部活、これに決めた!
「はぅ……わわわぁー」
私は言葉を喋ることが出来なくなっていた。
目の前に広がる連続して行われる同じ動き。それも何十人もの人がシンクロしているのだ。
ボールの弾む音はリズムを刻み立派な体育館を揺らす。
それに合わせてシューズも音を鳴らす。
「そこ!!集中せんか!!」
「ひっ!?」
そんな完璧に思えた動きに、頭部の薄さが目立つ先生が唸った。
一体、どこに唸る必要があったのか。私には見当がつかない。
「……や、やめよ。……バスケ部」
中学校のバスケ部との格の違いに心が折れた。
「はぁ……」
都会に来て一番大きなため息を吐く。
あの後、一通り運動部を回ってみたがどれも入ろうとは思えなかった。
「……どうしよう……部活」
志願書に濃く書かれたバスケの字。
それをボーッと見ながら校舎内を歩いていた。
何もやらないという手もあったが、折角の高校だ。何か今しかできない事をしたい。
しかし、校舎内を文化部目当てで歩いていたが、どれも的外れだった。
時間も時間になったので、校門を飛び越え帰路につこうとする。
「おーい、乃亜」
すると、着地と同時に声をかけられた。
「ん?西木か」
それは、見慣れた面をぶら下げていた奴だった。都会には似合わない奴だ。
「バスケ部どうだった?」
西木は何の悪気もなく私に聞いてきた。
「……凄かった。……私には、無理だな」
「え?」
いや、西木は一切悪くない。悪いのは、逃げた私だ。
それを考えると、目尻が熱くなる。
「……乃亜、何かあったのか?」
「もう、デリカシーなさ過ぎ。……私には釣り合わない。だって、私は瑠奈姉と違って凄くないから」
あんな凄い集団の中、一際目立つ存在であった瑠奈姉。私は憧れた。ただ、憧れた。手を伸ばそうとはせず、ただ。
「西木は、どうしたの?部活」
「お、俺か?勿論、サッカー」
「へぇー、あの、地獄のランニング部ね」
「どんな偏見だよ」
当たり前だろと歯を出してニヤつく西木。幼い頃、一緒にサッカーして遊んでいた。
中学で女子サッカー部がなかったからやらなくなったけど。
「うーん、サッカー部に入ろうかな…」
「お、マネか?」
「ううん、プレイヤー」
「いや、女子サッカー部ないだろこの学校……」
すると、西木は鞄から板を取り出した。
その板に私は目を疑った。
「に、西木……それ」
「ん?スマホがどうかしたか?」
どうもこうもない。スマホ、それは都会人の象徴。田舎から出てきたばかりの少年が持っていていい代物ではない。
「乃亜、もってないのか」
「うるしゃい!」
物珍しそうに見ていたら西木はそれを空に掲げ自慢げに言ってきた。
反射的に口にしたが舌を噛んでしまった。
「なはは、噛んでやんの。お前も親に頼み込めば買って貰えただろうにな」
「え?無理無理」
「いや、大丈夫だろ瑠奈も持ってるんだし」
「え?」
聞き捨てならなかった。瑠奈姉も持っている……だと?
「知らなんだ」
「お、出た出た。やっぱりないじゃんか」
西木は私の目の前にスマホを差し出してきた。
そこに映るのは学園のホームページの部活動ページだった。
「いや、女子サッカー部がない事ぐらい知ってるから。プレイヤー兼マネやるって事よ」
「そんなの先生が許してくれないだろ」
「大丈夫でしょ、ここの学園のサッカー部弱いって噂あったし」
「お前なぁ……」
「無理だったらアルバイトしたいし」
手に持っていた志願書のバスケの字をサインペンでサッカーに塗り潰した。