ハイブリッド小魔王
むかしむかし遥かむかし、スーパーゼウス様とかいう神様がいて、仲間の神様や天使を集めて、ルシフェルとかいう悪魔を退治して、コキュウトスとかいう地獄に閉じ込めたらしい。そしたら世界は平和になって、人類はスマフォやスプラトゥーンを作って今の世界を作ったらしい。
しかしルシフェルは悪い奴で、復活できない代わりに分身みたいなのを作って五百年に一度くらいの間隔で世界を恐怖に陥れるようで、その度にスーパーゼウス様の代わりに三人の子供が、人間とかに『力を少し分け与えてやるから、自分たちで魔王みたいなのをなんとかして』みたいなことを言って、なんかそんなことを繰り返しています。
……っという感じで、突然誰しもが小学校の社会授業で習った話をしたのだが、何を隠そう俺のじいちゃんは、約五十年前に復活した魔王を倒したその英雄の一人で、さらに言うと、その中でも七人しかもらえない聖刻という紋章、それも三大神の聖刻を与えられて、パーティーのリーダー的な存在で、社会の教科書とかに顔とか載ってる凄い人。
つまり俺はその孫で、言ってしまえば超エリートのサラブレッドで、将来は後々復活する魔王を倒すために超偉大な子孫を残さなければならない存在で、実は総理大臣やアメリカ大統領よりも偉いという超絶ウルトラスーパーサラブレッドなんだけど……
前期魔王の討伐から約五十年。世界は大戦を乗り越え発展した。人類は海を縦横無尽に渡り、空を飛び大陸を越え、さらには宇宙にまで手を伸ばす超文明を築いた。しかしその富に恵まれた世界では、人類はいつしか魔王の恐怖を忘れ、次第に戦う力を失っていった。
そんな人類をあざ笑うかのように、魔王は虎視眈々とその時を待っていた――
この物語は、主人公リーパー・アルバインの成長を記録した物語である。
「じいちゃん、そろそろ汲み取り頼まないとトイレ一杯だぞ? リリアのおばさんに頼んだ?」
「あ~? そうか? じゃあ後で頼んでおく」
北海道にある小さな町。周りは農家が多く、夜十一時には閉まるコンビニが一件。キツネ、タヌキ、鹿、熊、リス、アライグマ、シラサギなどは普通にその辺にいる動物園いらずの町で、サバンナじゃないかって言うくらい普通に鹿が野原で草ボリボリ食ってるような超田舎。
そんな町にある我が家は、築八十年。木造二階建て。風呂はじいちゃんがこの家に入ったときに増築して付けたが、トイレは未だにボットン便所。壁は薄いベニヤで冬は寒く、隙間だらけの家は虫が同居し、屋根裏にはネズミ、床下にはそれを狙って蛇や野良猫。夏場は毎年同じ場所にスズメバチとアシナガバチが巣を作り、調子の良い年にはキツツキが大工さん並みに壁をブルルルルッと突きまくる。
そんな自然をこよなく愛するじいちゃんは、家庭菜園のような農家をしている、今年で七十六を越える元英雄。過去には国民栄誉賞をもらったり、テレビに出たりして、じいちゃんをモデルにした映画とか小説とか一杯作られて、昔は東京とかに大きな家と土地持ってて、不動産やら株やらも一杯持って超金持ちだったらしいのだが……何故か今や超貧乏! って言うか、世の中にはその上があるらしく、外を歩くのも恥ずかしいほど貧乏という意味で赤貧という言葉があるらしいが、過去の栄光のせいでそっちの方が似合うほど。
というのも、これには深い理由があって、どうやらじいちゃんと死んだばあちゃんは超親バカだったらしく、俺の父さんと弟の叔父さんを甘やかして育てちゃったせいで、全財産失ったらしい。それどころか父さんと叔父さんが作った借金まで元英雄としての意地か、払うって言っちゃったせいで、四十一億円! という桃鉄クラスの借金を抱えちゃったんだって。
その上父さんは駄目駄目人間で、俺ができると母さんを見捨てて起業しまくって破産して、なんかよう分からんヤバイ組織とか政治家とかと関わったりして、そんで犯罪起こしまくって終身刑言い渡されて服役中で、母さんは母さんで借金一杯持ってて、父さんに捨てられてどうしようもなくなってじいちゃんに助け求めて、『反省して更生する』みたいな事言ってたらしいけど、結局違う男見つけて俺捨ててどっか行っちゃったんだって。
挙句に、叔父さんも叔父さんでヤバくて、海外行ってマフィアみたいな事してたらしくって、麻薬の密売や武器商人みたいな事してて、挙句の果てにはテロリストみたいになっちゃって、最後は幹部として暗殺されちゃったんだって。
そのせいで世間に知れ渡って、じいちゃんの英雄としての威厳とか無くなって、一時は歴史の教科書からじいちゃんだけ消されそうになるほどだったんだって。
それにじいちゃんもなかなか凄くて、元々はただの一般兵士として魔王討伐に志願したらしいけど、そこから空いた英雄の座を奪い取って英雄になって、そこで出会った仲間の一人だった貴族のお嬢様と結婚するはずだったんだって。だけどその人魔王との最後の戦いで死んじゃって……それで『もう俺は結婚しない!』っていうぐらい落ち込んだらしいけど、結局最後は十歳以上も離れた若いばあちゃん引っ掛けて捕まえたらしい。そのせいでばあちゃんは、じいちゃんとバカ息子たちにやられちゃったけど……
そして今や全財産失って、英雄年金から借金支払いながら農家やって、元英雄の仲間だった五十嵐家もとい、ブレハート家とライハート家にお金の管理してもらって面倒見てもらってるんだって。
ちなみにじいちゃんが英雄だったことも含めてそれ全部知ったのは、俺中学卒業してから! 中学卒業して、これから高校っていうときに借金四十一億って知ったから! 小学校の時とか社会の教科書でアルバインって出て、同じ苗字だから『お前んちのじいちゃんじゃないの?』みたいな事友達に言われて、『そうそう、俺英雄の孫だから』って冗談言ってちょっと良い気分になってたのに!
マジ凄くね⁉ うちの家系! じいちゃん元英雄のリーダーで世界救ってんのに、二人の魔王みたいな息子産み出してんだよ! その上マッチポンプみたいな事して大炎上して、孫に大ダメージ与えてるんだよ⁉ ダメダメじゃん!
でももっと驚くのは、その英雄に俺という孫がいる事! 分かるこの凄さ⁉ 英雄と二人の魔王の血を引く超ハイブリッド⁉ 小魔王じゃん! 俺小魔王なんだよ! 世に放たれちゃいけない存在なんだよ!
まぁ、そんな俺ではあるが、全てを知ったのが最近である事もあって、普通に育ち、超絶怒涛の能力みたいなのはないし、もちろん戦いも経験したことないし、魔法も使えず、勉強も運動も普通かそれよりかはちょっと下くらいの平凡な現役高校生。
魔王も、俺どころか日本がまだあるかどうかさえ分からないくらい後に復活するし、将来は普通に就職して、じいちゃんが死んだ時は遺産の相続はせずに借金をチャラにして、普通に生きて普通に終わっていくのだろう……そう思って暮らしていたのだが、やはり英雄と魔王という血を引く逸材を、世間が? 時代が! 天が⁉ 放っておくわけもなく、俺は魔王か英雄かどっちかは分からないが、大いなる力に導かれることになる。