25話 停電後────殺人中毒者
エントランス端。
{あ〜あ。全くギャレスのせいですっかり警察のお世話だぜ}
「ごめん……」
{謝るなら下手な真似は最初からすんじゃねえよ!一々癪に触るなテメェはよ!}
一連の流れを全て一人の身体で行なっている為、ギャレスを見張っていた警官は実に不気味だな、という視線を送り続けている。
「ごめん……」
謝る以外に言葉が無いのか、ギャレスはただ言葉を繰り返す。
二度目の謝罪を聞いたヴァイラは大袈裟な溜め息を吐くと小さく舌打ちをして言葉を続けた。
{今後俺達はどうなる?運が悪ければ務所送りじゃねえか……?}
《最悪……な。何かこの場でイレギュラーが起きてくれれば良いんだが……》
ヴァイラの言葉にギャレスのもう一人の人格、マガトが言葉を返す。
《だがまあ、そんな奇跡は起きないだろう……今私達が日本にいる事すら奇跡に近いと言うのに》
マガトは自嘲気味に笑いながらこの現状を嘆いた。
× ×
ギャレスは元々イギリスの小さな街で生まれた青年だった。
しかしその家系図は些か正常とは言えなかった。
母親はギャレスを産むまでに、計三人。産まれて以降は二人を子宮内で亡くしている。
所謂、流産である。
これだけを聞くだけでも既に異常と捉えられるのだが、何より気味が悪かったのは流産を経験した母の反応であった。
医師から流産の可能性があると聞いた時、確かに彼女は────笑っていた。それも毎回である。
まるで、流産を望んでいたかの様に。
そして何より医師が不気味と感じた点は、手術で取り出した子宮内容物を集めているという事だった。
何の為か?我が子の命を惜しむ為か。
それにしてはやはり彼女の反応は不自然、そして不気味であった。
我が子を惜しむのなら、顔に歪んだ笑みなどは浮かべない。
そんな彼女の噂は、三人目の流産が行われた辺りから街に伝播して行き、最終的には『悪魔の女』とまで揶揄される様になった。
しかしそんな噂が立とうと、彼女は周りの意見を気にせずにもう一度妊娠をしてみせた。
妊娠の噂が瞬く間に街に広がると、すぐさま市民は「また命を無駄にするつもりか」「可哀想ねぇ……」「夫も夫だな」などと、誰一人として彼女の妊娠を喜ぶ者は居なかった。
そして、そんな境遇に立たされている中で奇跡的に生まれた存在────それがギャレスであった。
生命の誕生。
これ程までに喜ぶべき事はない。
担当した助産師達は思わず歓喜の声を病院内に響かせた。
「良かったですね!元気な男の子ですよ!」
助産師の一人がそう言うと、彼女は微笑みながら言葉を返した。
「えぇ、順調ね」
彼女の言葉に助産師は思わず首を傾げたが、出産の疲れから思わず変な言葉が出てきてしまっただけだろうと思い、その言葉を頭の中から消した。
その言葉が今、目の前にいる赤ん坊の命運を決めるとも知らずに────
そして一年後、彼女は再び妊娠をした。
一度出産の成功を収めたことにより、街の反応は少しだけ変わっていた。
市民達は前程に嫌味な顔を示さなかったのだ。
しかしその掌は綺麗に返される。
再び彼女は流産をしたのだった。
その後もさらに一人。
遂に歳の関係で彼女は妊娠を諦めたが、三十四歳の時点で計五回流産を経験していた。
それ以降、彼女とその夫は街からふとしたタイミングで消えてしまった。
噂によると、街から少し離れた場所にある祖父の家に移り住んだとの事だが、事実の確認を誰もする事は出来なかったので所詮噂止まりとなり、やがて街の記憶から彼女の存在は消えて行った。
× ×
そしてギャレスの中にある人格の内の一人。
老齢な態度が特徴のフリラもまた、この現状を嘆いていた。
────ギャレスの心が揺らいでおるな。
────これは少し不味いかもの……
フリラはギャレスの中に眠る人格の一人が目覚めることを危惧しながら、今後の事を考える。
────もしこれ以上ギャレスにストレスがかかる様な事があれば……
────此奴らの叔父として……
────役目は果たさないとな。
そんな事を考えていると、ギャレスの眼球を通して、一人の男が目の前に現れた。
私服の為、警察官ではないように見える。
私服警察という線もあるが、男が発した第一声によってその線は途切れる。
「お前、今すぐ地下に向かえ!」
× ×




