瑠奈姉と私を比べるな!
入学式が行われてから十数分後、三年生による激励の言葉を生徒会長が口にした。
「都会の女だねぇ……瑠奈姉……」
何を隠そう瑠奈姉である。何かそれっぽい事を言っている姉と昔の姉を比べると吐き出したいぐらいギャップ萌えしてしまう。
「流石、瑠奈だな」
「やろ?自慢の姉です」
「あっちからしたら、自慢出来ない妹だけどな?」
「うっさいわ」
激励を終えて姉は自分の席に戻った。その歩く時にたなびく真っ直ぐに伸びた黒髪がいい大人感をバンバンと出している。
周りから、ボソボソと声が漏れる。当たり前だ。
そして、姉にかわるようにマイクの前にあの校長先生よりイケメンの男の子が立った。
あそこに立つ、その意味はここにいる一年生の中で頭が一番良いという事だ。
それだけ頭が良くて、あんな風に気が利くなんて理想すぎる。あれは、明日下駄箱が大変になるに違いない。都会だからねここは。
そんな事を考えていると既に男の子は席に戻っていた。
この後、校歌を歌って入学式は幕を閉じた。
体育館から教室に戻る最中、私と西木はマシンガントークを炸裂させた。
「瑠奈と違って乃亜さんは抜けてますなー」
「なんじゃと!?私と瑠奈姉を一緒にしないで!!瑠奈姉と比べられたらそう思われても仕方ないから!」
「せやな、瑠奈は次元が違うよな」
「せやせや、あんなの人と呼んで良いものか?」
「ダメだろ、神は言い過ぎだから天使とか?」
「ああ、神の使い……もうそれしかないでしょ」
「だよな、その神の使いの妹様は堕天使かな?」
「……ああ、そうかも」
「いや、否定しろ!?」
「はは、ナイスツッコミ」
などと永遠に続く会話をしていると横槍が入った。
「君、生徒会長の妹さん?」
「あ、さっき挨拶してた…」
それは、校長先生よりイケメンの名前をまだ知らない男の子だった。
「そうです。えーっと」
「ああ、城元さん遅刻してて俺の名前知らないのか」
「そ、そうなんです」
「俺は東本だ、よろしく」
「あっはい」
「どうぞ、宜しくでーす西木と申しまーす」
そして、私と東本くんの会話にまたも横槍が鋭く入る。
「あ、よろしく。君達仲よさそうだね」
「俺と城元は幼馴染の腐れ縁なんで」
「腐りに腐りきってます、はい」
何故か私と都会っ子男子の会話を邪魔してくる西木。こいつとそういう関係と思われたら私に青春は訪れない。
「まあ、確かに俺の出来の悪い姉みたいな感じだな城元は。瑠奈は出来の良過ぎる姉ですけれどね」
「ああもう!!瑠奈姉と比べないでって」
「そ、そうなんだ。この香崎西条の生徒会長をしているし凄い人なんだよね、確か女子バスケ部のキャプテンをしてるって聞いた事あるけど」
「そうだっけ?確かに中学の時バスケ部だったけど……」
「お前、瑠奈のこと知らなさ過ぎじゃない?前、県大にも出たって言ってたぞ?」
「うっそ?逆に何故西木が知っている?」
何故私は瑠奈姉の事をこんなにも知らないんだ。あ、私が頼んだんだっけ?二年後そっち行くからそれまで都会に関する情報は私に与えるなって。
「あ、東本くんは生徒会に入るつもりなの?」
「え?……考えてはいるけど…今は何とも」
と、流石にこのまま夜までトークを弾ませる程の時間は無く、教室に着いた。
とはいえ、私と東本くんと西木は隣の席である為会話の方向性を変えて続けた。
「東本って頭いいんだよな?」
「自分で言うのはおかしいと思うけど」
「あ、因みに俺は推薦で来れたから中の中ぐらいね?」
「そうなんだ。城元さんは?」
「………え?」
「まあ、聞くな東本」
そうである。私は自分で言うのもおかしく思えない程のバカである!この学園に入れたのも、いわゆる運だ。ここの試験がマークシート方式を採用していた為、解答を全て埋める事が出来たのだ。ほとんど勘で。
「はーい、それでは教科書類、その他諸々を配布するので名前を書いてねー」
私のバカさが東本くんにバレて次に言葉が発せられそうになった時、川栄先生が何人かの生徒を連れて大きなダンボールを持ってきた。
私は、この教材が配られる時が結構好きだ。これから勉学していく内容が載っている教材を何も知らない状態で受け取るのだ。それも大量に。しかし、一年後にはこれを理解できるようになるのだ……多分。
それを考えると胸が膨らむと言うか何と言うか。
一通り、教材を受け取り自前のネームペンで名前を書き込んだ。
「よし!」
これで、この教材どもは私の知識の糧となった。
だけど、私がこの学園で得るものはこの物たちからだけではない。
「それでは、部活動の志願書も渡しておきますよ。明後日、提出して下さいねー」
そう、部活動である。何部に入るかも決まっている。
最初はマネージャーという立場も憧れたけど、私には合わないと感じたのでプレーヤーを選択した。姉と同じバスケ部で。