ムスコール大公国 ヴォルエプル湖沼帯
ムスコール大公国
常冬の都と言われるムスコールブルクは、豪雪と氷結した大地により、比較的温暖な西側地域であっても草原や針葉樹林に囲まれ、東へ向かう程深い森の中は生した苔で覆いつくされていく。西部ムスコールは三角州の中に都を控えるムスコールブルクを海へと繋ぐ長大な運河、ヴォルエプル川の恩恵を受け、動物の生息域は広く、種数も少なくないが、東部に行くほど特徴的な種が増え、そしてその種数も減少する。
ヴォルエプル湖沼帯
ヴォルエプル湖沼帯はヴォルエプル川から分離する幾つかの湖周辺地域を指し、夏季には渡り鳥が周囲の湿原で生息し、冬には冬眠しない動物たちの貴重な給水地となる。苔を中心とする植物が地面を覆いつくし、背の低い草原が多くを占める。
ヴォルエプル湖沼帯における魔物の食物連鎖は以下のようである。
・コケ類・マツ・モミ・カバノキ・水草など→ユキト・アクトーン・スキオウロス →エンゲヅル・ハギウチ →カリストー・ジャバウォック
主な魔物
・エンゲヅル……体長約100cm‐150cmに達する、大型の水鳥。背が高くしなやかな首を持ち、長い脚で優雅に湖沼や湿原を歩く。全身を白と黒の羽毛に覆われているが、頭頂部の赤い肌が露出している。
木の枝などをより集めた皿状の巣を地上に作る。集団で生活をし、夏季のヴォルエプル湖沼帯には、数え切れないほどのエンゲヅルが魚を捕食して生活する。彼らの集団はその巨大さにおいて他の群れとは一線を画しており、グループとは言わず、「コロニー」と呼ばれる。
コロニー内で伴侶を作り、コロニー全体で子育てを行うが、コロニー内の雄同士の抗争は激しく、長くとがった嘴や、足の爪、翼を武器に互いに雌を競い合う。雌と雄では鳴き声が違い、比較的簡単に雌雄を聞き分けることが出来る。
水面を器用に歩行する魔法を用いる。足を高速で動かしながら水中に入り、魔法によって足を浮かせ、獲物を狙う。水面を歩行する魔法は凍結した湖沼でも役に立ち、彼らは滑ることなく獲物を探すことが出来る。
冬季には南東に移動をする「渡り」と呼ばれる行動をとる。これは、ヴォルエプル湖沼帯の厳しい寒さから身を守る為の行動であると考えられる。
・ハギウチ……体長約90cm程度の、大型の水鳥。背が高くしなやかな首を持ち、長い脚で優雅に湖沼や湿原の付近を歩く。全身を白い羽毛で覆われており、首筋に黒い毛が生えている。
松林などの樹上に巣を作る。エンゲヅル同様、コロニーを形成する。ハギウチの巣は何年にもわたって修復・再利用され、殆ど同じ巣で生涯を過ごす。
主に魚や小動物を捕食する。湖畔を慎重に歩き回りながら餌を探し、巣へと持ち帰る。
エンゲヅルと異なり、水の中には入らないため、魔法は使わない。但し、降雪に合わせて巣を保温する為に法陣術を用いる、非常に賢い生物である。
エンゲヅル同様「渡り」をする。
・ジャバウォック……体長500cm-2000cmの超大型肉食竜種。露わになった鱗や薄い体毛など、寒冷適応が完成しておらず、この地域に生息する理由はいまだ不明である。
歩くたびに地響きを上げるとも言われており、尻尾にぶつかった大型の生物や、たまたま踏みつけた動物などを捕食する。そのため、森林に多く生息し、背の高い木々に身を隠そうとする。稀に山岳級のジャバウォックが確認され、森から頭を突き出した姿も見られる。
繁殖は生涯に二、三度訪れる発情期に行うが、詳細は分かっていない。群れを作らずに個体数を保てる理由も判然とせず、求愛行動等も全くの未発見である。なお、群れを作らずに繁殖する為に巨大な体を得たとも考えられている。発情期に近づく者は雌でなければ何であれ襲い掛かるため、大変危険である。
炯々と光る巨大な瞳や、暴れまわる尻尾から畏怖の象徴とされ、ムスコールブルクでは不吉の象徴とされている。
狩りの際にはその巨体からは想像もできない速度で突進をし、獲物を轢き殺す。轢き殺すことが出来ない場合であっても、何度も旋回し、方向転換をしながら尻尾を振り回すことでブレーキをかけ、間断なく突進を繰り返す。
魔法は一切使用しない。魔法が寒冷地に適応しているのか否かもわかっておらず、殆ど生態が分からない魔物の代表格である。