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The Rampage 2021 - Sweet blood death dawn  作者: 冬野 立冬
パーティーの幕開け
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1話 斯して、幕は開かれる


 時刻は夜の六時。

 パーティー会場にはぞろぞろと招待状を片手に、多くの著名人や議員がタキシードやドレス姿に身を包み入場を始めていた。

 入り口には警察官達が立ち並んでおり、一人一人の持ち物検査を行っている。


「にしても凄いですね……あんな著名人もいるなんて」


「ほんと、テレビで見た人が目の前にいると仕事どころじゃねえよ。初めて警察官になって良かったと思った。後でサインを……」


「おい、お前ら仕事しろ。怒られても知らねえぞ」


「とは言ってもよぉ上林(かんばやし)。俺らはお前と違って地方警察だぜ?俺達が一気にここまでの有名人を目に出来るのは多分最初にして最後だぜ?仕方ないって奴よ」


 そう言われ、上林 裕斗(ゆうと)は思わず溜息を吐いてしまった。

 確かに今後このような事は滅多に起きないだろうが、それにしては(たる)んでいるのではないだろうか。

 ついこの前に起きた『リバース』の事件といい、犯罪件数全国一位のこの街にイレギュラーは付き物だ。

 今回のパーティーでも何かしらの事件が起きる気がすると裕斗は何となく感じていた。

 何より────


 ────ハルネ新市長は何処と無く怪しい。あの人がいる限り何かが必ず起きる気がする。


 『リバース』事件の最後に起きた上司とハルネの異様な会話。

 それを聞いてから裕斗は何処と無くハルネの事を信用しきれなかった。

 ハルネは恐らくこの街の『裏』に根を回している。

 不要な人材は容赦なく消すタイプだろう。

 裕斗はそんな偏見を思いながら業務に戻る。


 今の仕事は入場検査員だ。

 それぞれ入ってくる人間の持ち物、そして招待状を確認している。

 そんな中、裕斗が仕事に戻った直後思いもよらぬ出会いが舞い降りた。

 黒にスーツに黒い革靴。そして夜だというのに掛かられている黒サングラス。

 最初こそお祝いのパーティーに黒サングラスとはどう言うことだと疑問を持たせるが、そんな黒サングラスを際立たせている顔立ちの良さがそれをカバーしていた。

 そして裕斗はそんな顔に見覚えがあった。


「……乖穢(かいえ)さん?」


「あれ?修哉(しゅうや)の弟じゃん?ここの護衛?ご苦労だね〜」


 裕斗の目の前に現れたのは浦河(うらかわ) 乖穢。自身の兄の友人であった。


「何でまた?」


「ん?おじいちゃんの護衛でね。これがまたがっぽり貰えるのよ」


 乖穢は自身の右手に親指と人差し指でお金を意味する円を作り、ニコニコとしながらここに来た理由を説明した。

 裕斗はやはり、と言った顔をして乖穢の持ち物の検査を始めた。


 正直裕斗は昔から乖穢の事が得意ではなかった。

 乖穢は金の為なら平気で犯罪を犯す人間なので、被害届けが後を立たない。

 主に女性絡みの件なのだが、偽名を駆使していたり決して手を出さないという理由から中々逮捕まで踏み切れず、結局いつも警察が逃している形となっている。

 大抵は偽名の時点で捜査困難となるのだが、何となくこの街の警察は、あまり乖穢が関与するこの手の事件の多さ故に犯人が誰なのか大凡の察しがついていた。

 しかし決定的な証拠がない為、逮捕はできない。

 やり手といえば聞こえはいいが警察側からしたら迷惑極まりない。

 そんな乖穢をどうしても裕斗は好きにはなれなかった。


 しかし関係が切れないのは兄である修哉の存在である。

 修哉が乖穢と昔ながらの仲である為、どうしても弟である裕斗は乖穢との縁が切れないのである。

 そして今回はさらに厄介である。

 ただでさえハルネ絡みで何か起きそうだというのに、今回はさらに────


「今日、篶成(すずなり)さんがこのパーティーにいますよ」


「へ?」


 乖穢はわざとらしく思える程にあからさまに呆けた顔を露わにした。


 篶成と乖穢の関係を語り出すと話は随分前に(さかのぼ)るのだが、それはまた別の話である。

 何はともあれ二人は所謂、犬猿(けんえん)の仲という奴なのだ。

 出会えば喧嘩。

 出会わずとも互いの愚痴。

 常に互いのマウントを取る事だけを考えている二人組……

 そんな二人が今回はパーティーに揃ってしまっている。

 裕斗からしたら溜息極まりない事だった。


「荒事だけは起こさないで下さいよ」


「……保証はしかねるけど努力はしよう」


「する気ないでしょ……」


 いつ通りの飄々(ひょうひょう)とした乖穢の態度を見て裕斗はもう一度小さく溜息を吐いた。

 恐らく何かが起きる。間違いなく。


「とりあえず怪しいものは手荷物には無いですね。……で、その後ろの鞄の中には?」


 スーツの中には特に没収するような物は無かった。

 次に調べるのは乖穢が持ってきた皮のアタッシュケースだ。

 乖穢は裕斗に中を見せるよう言われると、すぐに鍵を解いて中身を見せた。


「ハルネ新市長にサプライズプレゼントってね〜」


「……何か接点ありましたっけ?」


 アタッシュケースの中には見るからに高そうな酒が三本。そして間を埋める為、兼ガラス割れ防止のプチプチが敷き詰められていた。


「酒は一旦預かって危険性がなければお返しする決まりになってます。いいですね?」


「えぇ〜面倒だし修哉の顔に免じて許してくれない?」


「勝手に兄の顔を盾にしないでください」


 そう言って裕斗は酒を取り出し、保管用のカゴに入れた。


「パーティー中には返しますよ。それに最初のセレモニーだけでかなりの時間がかかりますし、個人的に話せるのはかなり後ですので心配入りませんよ」


「そう?ならいいや。じゃあ後は大丈夫?」


「……まあ、危険物は無さそうですしね。フロントで待ってて下さい」


 見たところ後はプチプチしか無い。

 よって裕斗はそれ以上は心配ないだろうと思い、乖穢の検査を終えた。


「くれぐれも問題を起こさないように」


「わかってるよ〜」


 相変わらずの態度に思わず裕斗は怪訝な態度を顔に表してしまう。


 ────本当にわかってるのか……


 ×                         ×

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