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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
六章
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現世からの声

 眩い光に包まれた温かな世界。耳に届く拍動のような旋律。液体のような柔らかな感触。心落ち着く香り。

 それは記憶が無くとも母の胎内を思い出し、ゆっくりと沈んで行く感覚は、幸福に満ちた時間を与えた。


 このままずっとここに居たい。そう思えるほどの世界は、一体どれほどの時間を、どれほどの眠りで俺を包んでいたのかは分からない。


 何も考えず、何の不安も無く、ただ愛に溢れたかのような世界で、やって来る希望を待つかのように体を預けていた――


 また目が覚めた。覚めてもまだ温かな世界にいる。もうどれくらいここに居るのか分からない。だけどまだここに居る。それだけで心が満たされる。そしてしばらくするとまた眠くなる……


 目が覚めた。まだここに居る。心が満たされる。だけど今度はちょっと違った。


 声が聞こえる。それも沢山。だけど何を言っているのか分からない。まるで赤ちゃんが喋っているようだ。


 悪い気はしない。それどころか、周りにも誰かいる事でさらに安心感を得られた。とても心地いい。また眠くなってきた……


 沈降が止まった。それで目が覚めた。 

 とても眩しい。瞼は重い。それでも分かる。ここが最終地点。

 

 どうやら起きなければいけない時が来た。ゆっくりと目を開けた。


 眩い光の世界。周りを見渡しても光しかない。


 手を見ると、指が形成される前の丸まったまま。体もほとんど自由が効かず、生まれたての胎児のようにまん丸。


 これが誕生。生まれる事を実感した。


 何も起こらない。ただ俺は漂うだけ。アズ神様も居ない。


 どうすれば良いのか分からない。だけど不安は一切ない。ただただこの温かな世界で漂うだけ。


 そうしていると、また眠くなってきて目を閉じた。すると暗闇で青白い光が、ボッと炎のように一瞬燃え広がるのが見えた。 


 直ぐに分かった。それは魂の光だと。そしたら世界は突然真っ暗になった。音もなくなった。そして自分は炎になった。


 炎はとても弱く。見る見る小さくなる。どんどん小さくなる。燃え尽きれば自分は消える。消滅を知った。


 だけど不思議な物で、不安は一切ない。そうこうしているうちに炎は消えかけ、もう時間が無いのが分かった。


 どうやら俺は、アズ神様の試練に落ちたらしい。そう思っていると、真っ白な花が現れた。


 その花は小さく、弱弱しいが、透き通るような花びらをしていてとても美しい。


 あの花の命を貰えば、また炎は大きくなる。


 このまま心地良い世界で消滅してしまうのも悪くない。だけどまだリリアとヒーに何も言っていない。あの花の命を貰うしかない……だけど……あの花も一生懸命生きている。俺の都合だけでそんなことはできない……だけど俺が消えてしまう……困った……だけど時間も無い……困った……


 困っていると、花がちょっと光った。それを見て、あの花は凄いエネルギーを持っているのが分かった。だから、直ぐに手を伸ばした。そして、ほんのちょっと、本当にちょっと、リリアとヒーともう一度だけ話せるだけの時間だけ、力を貰う事にした。


 力を貰うと一気に炎が大きくなった。


“それだけで良いのか?”


 声がした。初めて聞く声だ。それも耳ではなく心に語り掛ける声。多分アズ神様ではない。


“その花は全部お前のものだぞ?”


 花の命を奪って行っても良いと言う。


「全部はいらない。この花が可哀想」

“なら、お前はまたすぐに小さくなって、直ぐに消えるぞ?”

「そしたら今度は違う花からちょっとだけ力を貰う」

“くれない奴だっているかもしれないぞ?”

「それはそう。だってそれは俺の物じゃない。だけど皆がそうじゃない」

“じゃあどうする? 奪うのか”

「奪わないよ。そうなったら借りる」

“……誰に?”

「家族に」


 俺がそう言うと、世界は一気にまたあの眩い景色に変わった。そして目の前に、この世界を作り出している眩い光の玉が姿を現した。


「……アズ様」


 光の玉は何も答えない。ただそこにあるだけ。だけど分かる。アズ様。


“…………”


 アズ様は何も言わない。何も語らない。そこにいるだけ。語るのは俺だけ。


“行かなくて良いのか?”


 アズ様は何も語らない。だけど全て伝えてくれた。全て消し去ってくれた。だからもうここにいつまでもいる必要は無い。


 だけどここは心地良い。


“リリアたちが呼んでる”


 アズ様は全て伝えてくれた。だから分かる。今地上ではフィリアが戦っている。リリアたちの声が聞こえる。行かなければならない。


「分かってる」


 分かっている。今地上で起こっている事も、何をしなければいけないかも、全て分かっている。分かっているけど、何が正解か分からない。アズ様が全て消してしまったから。


“行かなくて良いのか?”


 俺もどうすれば良いのか分からない。だから俺に訊く。訊くしかない。


「分かってる」


 分かっている。何度尋ねられてもそう答えるしかない。


“リリアが呼んでいる”

「分かってる」


 行かなければいけない。それは分かる。だけど本当にそれで良いのか分からない。だからまた訊く。


“行かないのか?”


 分からない。行けば多分分かる。だけど分からない。それは俺も同じ。


“呼んでるぞ?”

「分かってる」


 何度聞かれたって同じ。だって俺も分からないから。だからずっと同じことを言うしかない。どうすれば良いのか分からない。


 そしたらリリアの声が聞こえた。


“一回で良いから、一回だけ、ちょっと戻って来れませんか?”


 ?


“ちょっと、ほんのちょっとだけ中断して、一回来てもらえませんか?”


「…………」

“…………”

『一回って何⁉』


 思わず声が出た。そしたら突然体が戻った。消されたはずの全てが戻った。


「よう、相棒。調子はどうだ?」


 声がした方。アズ様を見ると、そこに俺がいた。


「いつも通りだ」

「そうか」


 初めて見た俺。俺は意外とモテそうな顔をしていた。


「結構良い男だったんだな、俺」

「お前がそう思うんならそうだ」


 俺が言う通り。俺が思うんならそうだ。


「そんな良い男だった俺に訊く。この後どうすんだ?」

「んなもん決まってるだろ? リリアたちが待ってる……いや、リリアがちょっと一回戻って来いって言ってる。一回戻るさ」

「だな」


 な~んも考える必要は無かった。リリアがちょっと一回戻って来いと言ってる。ちょっと戻って来いと言うなら、ちょっと戻るだけ。簡単なこと。


“戻り方は……”

「分かるさ。もう聞く必要はねぇよ」

“…………”


 全部アズ様が教えてくれた。全部ここに在る命が教えてくれる。


 今の俺にはリリアたちの声だけじゃない、ここに在る全ての命の声が聞こえる。そして、ここに在る命は全て俺に協力してくれる。


「アズ様、ありがとうございます」


 アズ様に言葉など必要ない。命を司るアズ様にとっては、いくらでも意思を疎通させる手段はあるから。だけど、どうしても沢山の感謝を乗せた言葉は伝えたかった。


 当然アズ様は何も答えず、そこにあるだけ。全ては伝わる。そして俺は、また一人になる。


「さて、行くか」


 もうここにいつまでもいる必要は無くなった。そしたら今度は、俺を呼ぶリリアたちの所へ行く必要が出て来た。


“みんな! 悪いけど俺リリアたちの所に行かなくちゃいけない! 少し力を貸してくれないか!”


 ここに在る全ての命に語り掛けた。するとやはりみんなは嫌な声一つ上げずに、快く協力してくれる。それこそ待ってましたと言わんばかりに元気な声を上げる。


「じゃあアズ様、行ってきます」


 もうここへ戻って来ることは二度とないだろう。だからこそ寂しくない。ここへ辿り着けただけでも幸せだから。


 当然アズ様は何も言わない。何も答えない。だから伝わる。だから餞別に良い服をくれた。


“頼むみんな!”


 みんなは俺の声に威勢よく応える。


“あぁ、問題ない。派手に頼む。折角だし、カッコ良く登場って感じで頼む”


 みんなは祭りのように盛り上がる。そして、期待に応えるように勢いよくリリアたちの所まで俺を運んだ。


 今回の話は、病んでいるわけではありません。命を司るアズ神様とその聖刻を神秘的に描こうとして、訳が分からなくなりこうなりました。言葉が淡白なのは、誕生を表現しようとして小さな子供をイメージしたのですが、崩壊してしまいました。

 ですがこの物語はギャグ小説ですので、精神的に病んでいるという話で行こうと思いました。ああああああああああああああああああああああああああああああああああ

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