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The Rampage 2021 - Sweet blood death dawn  作者: 冬野 立冬
epilogue
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57話 不遇者の訴え


「……誰だお前は?」


 突如として現れたウィルに対して、洞爺(とおや)は目線だけをウィルに向け、拳銃の先はディオールに向けたまま質問をした。

 ウィルは、洞爺の放つ独特な冷たい空気感に一瞬怖気付きそうになるが、何とかその思いを心中に留めて質問に答えた。


「ソイツの……()()()


 ウィルの言葉に対して最初に反応を示したのは洞爺では無く、ディオールであった。

 ディオールは目を見開き、ウィルの顔を見ると自身が人格の影に隠れていた時に、他の人格が何やら話していた人物だという事を察した。

 そして何よりディオールが最初に反応を示した理由は────


 ────コイツ今、俺達のことを仲間って言いやがったのか?


 それは自身が一度も向けられた事の無かった言葉。

 その場凌ぎの言葉とは言え、その言葉は確かにディオールを含め、ギャレスの中に居る人格達の心に響いた。

 そしてディオールは堰を切ったように笑い出す。


『ふっ……はぁ?ハハッ!おいおいおい!今俺達を仲間だと言ったのか?』


「あ?さっきとは違う人格か?」


 即座にウィルは、口調からして先程話していた人格達とは違う事を察するが、特段態度は変えずにそのまま言葉を続ける。


「あぁ、そうだ仲間だ。だからここで死なすわけには行かねえんだよ」


『他の人格はともかく俺に余計なお世話は焼くなよ?俺はここで死ぬのが本望って訳だ────』


 ディオールがウィルに呆れながら言葉を返そうとした瞬間。


「うるせぇ!!!死んでどうこうとかくだらねえ事言うんじゃねえ!ここでくだらねえ死に方するなら()()()()()()()()!」


『……はぁ!?』


 あまりに勝手な言い草にディオールは、思わず疑問の声を上げる。

 更にはその意見聞いていた洞爺は、思わず笑みを溢してしまう。


「ハハッ!いいなお前!面白いな!」


 笑いながらも拳銃の先は未だにディオールに向けている洞爺は、さながら悪魔にも見える。

 そんな洞爺は相変わらずの体勢のまま、笑いながら言葉を続けた。


「だがな、コイツは死にたがってる訳だ。なら息の根を止めてやるのが救いって解釈は出来ないか?」


「死ぬ事が救い……まぁ、そういう解釈もあるぜ。けど俺は知っちまったんだ」


 ウィルは数日前まで、とある事情で仕えていた組織のリーダーを思い出しながら言葉を紡いでゆく。


「ソイツの中に居る他の人格がきっと悲しむって事によ」


『……お前、随分とこの身体に入れ込んでんな』


 ウィルの言葉をしっかりと受け止めたディオールは、ため息混じりの言葉を吐くと、右手で洞爺が構えていた拳銃をそっとずらした。

 洞爺はその動作に気付くと「良いのか?」と問い掛けたが、ディオールは笑いながら軽く頷いた。


『俺なんて他の人格からしたら厄介払いだろ。なぁ?』


 ディオールが自身の中に居る人格に問い掛けると、その内の人格の一人────マガトが答えた。


〈そうですね……あなたはいつも自己中心的で僕らの輪には入ろうとはしない。それでも……それでも、貴方は私達と同じ境遇を辿り、同じ心を介する兄弟なのです。そんな人が厄介払いな訳無いじゃないですか〉


 マガトの歯が浮くような優しさに満ちた答えに、思わずディオールは苦笑いを浮かべた。


『アホだなこりゃあ』


[阿呆とな何ぞ。マガトの優しさを素直に受け止めれば良かろうに]


『うるせぇよアキナ。俺はそういうのが向いてねえんだ』


 ディオールは、久々に会話をした他の人格達にいつも通りの態度で言葉を返して行く。

 ずっと自分はこの人格に似合わない男だと思っていた。

 周りはずっと疎んでいる物だと思っていた。

 しかし実際は違った。

 確かに印象は悪いかもしれないが、そんな自分を彼等は未だに家族として扱ってくれる。

 そんな事がどうにも笑えた。


 ────俺はちっぽけな野郎だなぁおい。


 ディオールは苦笑いを解くと、安らかに眠るようにその瞼を閉じた。


『俺は疲れたから寝る。後はお前らで何とかしろ。俺で勝てねえなら誰も勝てねえだろうしギャレスの野郎の扱いには気を付けろよ?それじゃあ後は成るようになれよ』


〈また勝手な!〉


【無駄だよマガト兄さん……だってディオール兄さんは一番狂ってるんだから】


『勝手な事言うなテメェ。て言うかおい、アンタに一つ聞き忘れた事があったな』


 ディオールが目を閉じるほんの直前に、洞爺を指差してある問い掛けをした。


「何だ?」


『名前。まだ聞いてなかったよな』


「ん?あぁ、そういえばそうだな〜?」


 戦いの最中で相手の名前など気にしている暇がなかった二人は、ここに来てようやく互いの名前を教え合う。


籤骸(くしがら) 洞爺だ。アンタは?」


『ディオールだ。またいつか殺り合おうぜ?今度は俺が勝つからよ』


「それは無いな。俺が負ける事なんて有りはしないからな」


 洞爺のツッコむ事すら呆れる程の自信に満ちた答えに、ディオールは微かに苦笑すると、ゆっくりと目を閉じて人格を奥深くへと忍ばせた。

 するとその代わりにマガトの人格が出てくると、マガトはゆっくりとギャレスの身体を起こした。そして、視界のピントをウィルに合わせると小さく頭を下げて礼を述べた。


〈ありがとうございます。仲間なんて言葉、この身体で言われると思いませんでしたよ〉


「そんなん気にすんな。取り敢えずさっさとこのビル出ようぜ?」


〈……そうですね。けど、僕達は貴方と共に生きられない。特に今は疲れて眠っているが、ギャレスが起きたら貴方を危険な目に遭わせてしまうかもしれない。僕達は貴方をそんな事にはさせたく無いのです〉


「まぁ、それはその時考えるよ。どっちにしろ俺には仲間が必要だ。異国の地で一人生きていくのは寂しいからな」


〈しかし……〉


「なら、二人とも僕の研究室に寝泊まりすると良い」


 ウィルとギャレス達一向に行く当てがない事を何となく察したハルネは、突如として提案を持ち掛けた。


「君達の叔父様から言われた約束事もあるしね。その約束には勿論君達の協力も必要だから、是非ともうちの────」


「あー!そろそろ上に警官が溜まりそうだなぁ!?厄介者の俺やディオールの関係者一同は上に上がった方がいいと思うんだが?」


 ハルネの言葉を突如遮った洞爺の声は、二人の意識を一旦洞爺の意見に向けさせた。


「とは言え、泊まらせてくれるってなら……」


 ウィルは洞爺の意見も最もだと考えたが、今この場においてハルネ達を置いて上に逃げるというのはどうも納得出来なかった。

 今ここでハルネと共に上に上がれば警官から疑われるような目も向けられないだろうし、安全性はグッと向上する。

 その為、ウィルはハルネと共に行動をしようとしたのだが────そんなウィルに向けて銃口が突きつけられた。


「は!?」


 洞爺から突然銃口を突きつけられたウィルは、困惑のあまり思わず驚きの声を露わにすると、同時に反射的に両腕を上げた。

 そんなウィルの命を握っている洞爺は、口元に悪魔を連想させる様な────何を考えているのかまるで読めない笑みを浮かべながら再び口を開いた。


「さぁ、ディオールを連れて上に行け」


〈そんな勝手な!僕らはハルネさんと一緒に────〉


『マガト。早くあの馬鹿連れて上に行け』


〈ディオール!?〉


 洞爺の勝手な言いように思わずマガトが話に割り込もうとするが、その割り込みをディオールが阻止した。

 既に眠っていたかと思っていたディオールの登場にマガトは驚きを見せるが、その人格はディオールの存在感のせいですぐさま消されてしまった。


『ほら、早く行くぞ』


 ディオールはウィルの背中を叩きながら上へと向かう。

 ウィルは何事かと未だに理解が追いついていない様だが、ディオールはそんな事構わずに上へと足を向かわせる。


「何だ、残念だな」


 ハルネがそんなやり取りを見てしょんぼりとした表情を見せるが、そんなハルネの横に洞爺は立ち、顔をやや真剣な表情にさせてハルネにしか聞こえない様な小さな声で一方的に語り掛ける。


「俺の得意分野は人の本質を見抜く事だ。言いたい事はわかるよな?」


 洞爺の言葉を確かに聞いたハルネは自重気味に笑い、ハルネもまた小声で言葉を呟いた。


「……参ったなぁ」


 それを聞いた洞爺はそれ以上ハルネには関与せず、自身も地上へと上り始めた。


「じゃあ、俺はここでな。俺の我儘に付き合ってもらって悪かったな」


 先程の何処と無く重苦しい雰囲気は何処へやらと言う程に態度が急変した洞爺は、いつも通りの笑みを顔に貼り付けてその場に居た者達に別れを告げた。

 こうして、イレギュラーはその場を後にする。

 確かにこの場を掻き乱し、確かにこの場に居た人間達の記憶の中にイレギュラー(洞爺)という跡を残して。


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