文学少女の必殺技は、上段2連回し蹴り。
突然だが。ぼくには好きな女の子がいる。
ぼくの通う高校で、一人本を読む佐倉さん。
おさげ髪に眼鏡で、いつも本を読んでいる。
彼女の本は図書室で借りているものなので、ぼくは彼女と接点を作るために図書委員になった。
お昼休み、放課後、毎週木曜日。彼女は本を読みに来る。
ぼくは、その時間がたまらなく好きだった。
そしてとうとう、ぼくは我慢できなくなった。
もっと、佐倉さんと近づきたい。話がしたい。
そんなつもりで、ぼくは手紙を書いた。
本好きの彼女なら、わかってくれると思って。
午後三時。校舎の裏で、待ってます。
手紙を、彼女の下駄箱に忍ばせた。
教室の掃除当番だったことなんて、興奮して書いたから失念していた。
少し遅れてしまう。もういないだろうか。
ぼくは息を切らして走った。
まるで、恋愛ドラマの主人公のようだ。
そんな自惚れを感じながら、僕は校舎裏へ走った。
そこに、佐倉さんは待っていた。
なぜか、ヤンキーに囲まれて。
「お前、何なんだよ?ここは俺たちのたまり場だぜ?」
ぼくは、そんなことは知らなかった。
「呼び出されたんです。あなたたちですか?」
佐倉さんは淡々と答える。
「呼び出しとかww果たし状じゃん、超ウケルww」
ギャルが笑う。いいじゃないか別に。
ぼくは、校舎の陰で文句を言う。
「果たし状、ですか」
佐倉さんはぽつりと呟いた。
「なんだか知らねーけどよぉ、あっち行けよぉ!」
ギャルの一人が、佐倉さんにつかみかかった。
そのギャルが、空中で一回転した。
「あ……アケミぃ!?」
アケミとやら、目を回して倒れる。
「何すんだお前こらぁ!」
殴りかかる不良。危ない!
佐倉さんは難なく躱す。
そのまま顔面に掌底を一発。
「ぶべらっ!」
殴りかかった不良、撃沈。
「てめえ、舐めた真似しやがってえ!」
一番デカい不良が立ち上がる。
この学校一番の不良、中山くんだ。
その時、佐倉さんのセーラー服が、ふわりと浮いた。
左足を軸にして、右足がきれいに上がる。
上がった右足は、中山君の頬を直撃した。
「ぐおおおおおお!?」
そのまま、佐倉さんは円を描く。
もう一度、同じ所へ寸分たがわず、中山君の頬を打った。
「ぐあっ…………!」
中山君は、白目を剥いて倒れた。
ぼくは、あまりの光景に、目を奪われていた。
佐倉さんがこちらへ来る。目が合った。
「……何?」
「い、いや……なんでも……」
佐倉さんは帰った。
ぼくはしばらく、校舎裏に立ったまま。
「……ピンク色か」
その光景を、ぼくは忘れない。