーアップした主人公がカッコ良く登場というのは、例えアズ神様の力を得た俺でも無理があった。


 しかし、死を越え、誕生を越えた今の俺には問題無い。


 空高く打ち上げられたことでリリアたち全体の構図が一望することができ、寧ろ好都合。


 見下ろすと、フィリアと誰かが向かい合っているのが見え、リリアたちは見守っているという立ち位置。そしてフィリアと戦っている相手の後ろにも仲間が見守っていて、多分すでにフィリアにやられたのだろう、他一名が倒れているというのがはっきりと確認でき、狙う着地点は戦う二人の間まで分かる。


 本当は戦う二人の間に突然空から割って入るという感じにしたかったが、俺を押し上げてくれたみんなが噴火のようにマグマを吹き上げたせいで、既に全員が俺に気付いていたのが唯一残念なところだが、ここまで派手な登場になったのなら問題なかった。


 まさかこの俺がカッコ良いアニメの主人公のように登場できる日が来るとは、本当にみんなに感謝した。


 だがやっぱり大誤算は大誤算で、かなりの高さからの着地はベースがヒューマンである俺には無理があったようで、足からの着地のはずがボディープレスのように体からになってしまい、バンッ! となって、コキャッ! となって、『くはっ!』となった。


「リッ、リーパーッ‼」


 フィリアが叫ぶ。


 受けたダメージは致命傷。聖刻を貰う前のリーパー・アルバインなら終わっていただろう。だが! アズ様の聖刻を授かった俺! こんなのは問題にもならない!


“頼むみんな! オラに少しだけ力を分けてくれ!”


 今の俺にはみんながいる。傷を負ってもみんなから少しずつ元気を貰えば元通り!


 およそ五秒。みんなから力を分け与えてもらうと、あっという間に体は全快した。


「リッ、リーパー……大丈夫なんですか……?」

「あぁ。悪い、待たせた」


 アズ様より授かったこの圧倒的回復力。さすがのフィリアも、一瞬死んだかと思って駆け寄ってきたが、俺が何事もなく立ち上がると驚いていた。


「それよりフィリア、ちょっと手見せろ」

「え?」

「良いから、早く見せろ」


 俺を心配するフィリアだったが、それ以上に体は傷だらけだった。

 体のあちこちが痣を通り越して黒くなるほど皮膚が変色しており、服も髪もボロボロ。


 戦っていた相手がどういう力を使うのかは分からないが、ミカエル様の結界を持つフィリアがここまで傷付けられるとは、自分が悠長にしていたことを反省した。


 フィリアが手を出すと、迷わず掴んだ。


「痛っ! 何を……」

「良いから黙ってろ」


 誰かの怪我を治すには、今の俺では直接触れなければならない。それを知らないフィリアはあまりの痛さにムッとした表情を見せたが、仕方が無かった。


 それでもみんなの力を使い治療を始めると直ぐに理解したようで、表情が変わった。


 フィリアは重度の凍傷を体のあちこちに負っていた。中には完全に壊死している部分もあり、今の医学でも完治は難しいと思われるレベルだった。


「ほれ、終わったぞ」


 手を離すとフィリアは、不思議そうに自分の手を見つめた。そして体を動かし痛みを確認すると驚いたような顔を見せた。


「こ、これが、リーパーが授かったアズ神様の力ですか……?」

「あぁ、そうだ。この使い方が正しいかどうかは知らないけど、間違いなくアズ様の力だ」


 正直貰ったばかりだから、どう使えば良いか全く分からない。でも流石は神の力。フィリアの体を完全回復させた。これが果たして正しい使い方なのかは知らないが、俺としてはこれで良かった。


「それより、今どういう状況なんだ? なんでウリエル様の聖刻者と揉めてんだ? それに、アイツは何者なんだ?」

「えっ?」


 今なら分かる。フィリアと対峙している奴から出る聖刻とも魔力とも違う不思議な感覚。そして、それを見守る人物二人から放たれるウリエル様の聖刻の力。

 これがまだフィリアと同じミカエル様の聖刻者なら奪い合いだと分かるのだが、全く関係ないウリエル様の聖刻者のせいで、何が何だか良く分からなかった。


「……彼らは、謎の紋章を持つ組織のメンバーです」

「はぁ? なんでそんなのがウリエル様の聖刻者と一緒にいんだ?」

「簡単な話です。元々彼らは聖刻を目指していた組織です。そして紋章は聖刻を模写した物」

「なるほどね」


 つまり加護印すら発現させられなかった謎の紋章を持つ者が従者となり、ウリエル様の聖刻者を守っているチーム。それは分かった。だけどまだ謎が残る。


「じゃああの爺さんは?」

 

 ウリエル様の聖刻者の隣にいる魔導士のような爺さん。かなり力は弱いが爺さんからもウリエル様の力を感じる。


「彼は隣にいる、現聖刻者の師で、前ウリエル様の聖刻者だそうです」

「それってつまり……」

「エヴァ……私たちの祖父や祖母と同じ時代に聖戦に参加し、争奪戦で力を奪われた“哀れな”人物です」

「……そうか」


 哀れなを強調されたせいで言葉を濁したが、それを聞いてちょっと面倒臭くなった。


 多分俺が聖刻を貰う前の人間だったのなら、超驚きの展開。過去の英雄まで参加してくれば話はややこしくなる。

 だが正直今の俺には聖刻と魔王しか興味が無く、邪魔者以外の何物でもなかった。


「彼は聖刻を奪われた後もガーディアンとならず、英雄たちを恨んで復讐ばかり考えていたみたいです」


 ほらやっぱり! めんどくさい! 


「そこで自分の弟子を聖刻者にして、新たな英雄を作り上げていこうとしているらしいです。今回の魔王……」

「あぁ……大体分かった。あれだろ? 今回の魔王復活はこいつらの仕業なんだろ?」

「え、えぇ……まぁ、そういう事です」


 これは大体想像できていた。というのも、本来五百年周期の復活なのにいきなり五十年の復活になったという話は、当然三年一組でも話題となっており、さんざんあることない事、それこそ『魔王だってそんなときはある』くらいまで話したくらいで、今更言われてもやっぱりとしかならなかった。

 それが今露わになったというだけの話で、もう聖刻も手に入れたし、どうせ魔王は倒さなきゃならないし、どうでも良かった。


「それであれだろ? 復讐ついでに英雄の子孫である俺たちを倒しに来たって事だろ?」


 ここまで話が繋がれば、凡そこいつ等の意図は簡単に読めた。だが……


「あ、それは違います」

「えっ⁉」


 違うんかい⁉


「エヴァの言っていた通りですよ」

「え? なんか言ってたっけ?」

「アテナ神様とフィーリア神様の聖刻の話ですよ。この二柱の加護者は非常に少ないんです」

「あ~そうだった……なるほどね。それでクレアとリリアたちを始末しに来たってわけか」


 クレアとリリアとヒーを始末すれば、じいちゃんたちに復讐もでき、二柱の力も奪える。なかなかの悪党さに、敵としては悪くは無かった。だが……


「違いますよ! 私の話を聞いてましたか?」

「ええっ⁉」


 ち、違うの⁉


「数が少ないんですよ! それだけ見つけるのが大変なのに何故そんな事する必要があるんですか!」


 多分“始末”という俺の言葉が悪かった。だからアズ様の聖刻者のはずなのに、ガチで怒られた。アズ様の聖刻者のはずなのに。


「三人を引き抜きに来たんですよ!」

「引き抜き⁉」


 つまりスカウト! 彼らが敵である以上それは絶対に阻止しなければならない話だが、スカウトの眩い響きに思わず羨ましさで驚いてしまった。


「おいおいおい。リリアたちはなんて言ってんだよ?」

「もちろんそんな話聞くわけないじゃないですか!」

「そ、そうか……」

 

 まぁそれは当然。でもなんかちょっとそれはそれで贅沢な気もして、なんかちょっと妬ましかった。


「それで彼らはリリアたちを攫うつもりだから戦っていたんですよ!」


 フィリアご立腹。昔フィリアのパンツに茶色い絵の具を付けて『ウンコ漏らした』ってやったとき以上に怒っているようで、鼻息が掛かるほど顔を近づけられた。


「そういう事ですから、リーパーはリリアたちの所へ行って、アズ神様の力で守ってあげて下さい!」


 まさかの戦力外通告! この神の力を授かったはずのこの俺に、まさかの戦力外通告!

 

 これにはさすがにアズ様の力を馬鹿にされているようで、納得できなかった。


「ちょっと待てよ。ここからは俺がやるよ」

「え? しかし……」


 別に争う必要は無い。こちらにはミカエル様の聖刻を持つフィリア。元英雄でアズ様とアテナ神様の聖刻を持つじいちゃんとファウナ。それに今聖刻を手に入れて来た俺がいる。戦力的には圧倒的にこちらが優位である以上、会話で終わらせることは可能だが、フィリアもあっちもまだ戦うつもりだし、また怪我されても困る。それに、俺もアズ様の力を試してみたい思いがあったため、ここは出番だった。なのに……


「リーパーでは無理だと思いますよ?」


 フィリア・ライハートという女。その女、非常に無礼!


「なんでだよ!」

「だって彼、相当強いですよ。何とか一人は倒しましたけど、彼も同等の力を持つだろうし、何よりまだどんな力を使うかも不明です。それに……」

「うるさいっ! いいからフィリアはリリアたちのとこ行ってバリアで守れよ!」

「しかし……」

「お前アズ様馬鹿にしてんのか⁉」

「いい、いえっ! そんなことは絶対ありません! だ、だけどリーパーは……」

「うるさいっ! いいから見とけ! 今からアズ様の力見せんだから!」

「わ、分かりました……け、怪我だけには気を付けて下さいよ?」

「いいから早く行け!」

「…………」


 何という無礼な女。所詮天使程度の力しか使えないくせして神に逆らうとは、姉でなければ瞬殺している。フィリアはもっと礼儀を学ぶ必要があった。ちなみに、天使程度はフィリアの事を言ったのであって、決してミカエル様の事を言ったのではない。俺は決してそんなことを思いもしない事は、理解してほしい。


 アズ様の力に平伏したフィリアは、てくてく歩いて言われた通りリリアたちを守りに行った。


 そんな無礼なフィリアがやっと去ると、やはり無礼者同士。フィリアにやられた片割れは懲りずに俺の前に立ちふさがった。


 とんとん拍子で話が進んだのは、リーパー視点の物語だからです。実際フィリアは、”全然こっちの話しさせないで、かなり落ち着きなく話を聞くな~?”と思っています。そして、リリアとばかり呼んでいるのは、リリアがヒーを守ってくれると思っているからです。リーパーもフィリアもジョニーも一番心配しているのはヒーなので、二人が一緒にいるときはリリアの方が先に名前が出ます。

 ちなみに、視点を変えた物語なら、もっとリーパーはカッコいい登場だったはずです。それと、既に倒された一名も氷を使うかなりの実力者で、まだバリアを扱いなれていないフィリアの隙をついて一瞬で凍傷にしているほどで、ガチバトルです。残念ながらそっちは面倒なので描きません。

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