裏切りの宿命
フィリアたちの睨み合いが続く中、颯爽と登場した二人の救世主。これにより一触即発の危機は回避された。だが救世主もまた俺たちとは一味違う英雄の子孫のようで、一難去ったがまた一難訪れた。
「おい! 支障ってのはどいつだ?」
教室に投げ込まれた二人は、フィオラさんが去ると先生に詫びる事もせず、訳の分からない事を言いながら俺たちに近づいてきた。
え? 支障ってのはどいつだ? ……強いて言うなら喧嘩腰の貴族様二人だけど……どちらかといえば君たちじゃないの?
扉をぶち破ったり遅刻したり。それにラフすぎる格好になかなかの言葉遣い。ここが仮に不良ばかりが集まる学校だとしても、俺の知る限りでは彼らは完全にあたおかだった。
そんな二人、空気もまともに読み取れないのか、ガンガン近づいてきて、事もあろうに睨み合う四人に、ポケットに手を突っ込んだまま下から覗き込むように顔を近づけ、さらに訊く。
「おい! お前が支障か?」
「あ、もしかして君が支障?」
女の子の方はそれなりに優しい言葉遣いだが、やっていることや目は明らかに威嚇のように近く、番長的な威圧感があった。しかしこちらの連中もそれなりに英雄の子孫。ここでも受けて立つように睨み返す。
「あの、何をお探しか知りませんが、残念ながら私たちの中には、支障をきたすような輩はいませんよ? お探しでしたらあちらの方々に聞いて頂いた方が宜しいかと思います?」
流石フィリア。これだけ威圧されても笑顔を見せ、俺たちに関係は無いと丁寧にあしらう。
「え? そうなの? ありがとう。アドラ、そっちの人らしいよ?」
「え? そうなのか?」
「うん。この親切な人が教えてくれた」
「おぉ! お前良い奴だな! ありがとうございます」
「ありがとうございます」
ああ見えても一応貴族のようで、フィリアが教えると感謝を述べ、ぎこちないがお辞儀をした。それでもやはり不良。今度はクレアたちに絡む。
「おいお前。支障知ってんだろ? さっさと教えろよ」
「……なんだ貴様ら。それが人に物を頼む態度か?」
「あん?」
クレアも相当な強者らしく、これだけ威圧されても全く怯むことなく返す。
これは先ほど以上に危険な状況だった。このままでは本当に誰かが死ぬ。しかしそんな状況であっても先生は動く気配を見せない。
あの先生終わってるわ……ま、まぁとにかく、フィリアのお陰で俺たちには関係なさそうだから、スクーピーだけ残ってくれたらそれでいいや。
このまま行けばおそらく不良二人は退学だろう、そしてクレアたちも退学までとはいかないがしばらく停学処分になるだろう。そうすれば雰囲気を壊す悪い連中がいなくなり、俺たちは気の合いそうなエリックとスクーピーと仲良くなれる。
喧嘩なんて本当は良くないが、この時ばかりは寧ろ殴り合えと心の中でほくそ笑んだ。
すると、不良の男子の方が、これを受けてクレアを挑発するようなことをする。
「あぁ、そうだったな……どうか支障を教えて下さい」
一度クレアから顔を離した不良は、視線を離さずポケットに手を突っ込んだままお辞儀をする。それはもう完全に殴ってみろという感じで、クレアは食いしばるようにして微かに歯をカチカチ鳴らし、怒りの表情を見せた。
そこへ助太刀するかのようにキリアが加わる。
「おい。貴様は何者だ。いくらでも受けて立つが、せめて名ぐらい名乗れ」
流石は貴族。怒り心頭で手が出そうな雰囲気だが、冷静に名を尋ねる。
当然そんなことをすれば火に油を注ぎ、ヒートアップして直ぐにでも開戦する。そう思って身構えたのだが、不良も相当手馴れているようで、ここでも挑発を続ける。
「あぁん? お前が支障か?」
「名乗れ。それが礼儀という物じゃないのか?」
「……私は、アドラ・メデクという者です。よろしくお願いします」
突然アドラと名乗る不良は、ポケットから手を出し、頭を下げて挨拶をした。そしてそれに続くように女子の方も同じように挨拶する。
「私は、パオラ・メデクという者です。よろしくお願いします」
言葉は丁寧だが、とてもぎこちないお辞儀は完全に舐め腐っている感満載だった。っというか完全に舐めていたようで、キリアが物凄い目をして問いただす。
「貴様らメドゥエイーク家の者じゃないのか?」
確かに! そう言えばさっき先生メドゥエイークとか言ってた! えっ⁉ この二人自分の苗字さえまともに名乗る気無いの⁉
超悪態をつく二人に、ここまでの不良かと驚愕だった。
「え? あぁ……そうとも言う」
「貴様ー!」
ここで遂にクレアが切れた。左手で机を吹き飛ばし、勢いよくアドラの襟首を掴む。そこへやっと先生が止めに入る。
「クレアさん! 貴方たちは名門聖法学院の生徒です!」
先生は見た目通り武闘派ではないようで、教壇から動かず叫ぶだけだったが、その言葉には威力があったようで、この一声でクレアは動きを止め、悔しそうにアドラを睨んだ後、手を離した。
「くそっ! なんなんだどいつもこいつも! とてもこんな場所にはいられん! 行くぞキリア!」
「……あぁ」
一応お嬢様。野蛮な事はプライドが許さないのか、キリアと二人悔しそうに俺たちを睨むとそれ以上追及する事はなく、乱暴に扉を開け鞄もそのままに教室を出て行ってしまった。
教室には重たい嫌な空気が溢れ、残された俺たちは居たたまれない。しかしこれで終わったわけではなく、今度は俺たちがアドラたちの標的になる。
「なんだあいつら?」
「さぁ? お腹でも痛いんじゃないの?」
「そうなのか?」
「うん。多分」
「大変だな……まぁいいや。なぁ? お前ら支障知ってるか?」
どうしても二人は喧嘩がしたいようで、クレアたちが去っても相変わらず問題がある場所を見つけたいのか、さっきフィリアが知らないと言っていたにも関わらず同じ事を訊く。
「すまないが、先ほども言った通り俺たちは何も知らない。もし本当にそれが必要なら協力するが、そうでなければお引き取り願いたい」
ジョニーはああ見えて冷静だったのか、力で向かってくる相手に対し協力的な態度を示し、超格好良かった。それこそただ教壇に突っ立って何もできない先生より頼りになり、大人の紳士に見えた。
それが正解だったのか、ここで二人の態度が変わる。
「え! 手伝ってくれるの⁉ 君大きいのに偉いね? 支障探すの手伝ってくれるってアドラ!」
「おぉ! マジか! お前良い奴じゃん!」
どうやら本当に何かを探していたようで、ジョニーが協力すると言うと二人は嬉しそうな表情を見せ、威圧的な態度を変えた。
「じゃあさ、支障って言う人探してるんだけど、その人知っている人教えて?」
「シショウ?」
「うん、支障」
シショウ? この二人、人を探してたの? この二人不良っぽいから、てっきり支障って“俺たちにとって邪魔になる奴”って意味かと思ってた。あぁ、だから喧嘩仕掛けてるように見えたんだ?
どうやらこの二人悪い輩ではないようで、色々な要素が重なったせいで誤解が生まれたようだった。それを証明するように、フィリアが普通に話しかける。
「そうだったんですか? それは申し訳ありませんでした。それで、そのシショウという方はどんな人なんですか? それを教えて頂ければ何か分かるかもしれません」
「え? ……あ、うん。なんかね、その人めちゃくちゃ強くて偉いってフィオラが言ってた」
「強くて偉いですか……どのくらい強いとか偉いとか、フィオラさんは何と言っていましたか? 例えばどんな格闘……武器を使うとか?」
流石フィリア。喋り方や動きから、この二人はそれほど頭は良くないと感じ取ったようで、パオラに合わせて分かりやすく慎重に情報を集める。
「あ~……あっ! そうだ! なんかその人、ホウオウやっつけるくらい強いんだって!」
「ホウオウ?」
「うん。あの、あれ。この間私たちここに来るって言ったとき、私たち嫌だって言ってたら、なんかその人がホウオウやっつけてくれたから、行っても私たち誰にも怒られなくなったから来たの!」
えっ! それって……
「そうそう! なんかそいつ凄くって、なんか他にも仲間いたみたいだけどヤバくって、でもそいつが『戦うぞ!』って言ったら勝ったみたいで、だからフィオラが『そいつなら俺たちでもフィオラに勝てるくらい強くしてくれるから支障って呼べって』言ってたから探してた」
それってこの間俺たちが法皇様の前でやらかした話じゃないの⁉
フィリアもジョニーも、この話には嫌でも黒歴史を思い出したのか、硬直したように動かなくなった。
「なぁ? 支障知らないか?」
「お願い教えて?」
もうその話には触れないでくれよ! 俺たちだって自分たちがした事どんだけ恥ずかしいかくらいもう分かってんだよ! あんなの『もう学校行きたくない!』って駄々こねる小学生と変わらないことだってくらい!
あの時はアニメなんかである超シリアスな最終回くらいの感じだったが、時間が経つにつれ冷静になり、俺たちはどんどん自分たちがしでかした事が恥ずかしい事なのかを理解し、今ではあの出来事に触れる事は、俺たちの中では暗黙の禁止事項になっていた。
そんな禁句に触れられたフィリアだったが、アドラたちが純粋に俺たちを探していることを無下に出来ず、痛い胸を引きずりながらも優しく応える。
「そ、それは……もしかしたら、私たちの事かも、しれません……」
きちんと答えるフィリアだったが、相当ダメージが大きいようで、言葉が重い。
「おお!」
「ええっ⁉ そうなの⁉ じゃあどれが支障⁉」
フィリアは認めた。いや、認めざるを得なかった。しかしそうなると、誰が文字通り支障になるのだろう……
「そ……それは……」
「あの時、俺たちに『戦うぞ』と言ったのは、リーパーだ」
「えっ⁉」
おい~! ジョニー何言ってんだよ! こいつ俺を裏切りやがった!
「そ、そうです! あの時私たちに『全員で戦うんだ』と声を掛け、私たちを引っ張ったのはここに居るリーパーです」
フィリアー! オメェまで俺を見捨てんのかよ!
じいちゃんの裏切り以上に衝撃の発言だった。そしてさらに驚くことに、助けを求めて目を合わせたリリアとヒー迄もがそうだと頷き、それどころか全く関係の無いはずのエリックまでそうだと頷いていた。
死線を共に潜り抜けて来た仲じゃないのかよ! なんなんだこいつら! もうこいつらは仲間だとは思わん!
「え! お前が支障だったのか⁉ なんだ早く言ってくれよ支障」
「え……」
「アドラ、支障にお前は駄目だってフィオラに言われたでしょう? 怒られるよ?」
「あ、あぁ……そうだった。よろしくお願いします支障」
「え……」
「よろしくお願いします支障」
「…………」
フィリアたちが裏切るものだから、弁明の時間さえ与えられずアドラとパオラは俺を捕まえ話をドンドン進める。
そこにフィリアが追い打ちを掛ける。
「あの~、もしかしてお二人。支障ではなくて、“師匠”ではないのですか?」
「え?」
「え?」
「フィオラさんは貴方たちに、『リーパーから色々教えてもらいなさい』というような事を言ったんじゃないんですか?」
「おぉ! あんた凄いな! そう! フィオラに会ったことあんのか?」
「いえ。ですが教えを乞うという事は、おそらくそういう意味だと思いましたので、師匠が正しい発音です」
「おお!」
「ありがとう……え~っと……」
「フィリアです」
「よろしくお願いします。私はパオラ・メデクです」
「よろしくお願いします。私はアドラ・メデクです」
「はい、よろしくお願いいたします」
色々問題は発生したが、こうして俺たちは新たな友達を得た。そして俺は二人の弟子を取ることになった。しかしそこには何とも言えない裏切りがあり、この日俺は久しぶりにフィリアたちを糞だなと思った。
「じゃあよろしくな師匠。俺アドラ」
「私パオラ、よろしくね師匠」
なんで俺にはタメ口なんだよ!
初めていいね! をもらいました! リリアたちがずっといいね! いいね! 言って喜んでいます。ありがとうございます!
ちょっとやる気がなくなっていたので、本当にありがとうございます。ただ、間違って押してしまったのであれば、遠慮なく取り消して頂いても構いません。それもまた、一向に構いません!