表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

おばあさんとリンゴの木

作者: 織花かおり

リンゴがおいしい季節になりましたね。


ある田舎町の古びた家の庭先に、見事な実をつけているリンゴの木がありました。


「あぁ、今年もうまそうだねぇ、ヒヒっ」


頭にほっかむりをした、腰の曲がったおばあさんは、毎年リンゴができるのを楽しみにしていました。


若いころは、アップルパイやコンポートを作って、家族にふるまっていましたが、一人暮らしになってから、おばあさんの口に入るより、あまる方が多くなりました。



ところが……


「この木は、私の木だ。だれにもやるもんか!」


おばあさんは、村人が「立派になりましたなぁ」とか「色づきましたね」というだけで、ほうきを振り回して怒りました。




ある日、茶色の髪を緑のリボンで結び、リンゴ色のほっぺの赤いドレスを着た娘が、リンゴの木を見上げていました。



「そんなに見つめていたって、お前さんにはやらないよ」

おばあさんは、女の子に言いました。

「その木は、私のものだからね」





むすめは、こくんとうなづくと、

「リンゴを食べてみてください」と言いました。


おばあさんは、

「へんなむすめだねぇ」と言いながら、ちょうど喉が渇いていたので、自分の木から一つもぎると、入れ歯が全くない馬のような丈夫な歯でかぶりつきました。


リンゴの汁が、したたり落ちます。

「うん、うまい!さすが私の木だ!」

それを聞くと、娘は心底喜びました。




次の日も娘はやってきました。


そして、「りんごを食べてみてください」と言いました。


おばあさんがリンゴをおいしそうに食べるたび、娘は喜ぶのです。




その次の日も、また次の日も、娘はやって来ました。


最初は「変な娘」としか思わなかったおばあさんも、不思議がりました。


「むすめ。あんたはこのリンゴが欲しくないのかい?」


むすめは、こくんとうなづくと、「食べ残しの種をください」と言いました。


おばあさんは、ふきげんになって言いました。


「いやなこった。この木は、種まで私のものだよ」




むすめは、悲しそうな顔をしました。



でも、また次の日も娘はやって来たのです。


「私の夢は、このリンゴの木の子供を畑一面に植えることです。きっと、春は白い花が美しくさきほこり、そのトンネルをたくさんの人が行きかうでしょう。そして、秋は甘い香りが広がって、美しい赤い実が人々を喜ばせるのです」



おばあさんは、それを聞いて遠い日を思い出しました。


このむすめと同じとしのころ、若かったおじいさんといっしょにそのような場所に行ったことがあったのです。




おじいさんは、「きれいだなぁ。ぼくは、こういうばしょがすきだ」と言いました。


おばあさんも、「きれいねぇ。わたしもこういうばしょがすき」と言いました。


ふたりは、とてもしあわせでした。




そして、おじいさんは、落ちているリンゴをひとつ拾って、「このリンゴの種をぼくら二人の家の庭に植えよう」とプロポーズしたのです。


おばあさんは、うれしくて「えぇ、植えましょう」とそのリンゴにほおずりしました。




おばあさんは、むすめにリンゴをひとつ渡しました。


「持っておいき」




むすめの顔がぱぁと輝き、リンゴよりほほが赤くなりました。


それから、むすめはぴたっと来なくなりました。




そして、おばあさんはときどきあのしあわせなばしょが、この世界に増えることをよろこぶ夢をみるようになったのです。



おばあさんはリンゴの木の下にこんな立札を立てました。


『このリンゴは最高です。欲しい方は、お声をかけてください。そして、良かったら、種を植えて育ててください』   


 おわり


最後までよんでくださって、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織花かおりの作品
新着更新順
総合ポイントが高い順
作成:コロン様
― 新着の感想 ―
[良い点] 以前読んだときは、自分の小心ゆえに苦味ばかりを感じたのですが、 いま改めて読んでみますと、とても心があたたまる素敵なお話だったんだ…とホッコリしました(*´ω`*) [一言] 先月は店にり…
[良い点] かたくなになった人の心をほぐしてくれるのは、人の心なんでしょうね。 リンゴの木が庭にあったら、どんなに良いだろうと、私も子供の頃から憧れています。 あんなに赤くて甘くて立派な果物が、自分の…
[良い点] 「むすめ」さんは妖精のようです。心が綺麗で。だからおばあさんの心にも影響したんですね。「種までも自分のもの!」と言い張っていたおばあさんは「これ以上なにも失いたくない!」という悲痛な思いの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ