女の花園
「大学の近くがいいよな~」
ネットで、大学付近での賃貸を探していると、ルームシェア住宅というものを見つけた。
ルームシェア…。いいかもしれない。寂しがり屋な俺にはぴったりだし、女子がいれば、ラッキースケベとかありそうだし。なにより、彼女もできて、脱童貞ができるかもしれない!
むふふ。悪くない、悪くないぞ…。
「スミレ荘か。ここ良さそうだな、よし、見学いってみるか!」
ネットで見学の予約を入れ、後日見学に行くことになった。
ーー当日。
「お~。見た目も綺麗だな~」
当日、俺は待ち合わせの時間5分前にスミレ荘の前に立っていた。
スミレ荘は一見大き目の一軒家で、家の周りには綺麗に手入れされている花壇が沢山並んでいる。
なんの花かは全然分からないが、大切に管理されている事は一目で分かった。
その花壇の上に猫が飛び乗ろうとしていたので、慌ててその猫を抱っこする。
「ごめんな、花が潰れちゃうからそこは乗っちゃだめだぞ」
にゃあ~。猫が俺の腕の中で、申し訳なさそうに鳴いた。
あ、首輪をしているじゃないか。飼い猫か。可愛いな~。
「こんにちは。速水尚希さんですか?」
思わず和みながら猫を地面に下ろし撫でていると、後ろから優し気なお姉さんボイスが聞こえた。
振り向くと、お姉さん系な美人がこちらを朗らかに見つめていた。
たれ目がちな瞳がなんだか艶っぽくてセクシーだ。こんな人が管理人なんて…。この時点で、もう住みたいのだが…!
「こっこんにちは…。速水です。か、管理人さんですか?」
「ええ、佐藤春花と申します。ここの管理人をしています。その猫、うちで飼っている猫ちゃんなんです。今日は見学でよろしかったですよね」
「あっはい!よろしくお願いします。ここの猫ちゃんだったんですね!すいません、勝手に触っちゃって…」
あまりの美人に緊張して、思わず声が裏返ってしまう。
そんな不甲斐ない俺に、佐藤さんは優しく微笑んでくれた。
「大丈夫ですよ。その子ラムネって言うんです。女の子であんまり男の人には懐かないんですけど、速水さんは平気そうで驚きました。ラムネ、そろそろ家の中に入っておいで」
ラムネは返事をするかの様に鳴くと、少し空いていた部屋の窓から家の中へと入っていった。それを見届けた佐藤さんが俺の方へ振り向く。
「すみません。では、早速ですが、家の中の見学から始めましょうか」
「よろしくお願いします」
俺は佐藤さんに続き、家の中へと入っていった。
「では、どうぞ。上がってください」
「おじゃましまーす…」
家の中も、とても綺麗だった。心なしかいい匂いがする気がする。
「今入居してるのが、私含めて3人なんですけど、残念ながら、今日は残りの2人とも、出かけていていないんです」
「そうなんですか…」
入居する前に、一緒に住む人達を見てみたいと思っていたので、残念だな…。
「入居者全員女性なのですが、皆さんとってもいい子たちですから、安心してくださいね」
「えっ。全員女性ですか?俺、入居しても大丈夫なんでしょうか?」
女の子がいてくれたら嬉しいとは思っていたが、入居者全員が女性とは考えてもいなかったので、とても驚いた。というかそんな花園に俺が入居してもいいのだろうか。
「大丈夫ですよ。昨日、皆さんに男性が入居するかもしれないと、お話ししたんですが、皆さん良い人なら大丈夫だと、とおっしゃっていましたから。最初は変な方だったらお断りしようと思っていたんですが…」
佐藤さんはそう言うと、俺の顔を覗き込むように顔を近づけてきた。視界いっぱいに綺麗な顔が広がって、一気に顔が熱くなるのを感じる。
「さっ佐藤さん!?」
「私、人を見る目には自信があるんです。速水さんは、良い人だと思います。さっきも、ラムネが花壇の花を踏んじゃいそうになったのを、止めてくれていましたよね。あれをみて、優しい人だなあって、私、感心しちゃいました。だから、速水さんならほかの皆さんも納得してくださると思います」
「そうだと嬉しいんですが…」
不意に褒められ、思わず照れている俺を、佐藤さんは穏やかな笑顔で見つめていた。