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我らは英雄だ‼  作者: ケシゴム
六章
102/186

火口

 信者という強大な壁を越えた俺たちは、いよいよアズ神様の祠が見える火口入口へと進んだ。


「でっけぇな……」


 頂上に着いた時にも見えていたが、改めて火口へと降りる所まで来ると、そのカルデラの大きさに驚いた。


 何キロあるのか分からないほど広く、何メートルあるのか分からないくらい深い。最下層には煌々と赤いマグマが煮え滾り、何とも言えない香りがここまで届く。


「リーパー、そんなに覗き込んで大丈夫なんですか?」

「え? 大丈夫だよ。ここなら落ちる事無いから。それよりも見て見ろよリリア。下にマグマあるぞ」

「いや……そうじゃなくて……熱くないんですか?」

「え?」


 テレビとかでしか見た事が無いあのマグマ。そんな超レアなマグマがかなり遠いが見えるというこの場面。すっかりこの高さにビビッてリリアたちは覗かないと思っていたが、意外な理由にちょっと首を傾げた。


「いや? そんなに熱くないぞ?」

「そうですか……」


 いくらあのマグマが熱いと言われていても、マグマは遥か下方にある。寧ろワイハワイの燦燦と輝く太陽の日差しの方が熱いくらいだった。


「リーパーには資格があるからな。このくらいは平気なんだ」

「おお! つまりリーパーは聖刻を貰えるという事ですかエヴァ!」

「まぁ、貰えるかどうかはまだ分からんが、少なくともリーパーは祠までは行けるって事だ」

「おお! 第一試練突破という事ですか!」

「そういう事だ」


 資格がある者は熱さに耐性がある。これはアズ神様の第一試練のようなもので、つまり俺は合格らしい。だが、これだけ実感がわかないと嘘か本当か疑わしく、逆にそのせいでこれからあの地獄の底へ降りて行く羽目になることを考えると、全く嬉しくなかった。


「でも本当かよ? エヴァはまだ分かるけど、ファウナやフィリアも普通にしてるぞ?」


 リリアやクレアたちはそれなりに汗を光らせて暑そうにしているが、ファウナやフィリアは腕まくりもしていなかった。


「フィリアはもう聖刻持ってるからな、自分の周りだけ結界でも張ってるんだろ」


 そう言われフィリアを見ると、素知らぬ顔で視線を外した。それを見て、こいつはいつの間にか自分だけは守れるくらいの力の使い方を覚えたのだと分かると、いずれは俺たちを裏切るのだと思った。


「じゃあエヴァたちは?」

「俺は元々アズ様の加護者だ」

「あぁそうか。……じゃあファウナは?」

「多分空気でも纏ってるんだろ? ファウナは流れのある物なら何でも操れるから」

「マジでか⁉」


 てっきりファウナは光速で動くことが出来るだけの能力者だと思っていた。だがどうやら違うようで、ここに来て判明した反則的な能力に一同愕然となった。


「まぁそんな事より、前の奴らが行ったら次行くぞ」

「えっ⁉ もう⁉」

「え? もう? じゃない。リーパーはアズ様の聖刻貰いに来たんだろ? 下までは俺も一緒に付いて行ってやるから、準備しておけ」


 ヱヴァも聖刻を貰いに来ているのだから、一緒に付いて行くは間違っている。それにこういうものは個人のタイミングで行くもの。何より今はファウナの衝撃の力をもっと掘り下げる時。

 それを分かっていないエヴァは、まるで他人事のようだった。


 そんなことを思っていると、突然歓声なのか悲鳴なのか分からないが、大きな声が周りから起こった。


「どっ、どうした⁉」

 

 ヱヴァと話していたせいで何が起こったのか分からず、先ずはリリアの顔を見た。するとリリアは目を丸くして硬直したように佇んでいた。そして直ぐ隣に立つヒーを見ると、ヒーもリリアと同じような状態で立っており、クレアやエリックを見ても何か良からぬものを見たかのような表情をしていた。

 それを見ると、誰かの言葉を待つよりも視線の先を追った方が早いと分かり、直ぐに皆が見つめる視線の先を追った。


 視線の先は、火口の下。だけどここからでは深すぎてマグマまでは見えない。そこでマグマが見えるよう膝を付き、落ちないくらいギリギリまで近づいて火口を覗いた。


 ‼


 何も見えなかった。正確にはマグマどころかアズ神様の祠の入り口と、其処へ続く道までは見えたが、それ以外特に変わった所が無く、唯一ちょっと気になったのが、マグマの一点が不自然に飛沫を上げていたくらいだった。

 だがその僅かな違和感に、直ぐに何が起きたのか理解できた。


 エヴァが、前が行ったら次行くぞ! と言っていたその人。つまり俺たちより先にアズ神様の祠を目指して降りていた加護印を持つ人が、今まさに火口へ転落した!


 現に先に降りた人の姿はどこにもなく、それを見守っていた仲間と思われる人たちも目を伏せている。何より俺の本能が間違いないと言っており、一気に血の気が引いた。


 そうなると今度は火口を覗いている事が超怖くなり、転がるようにして火口から離れた。


 そんな俺に対して、エヴァがボソッと言う。


「あらら」


 もう『あらら』じゃねぇ! とかいうそんなツッコミすら起きなかった。当然だろう。今、目の前で人が死ぬ事故を目撃した。そんな非日常を前に正常に脳が活動するわけが無い。逆にここで『あらら』と言えるエヴァが異常で、狂っていた。


「良し、前が開いたな。行くぞリーパー」


 いやいやいやいや! 今目の前で人が死んだんだよ⁉ あれ見てディズニーのアトラクションがやっと乗れるみたいな感覚で行けるわけねぇだろ!


 狂気の沙汰とは正にこの事だった。


「いやちょっと待ってくれよエヴァ!」

「どした?」

「今人落ちたじゃん!」

「それがどうした?」


 こいつには恐怖という物がないようで、あれを見た後でもチンプンカンプンという感じだった。


「見栄張るからいけねぇんだ。火口に入ればサウナなんて目じゃないくらい熱い。それなのに見栄張って降りてくから、気を失って落ちるんだ」

「そうかもしんねぇけど……下に行けば行くほど熱くなるんだろ? もし下の方で熱くなって我慢できなくなったらどうすんだよ⁉」


 この時点では全くと言って良い程マグマの熱は感じられない。しかし下を覗けば景色が揺らめくくらい真っ赤に染まり、その熱さは計り知れなかった。


「だけどリーパーは降りるつもりで来たんだろ?」

「そ、それはそうだけど……」


 正直人が落ちるまでは、普通にコンビニに行くよりも気軽だった。寧ろアズ神様が呼んでいるせいもあるのか、あのマグマを目にしても行かなければならないと思っていたほどで、エヴァの言う通り降りる気満々だった。


「安心しろリーパー。お前には聖刻を受け取る資格は十分にある。でなきゃ誰もここまで付いて来ない」


 それを聞いてハッとした。皆も俺と同じく自分を呼ぶ祠には一番に行きたいはず。だけど誰も文句も言わずに付いて来てくれた。

 俺たち三年一組は英雄の子孫ばかりだ。それはすなわちここに居る全員が聖刻を貰うに値する人物ばかりで、次期英雄たちが俺を認めたという事。


 これはほぼ俺が聖刻を貰うのは確定的だった。

 

 しかしだ! 考えてみたら全員エヴァが言うから付いて来ただけで、今の発言は確定演出でも何でもない! 


 所詮現実などこんなもんだった。


「行くぞ」


 今の言葉で、なんか熱い友情みたいなものを演出できたとでもエヴァは思ったのか、“俺が先に行くから付いて来い”みたいに、なんか一人で勝手に火口へと続く道を下り始めた。

 そしてしばらく歩いて俺が付いて来てない事をやっと知ると、どうしても俺をマグマに突き落としたいようで、一回戻って来た。


「どうした、リーパー?」

 

 怒らずに、『どうした?』と小さい子を宥めるように言うエヴァ。それはまるでじいちゃんのようで、完全に俺を馬鹿にしていた。


「ほら、早く行くぞ。ここに居ても、いつまで経っても終わらないぞ?」


 謎の優しさ。だけど注射を怖がる子供扱いするエヴァには、正直イラっとした。そしてエヴァはここで何かに気が付く。


「あ、そうか……リーパーは高いところが苦手だったな? 安心しろ。ほら、落ちないよう手を繋いでやる」


 高いところは確かに苦手。だけど手を繋いでやると手を出されると、非常に不愉快だった。

 もっと言えば、後ろにはリリアたちがいるこの場面では、プライドを傷付けられている気がして、思わずエヴァの手を払いのけてしまった。

 そんな俺に対しても、何を勘違いしているのかエヴァはやる気があるように感じているようで、嬉しそうな笑みを見せた。


 それが余計に腹が立った。しかし先ほど信者たち相手に見せたヤンキーっぷりを思い出すと、とてもエヴァには歯向かえず、先ほどの恐怖など忘れ、怒りをぐっと抑えて火口を降り始めた。

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