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カペル王国 中部

 カペル中部

 カペル中部は平野が長く続く地帯であり、遮るものがほとんどない。そのため、殆どの生物が肉食生物へ対する対抗手段を備えており、ヒトも捕食対象となる。実際、警備の行き届いた街道の外れや、村落等の城壁のない集落で、最終捕食者であるジェヴォーダンやシャズがヒトを捕食する例は枚挙に暇がない。カペル中部は非常に優れた自然環境の為に、却って生物間の生存競争が激しいのだろう。


 カペル中部における魔物の食物連鎖は以下のようである。

 ・草の葉→ ケンプ・アマルティ→ポルドラン・カラドリオス → ジェヴォーダン・シャズ


 主な魔物

 ケンプ……体長130cm-160cmの草食獣。一般に家畜である羊の原種と考えられ、家畜化した羊と異なり螺旋状の角を生やしている。主食は草のみであり、アマルティ程多様な食料を持たない。視野が非常に広く、聴覚も鋭いが、空間把握能力は低く、敵を確認すると一斉に逃亡を始める。

 ケンプは集団で行動するが、規律の取れたグループではなく、集団から逸れる個体も多い。群れからはぐれた個体は別の集団に勝手に合流して行動を共にするため、彼らの集団は「群れ」というには適切ではなく、「個体の集団」という方がより適切である。

 ケンプの集団は群れとしては成立しない集団だが、彼らはもっぱら集団に紛れることによって、自己の生存率を高めるという目的に注力しているようである。この性質は、逃げ足の速い個体や強い個体ほど群れの中心にいるという特徴に現れており、生存の為なら別段どの集団に所属するかは区別されないのであろう。

 実際、私の調査によれば、発情期には集団内での激しい雌の奪い合いが起こり、多くの雄がその螺旋状の角により受けた打撲傷を残していた。

 彼らは特殊な反撃手段は持たない。その反面、近づいた敵を睡眠へ誘うことが可能なようである。詳細は不明だが、私見では生物の脳に作用する何らかの音波を発しているか、興奮状態を抑える成分を魔法によって周囲に放出しているのではないかと考えている。但し、現状では実証が困難なため、指摘するにとどめる。


 アマルティ……体長140cm-180cmの草食獣。見た目では山羊とさほど違いを見いだせない。主な食事は草であるが、その他に花や木の実も食べ、極稀に虫も捕食する。

 初期の山羊の仲間であるパサンの類縁と考えられ、非常に大規模な集団で、個体が自由に行動する。このような巨大集団に所属する事で、発情期になっても雄同士の雌の取り合いがほとんど生じず、殆どの雄が雌と交尾できる。しかし、稀に交配のできない個体がおり、この個体は未熟な子との交尾や雄同士での交尾といった異常行動をとることがある。そのため、周辺住民はアマルティを「恐るべき黒山羊」を意味する「バフォメット」と称する。

 なお、付言すると過去に栄えた異教徒の間ではアマルティを神聖視する文化があったと言われる。諸説あるが、その高い栄養価や繁殖力の高さのためと考えられており、アマルティの語源も「養育者」、「豊穣者」を意味する古語であると言われている。

 非常に食欲が旺盛であり、草を食べつくすと、餌を求めて移動する。この地域の草花は成長が速く、アマルティの食事に対応することが出来るが、他地域でアマルティを放つとたちまち荒野か砂漠となってしまうであろう。

 アマルティは反った巨大な角を持つが、魔法を利用してこの角を突き立てることによって、捕食者からの攻撃に応戦する。これには非常に単純な動魔法を利用しており、殆ど反射的に敵に突き立てることが出来る点で奇襲性が高く、単純な武器としてだけでなく、驚いた捕食者を追い返すことが出来る。また、集団密集行動や大型化は捕食者への対抗策と考えられる。


 ポルドラン……体長140cm-280cmの竜種。紫色の毒々しい鱗を持っており、草原地帯では非常に目立つ。移動は鈍長であり、足を引きずるように四足歩行する。一つがいで行動し、アマルティやケンプなどの大型草食獣のほか、虫なども食する。

 雌の方が大きい個体が多く、雄は食料の殆どを雌に依存する。その間ポルドランの雄は子育てを行う。雄の特徴として、乳腺が非常に発達している。このような奇妙な生態がどのように生じたのかは疑問が多いが、主な理由として考えられるのは、雌は一度に多くの卵を産み、大型になりやすいためではないかと考えられる。なお、子育てを終えると、雄は雌に捕食される。

 狩りの方法は非常に独特であり、自身の顔を草原の中から出し、獲物を驚かせ、逃げた獲物の逃走位置に合わせて噴水のような水を発生させ、吹き飛んだ獲物を回収するという。この水魔法は非常に強力であり、人間が当たると数メートル吹き飛び、落下の衝撃によって死亡してしまう。ポルドランはアマルティの反撃に対抗する手段が少ないため、このような狩猟法を身に着けたのであろう。


 カラドリオス……白く美しい羽毛を持つ、体長約110cmの鳥獣である。目が小さく劣化しており、その代わりに非常に嗅覚が優れている。嘴は長く鋭いが、可動域は小さく、捕食のために利用する。体は細く、木の枝や草、雲に擬態しているものと思われる。主食は肉であり、小動物のほか、ケンプも食す。首回りと足先、尾の先が黒く、首の黒い部分は袋となっている。

 岩の上や樹上に巣を作る。夫婦間の仲が非常によく、交代で子育てと狩猟を行うため、雌雄の体格差はあまりない。子が巣立った後も同じ巣で生活を共にし、つがいが死ぬと死骸を土に埋め、巣を立ち去る。土に死骸を埋めるという葬儀のような行為を行うという事は、高度な知能を持っているのかもしれない。

 狩りは、樹上からの急降下によって奇襲をかけることが多い。その他、草むらからの奇襲も行う。

 周囲の臭気を吸収し、自身の肉体に同様の臭いを生じさせるという奇妙な魔法を使う。この臭気の吸収がどのような意義があるのかは議論があるが、私見では、擬態に利用されるのではないかと考える。何故なら、小動物やケンプからは見えにくい樹上で生活するカラドリオスが狩りを成功させるには、敵に接近を感知されない必要がある。その際、視界に入らないことは容易であるが、嗅覚まで誤魔化すことはできないため、これを補う為に発達させたのではないかと考えられる。

 私の調査によれば、この魔法は狩猟のほか、捕食者に狙われないためにも利用されており、実際にそのような効果が期待されているのであろうと予測できる。

 この臭気の吸収のために、カペルでは病の素を断つ吉兆の鳥と位置付けられているが、果たして本当にそのような評価が可能なのかは疑問が残るところである。


 ジェヴォーダン……体長約300cmの、ロートドランと並ぶカペル最大の捕食者である。その凶悪性はロートドランをはるかに凌ぎ、下位の種は勿論、人間をも捕食する。

 容姿は禍々しい狼のような姿をしており、赤色と黒色の斑模様の体毛を持つ。ライオンの様な毛房のある尻尾を持つ。巨大な鋭い犬歯を持つ。

 その危険性故調査も出来ず、殆どその生態は不明なのだが、本稿では、幾つかの目撃証言をもとに、この恐ろしい獣について紹介する。

 主に個体で狩りを行う。ジェヴォーダンは牛等の家畜を避け、人間を襲うという証言が多くあり、私見ではあるが、体の小さい動物から狙う習性があると考える。

 他の捕食者との最大の違いはその狩猟方法であり、猛烈なスピードで被食者に近づき、首を食いちぎり、狩りを終える。生還者の言葉を借りれば、そのスピードは「嵐が瞬間で通り過ぎるような風圧」を感じるという。潜伏などは一切せず、生物を見つけ次第攻撃する姿は、正しく恐怖そのものであるといえよう。


 シャズ……体長約170cm-200cmの、狼型の生物である。ジェヴォーダンより小柄ながら、その凶暴性は負けていない。体毛は赤茶色であり、体は細くしなやかである。三頭ほどの小さなグループを作り、小動物やケンプ、アマルティ、ポルドランなどを捕食する。

 一夫一妻制であり、雄同士の雌を巡る闘争が激しい。出生率は低く、雌一頭当たりの生涯の平均出生率は5匹程度と考えられている。

 狩りは堅実な奇襲で行い、草の間から一気に接近し、捕食する。三頭ほどのグループを作る主な理由はこのような狩猟方法にある。

 なお、シャズは生涯同じ雌との関係を続けるため、三頭のグループは概ね同じ血縁を持つ。

 魔法の使用は見られないが、その瞬発力があまりに速いために、何らかの魔法によって身体能力を強化している可能性はある。しかし、詳細なデータが存在しないため、ここでは言及するにとどめる。

 ヒトとのかかわりとしては、村落を荒らして家畜を攻撃するほか、その獰猛さや力強さから、カペルの由緒ある貴族はシャズの毛皮のマントを着用する。近年では特に村落への出現が多いが、これは森林の減少も関係していると考えられる。


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