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はじめに

 今日、わが世界(以下、異界の悪魔たちの総称より、オリヴィエスと呼称する)には多様な生態系が形成され、種々様々な生物がその役割に合わせた多様な自然淘汰によって種の存続をしている。本稿は、主にヨシュアの民と呼ばれるエストーラ以西からアーカテニアまで、教皇庁からムスコール大公国までの生物について、各国ごとの地理に合わせ、総合的に紹介を行うものである。


 本稿の意義は、現在もっとも繁栄する種である「ヒト」(本校では、通常、亜人種を含まない、生物学上の分類におけるヒト属全体を指す)が如何に変化し、また、諸生物に影響を与えていくかを検討するうえで重要なものであると考える。

 即ち、生物の基本的生体を、国という行政区分をもとに分類し、自然環境ごとに総合的に検討することによって、今後ヒトが自然環境に改変を与えることによって、各生物の生息域の変化やそれによるヒトの生命活動への影響を予測するためのものである。

 したがって、本稿は、これまで聖典の下に模索された生物分類に関する研究の問題点である、生物の減少や異常発生、またヒトが新たに発見した諸生物に関する調査の不足を、実地調査という研究手法を通して解決しようとする試みである。


 勿論、本稿では、聖典の言葉が絶対であり、正であることを前提に検討を加える。聖典は神の伝承や言葉(以下、「神話」と総称する)を「ヒト」が記したものであり、不完全な「ヒト」がこれら神話の細部に至るまで正確に、余すところなく記すことが出来るというのは、全くもって不遜な思い上がりである。つまり、本稿はこれらの思い上がりを払拭するための試み、即ち、聖典からは漏れた真実を解き明かす「秘跡」研究の一形態として、大きな意義のある研究である。

 研究の方法としては、私はできうる限り、実地での調査を基軸とするものであるべきと考える。そこで、私自身が赴いた諸国の地形、気候を含めた自然環境と共に、発見した生物、特に私の研究分野である「魔法生物」と総称される生物のなかで、「動物」に分類されるものの生態を観察し、各地の書籍に伝わる民間伝承の研究をもとに、研究を行う。民間伝承には、神話伝来前の異教の書籍をも含むが、これはあくまで聖典と照らし合わせて重要であると考えられる部分についてのみ採用する。


 主な調査地としては、エストーラ公領、カペル王国、プロアニア王国、ムスコール大公国とする。あまりに広域に及ぶため、本稿では主要な生態系を中心に紹介するにとどめ、より詳細な実地研究については今後の課題として次代研究者に引き続き調査を依頼したい。


 まずは、本稿の前提となる定義についての確認をしなければならない。そこで、第二章は、「定義」として、本稿の理解に必要不可欠な基礎知識である「生物」、「魔法生物」、「動物」、「食物連鎖」について確認する。

 次に、第三章は「調査報告」として、実際に行った調査をもとに、各々の国家、自然環境ごとの主な生態系の紹介をする。

 具体的には、「エストーラ」、「カペル」、「プロアニア」、「ムスコール大公国」の順に紹介する。この順番で紹介する理由としては、類似した生物の住む領域を順序立てて紹介するほうが、比較・整理がしやすく、より理解が深まると考えた為である。

 そして、第四章は「ヒトの影響」として、調査をもとに具体的な「ヒト」による自然環境の変化、影響を予測可能な範囲で行う。調査結果いかんによっては、「ヒト」が書く環境に変更を加えることによって、聖典とは全く異なる自然環境に変化する場合も考えられる。

 実際に、森林区域の大規模な開墾が行われた地域では、生物の分布が変化している。このような変化を鑑みると、今後神の恩寵を受けたはずの「ヒト」が、神の傍観の下でその環境を荒らし、意図的に改変させることによって、神の恩寵にも何らかの変化が生じる可能性がある。本稿はあくまで「ヒト」が自然環境に与える影響までを研究対象とするものであり、恐れ多くも神学的な領域に踏み込むことはしない。生物学的帰納法を中心に行われる本研究が、神学的演繹法のもと、「ヒト」の正しい発展に結びつくことをも、切に願っている。


 ムスコールブルク大学 魔法科学・魔法生物学博士 ローマン・ルシウス・イワーノヴィチ


ムスコールブルク大学 大学雑誌 生物学論業 No.12

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