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The Rampage 2021 - Sweet blood death dawn  作者: 冬野 立冬
『表裏一体』────殺意
49/72

42話 願い


〈グッぅ!?〉


「ん……?」


 凶弾に反応した声は、明らかにギャレスの声では無かった。

 その声は────老齢な男の声だった。


〈間に合ったか……〉


「人格の一つか?」


 フリラは後退しながら腹部を抑え、その場に座り込む。

 そんな光景を見た洞爺(とおや)は、すぐに頭に疑問を走らせる。

 人格が変わったとて、元の身体が死ねば他の人格も消えるのではないか。

 それとも、命懸けで人格を変更したという事は────


「成る程な。天晴れだ」


 瞬時に思考を切り替えた洞爺は、フリラに対して言葉のみで賞賛の声を送る。

 洞爺は魔術や、この世に潜む神秘に触れた事は一度も無い。

 不死者を見た事も今日が初めてだ。

 しかし洞爺は、目の前の不可思議な現象に驚くよりも、まず思考を凝らして最善の手を模索する。

 しかし目の前で起きた事象に対しては追撃する事は無く、一度手を止めることを選んだ。

 何故なら────


 ────最後まで見守らないのは無責任かも知れんな……


 ────いや、無責任なのだろう。これでは堕ちる場所は地獄で決まりじゃな……


 死に際。

 自重気味に笑うフリラに対して、洞爺は顔から先程の笑みを完全に消して向き合う。


「俺は今日、ハルネ・ハーネストとその連れに出会い『不死』を知った。そして今、それに同等の不思議な現象を見せて貰った。ありがとう」


 洞爺の言葉に、フリラは思わず目を大きく開けて反応した。

 確かにその口から放たれた『ハルネ・ハーネスト』という言葉。

 自身の身体がこの様な状態になっている『(もと)』を作り上げた魔術協会の天才の名前────


〈この場に……ハルネ・ハーネストが居るのか?〉


「ん?あぁ、あそこに」


 洞爺は死の淵から僅かに生気を取り戻したフリラの質問に首を傾げながらも、ハルネの方を指し示す。

 ハルネは自身の話題が出た事を小耳に挟んだのか、フリラの方へ振り返り、何事かと相手の言葉を待った。


〈そうか……貴方が……最期に会えて良かった〉


「僕の事を知っているのですか?」


〈えぇ、そりゃもう。この身体は貴方の『擬似不死者作成実験』を元に作られた身体なのですから〉


「……そんな昔の実家を掘り返して成功する人がいるなんて驚きましたよ」


 ハルネは微かに驚いた表情を見せると、姿勢をフリラにしっかりと向き合わせる。


「それにしては()()()()()()()様に見えますが?」


 ハルネの疑問は真っ当だった。

 擬似不死者の実験に成功しているなら、痛覚はあれどわざわざ遺言を残す事はないだろう。

 だというのにフリラはハルネの意見に首を横に振り、質問に答えて見せる。


〈私達の実験は成功に『限りなく近い』という形で終わりました。それ故にこの身体は不死者とは言えない〉


「というと?」


〈この身体には七人の人格が入り混じっている。ギャレスという気弱で、自身の表現方法を殺人という事でしか表せない男が人格の主をしている〉


「さっきから暴れ回っていた人か」


 ハルネの推察にフリラはこくりと頷くと、そのまま言葉を続けていく。


〈その人格に跨る様に他の人格が入り混じっているのだ。この時点で貴方との実験には大きな差がある〉


 フリラの言う通り、ハルネの実験はあくまで一人の精神を一つの依代に移すという物であり、人格を入り混じらせる必要は皆無である。

 ハルネがそのことについて尋ねようとしたが、フリラが先に何故この様な身体にしたのかを語り出した。


〈我々の技術では、一つの身体に一つの肉体を宿す事は困難だった。だから、複数の人格を混ぜると言う判断に至ったのです〉


「理由になっていませんよ。複数の人格にするメリットがわからない」


〈……人格の一つが死ねば、その情報は他の人格に()()()()()()()


 フリラの説明に対して端で聞いていた洞爺は魔術等の知識が無いため、イマイチ理解に苦しんでいた。

 しかし、ハルネだけはしっかりとその説明を理解していた。


「……成程。確かに不死者とは言えない身体ですね」


「なぁ、どう言う事だ?」


 話の流れが一切理解出来ていない洞爺は、思わず隣まで来ていたハルネに会話の内容を尋ねた。


「簡単に言うと、複数の人格を用意する事で傷付いても簡単に修復してしまう見せかけの不死を作り上げたって事さ」


「……見せかけって事はあれか。本当は攻撃を喰らった奴は死ぬって事だろ?」


「そうだね」


 淡々と質問に答えるハルネは、一度洞爺からフリラに意識を戻して話の流れを繋げた。


「何と言っていいのか……僕が原因でこの様な辛い人生を送らせてしまった事を申し訳なく思う他ありません」


〈何、こちらが勝手に犯した禁忌だ。貴方が謝ることではない〉


 フリラは再び自重気味に笑うと、いよいよ死期が近付いていることを本能的に察したのか、最期の最期に(かす)れた声で再び言葉を紡ぐ。


〈これは勝手な死に損ないの願いだ……良かったらでいい。少しだけ耳を傾けてくれないか〉


 フリラの言葉にハルネは真剣な表情を崩さないまま、ただ口を閉じて言葉の続きを待った。

 ハルネの沈黙を了承と受け取ったフリラは、口元の笑みを絶やさないまま願いを放つ。


〈この身体に宿る人格────娘や息子達を一つの身体にしてやってはくれないか?〉


「……前向きに考えさせて頂きます」


 ハルネの答えを確かに聞き取ったフリラはそのまま眼を瞑り、永遠の夢へと堕ちてゆく。

 ゆっくりと、ゆっくりと────


 しかし、直後にその場の空気を殴り飛ばす様な怒声が響き渡る。


{テメェ!よくもフリラ爺さんを!!!}



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