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The Rampage 2021 - Sweet blood death dawn  作者: 冬野 立冬
『表裏一体』────怪奇
53/72

46話 擬似


「良いね。じゃあ次は本気だ」


「……上等じゃねえか」


 先程の攻撃は本気では無かった。

 そんな事実に驚くよりも先に、大男は再び構えを取っていた。

 任務の為に差し違えてでも、この男を倒す。

 その為に大男は、これまでの戦闘の中でも一番と言っていい程に鋭く、そして深く集中力を研ぎ澄ませて行く。

 型取るは空手の所作────

 僅かに膝を曲げ、両腕は腰の位置に添える。

 そうして深い深呼吸をし、目の前の男への攻撃以外の雑念を振り払う。


 相手の一連の所作を見たプラトは、僅かに口元を歪ませると、自身も肩を回しながら最後の一撃の準備を進める。

 先程の様なボクシングで使われる技術は使わず、ただ己の腕力のみで大男を沈めようと歩き出す。

 そうして二人の距離が一メートル程に縮まった瞬間────二人は同時に拳を突き出した。

 お互い聞き手が右手という事もあり、拳は華麗に交差を果たし、一直線に互いの顔へ向かって行く。

 そうしてコンマ数秒の世界の後、通路に鈍い音が響き渡る。

 結果としてはお互いの顔面にはお互いの拳が届いていた。

 プラトも大男も頬の部分が互いの拳で潰れ合っている。

 しかし────


「いいパンチだった。だが、俺をKOさせるって点ではまだまだだったな」


 倒れたのは大男のみであった。

 大男は白目を剥きながらグッタリと膝から倒れ、自身の意識を失った。

 呆気なくも、辺りに衝撃的な印象を与えた二人の攻防は、『NOT』の面々の足を僅かに後退させる。

 そんな『NOT』の面々に対しプラトは、戦意を失おうともあくまでも彼らはハルネの敵として認識し、腕の骨をバキバキとわざとらしく鳴らしながら近付いて行く。


「全員纏めて掛かってきやがれ。相手してやる」


 プラトの高圧的な態度に『NOT』の面々は思わず唾を深く飲み込む。

 今すぐ階段から逃げても良いが、階段側には未だにギャレスと洞爺(とおや)が道を塞ぐ様に戦っている。

 今あの道を通れば、最悪巻き込まれるのは必然的だろう。

 覚悟を決めるしか無い。

 『NOT』の面々は腰から再び銃を取り出し、プラトに向ける。

 常人ならば数十単位の拳銃を向けられたらすぐさま動きを止め、降伏するだろう。

 しかしプラトは止まらなかった。

 一歩、また一歩と『NOT』の面々に歩みを進めて行く。


 全く持ってプラトに対して怖気付く気配を感じられない『NOT』の面々は、顳顬(こめかみ)に汗を滴らせながら、拳銃という絶対的な凶器を持っているのにも関わらず、まるでチンピラの様に何とかプラトを止める為に下手な脅しの言葉を吐く。


「止まれ!撃たれたいのか!」


「撃ちたいなら撃てよ」


「クッ……!」


 大凡屈する気配は無い。

 そんなプラトを止める為には何をすれば良いか。

 拳銃で撃ち抜いてしまえば良いだけの話ではあるのだが、圧倒的な強さを誇っていた先輩を倒された反動により、『NOT』の面々は無意識にプラトに対して『銃を撃ったところで当たる気配がしない』という考えを芽生えさせていた。

 何とか考える。

 どうすれば良いのか。

 どうすれば目の前の怪物の足を留まらす事ができるのか。


 そんな考えが巡っている中、『NOT』のメンバーの一人が声を高らかに上げた。


「止まれ!じゃ無いとあそこにいるハルネ・ハーネストを撃────」


 声を高らかに上げていた。だというのにその言葉は華麗に遮られた。

 何故なら男の口は────プラトの大きな(てのひら)で覆われているからである。


「なっ!?」


 一瞬で陣地に入られた。その事実がさらに『NOT』の面々の焦りを煽る。


「誰を撃つだと?わかってねぇな。俺がこの場にいる以上アイツには手出しさせねえよ」


 プラトは押さえている相手の下顎骨を砕き割る勢いで手にグッと力を込め、体格差に物を言わせて相手の身体を宙に浮かばせる。

 『NOT』の男は、身体を暴れさせプラトの手から逃れようとするが、プラトの握力は絶対に男を離さない。


「おい!離せ!」


 すぐさまプラトの背後に居た男が、仲間を助ける為に拳銃を構えるが、やはりその拳銃が効果を発揮することは無かった。

 何かの糸が切れたように、一気にプラトは『NOT』の面々に対して牙を剥く。

 手に納めていた男を背後で拳銃を構えていた男に投げ付けると即座に辺りを見渡し、『NOT』のメンバーの位置を把握する。

 するとプラトはやや腰を低くしながら、しかしてスピードは決して落とさずに『NOT』のメンバーへと襲い掛かる。

 この場において拳銃は確かな凶器だろう。

 しかし、プラトが陣地に入った事によりその拳銃の凶器性は著しく失われる。

 拳銃とは、味方同士が近ければ近い程その効果が薄まる。

 少し考えれば簡単な事だろう。

 味方が近くに居る状態で拳銃を放てば、その味方に当たる可能性がある。

 その為、近接戦では銃は圧倒的に不向きだろう。

 だというのに『NOT』の面々は銃を下ろそうとはしなかった。

 否、出来なかった。


 プラトが陣地に入った事、そしてタイミングを見計らって暴れ始めた事。更に言えば自分達の中で最強と認識していた人間が倒された事。

 様々な要因が重なり、『NOT』のメンバー達の頭は半ばパニック状態に陥っていたと言って良いだろう。

 それを都合良く、プラトは一人、また一人と『NOT』のメンバーを()ぎ倒して行く。


 あっという間に六人程のメンバーを倒してしまったプラトに対して『NOT』の面々は更に勝てないのでは無いか、という意識を強めて行く。

 そんなメンバーの気持ちなど一切知らずにプラトは、再度わざとらしく指の骨をポキポキと鳴らしながら次の標的を探す。


「クソッ!クソがッ!」


 一人の男が正気を失った様に拳銃を投げ捨て、声を荒げながらプラトへと向かって行く。

 拳銃を捨てる事は間違ってはいない。寧ろ今の状況を考えれば最善とも言えるだろう。

 しかし、体格差や戦闘経験の差を考えれば男がプラトに勝てないのは明確であった。

 それでも男はただ一直線にプラトの元へと向かって行く。

 狂乱とも取れる荒い声を上げながら、ただただ足を進める。

 勢いに任せた攻撃に対し、プラトは大して顔色も変えずに淡々と仕事を熟す様に男と相対する。


 男は拳をただ振りかぶり、相手の動きを見向きもせずに乱暴に振り回す。

 結果として、プラトはその拳を身体を横に移動させる事で簡単に(かわ)して見せた。

 そうしてそのままプラトは相手の顔面を片手で鷲掴みにし、勢いよく地面に叩き付ける。

 男の後頭部に激しい痛みが走り、思わず意識が飛びそうになったが────しかし男は何とか気力を振り絞り意識を強く保つ。

 僅かに身体を動かして何とか抵抗をしようと試みる男を見てプラトは無常に徹し、上から拳を振り下ろす事で相手の意識を完全に消そうとするが────


「グッ!?」


 相手の顔面を押さえていた左手に力が入らない。

 一瞬の出来事にプラトの頭に疑問が過るが、すぐさまそのアンサーは目の前の光景が示した。

 プラトの手首を裂く様にナイフが刺さっていたのだ。

 押さえつけられている男が最後の悪あがきとして腰からナイフを取り出し、プラトの手首に突き刺したのだった。

 手首には血液量が豊富な動脈が流れている為、常人ならばすぐさま止血をしなければならないだろう。

 一瞬にして形勢が逆転しかねない状態。

 だと言うのにナイフを突き立てた男はプラトの手から逃れると、顔に恐怖の化粧を(はら)ませながら背後に後退して行く。


「……お前、何者だよ」


「……まぁ、フェイルの不死を見てんなら隠す必要もねぇか」


 プラトは突き立てられたナイフを手首から取り出し、適当に投げ捨てる。

 しかし些か奇妙な光景がそこには確かにあった。

 男が何故怯えているのか。それを無理やり理解させられる異様な光景が。


「刺した感覚がまるで無かった……その身体は何だ?」


「……そうだな。簡単に言うと俺は()()()()()って訳だな」


 プラトの手首には確かに刺された傷が見える。

 だというのに、プラトの手首からは()()()()()()()()()()()のだ。

 目の前の不可思議な現象を見た『NOT』の面々はフェイルの時と同様に、この世から限りなく乖離(かいり)された不可解な現象に目を回している。

 そんな面々を気にせずにプラトは自身の腕をさすりながら言葉を続ける。


「まぁ、擬似って訳で俺はちゃんとやる事やらねぇと死ぬんだけどな。しかもこういう攻撃もすぐに治らないしな」


 プラトは自身の身体の不自由さを憂いながらも、どこか割り切った表情をしながら座り込んでいる男の元へ近付いて行く。


「残念だったな。俺がちゃんとした人間なら今の立場は逆になってたかもな」


 そうしてプラトは無慈悲に男の顔面に強烈な蹴りを入れ込み、男の意識を今度こそ消してみせた。


「この身体になると危機感が欠如していけねぇ……困ったもんだよなぁ?だから……その〜何だ。一応残りのお前らには手加減無しで行くからな?」


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