9
夏休みはとっくに終わり、現在はスポーツの秋。運動会が近づいてきました。
運動会といえば、ダンス、長縄、徒競走。全て私の苦手とするものだ。
「舞って悲しいほどにリズム感ないね」
ダンスで皆んなよりワンテンポずれて踊っていると由美にそう言われた。
「顔に縄の跡ついてるよ」
長縄の練習の際に上手く入れず顔に思いっきり縄が当たった後、雄大にそう言われた。
以前も言ったが私は誰しもが認める運動音痴だ。故に、今の時期は私にとっては地獄に感じる。
体育の授業が増えるし、昼休みまで運動会の練習をしなければならない。それでも私のクラスの子は勝つ気満々で、熱心に取り組んでいる。
私も真面目に取り組んではいるのだが、長縄を引っかからないで100回飛べなければ帰れない日もあるので嫌になってくる。(周りのプレッシャーがすごい)
特に嫌な競技は徒競走だ。練習はハードで、速く走れる様にする為かグラウンドを一周させられるのだ。たかが一周と思うかもしれない。しかし、一年生の体にはキツイのだ。それも人より体力のない私は、最後の方はもうフラフラだ。
「先輩、速く走るコツを教えてください」
現在私は、縦割り活動で給食を取りながら、羽山先輩に相談していた。私のクラスの子は皆んな速い子ばかりで、このままでは当日悪目立ちしそうだと思ったからだ。
羽山先輩は文武両道で、特に走るのが速かった。一番最初の縦割り活動でアンカーになったのもそれが原因である。
そこで私は先輩にコツを聞く事にした。
「コツと言われても……上手く説明出来ないわ」
そう先輩は言った。急に聞いたのだから説明出来なくても仕方ない。
私は「そうですか」と言いながら項垂れた。
そんな私の様子を見て先輩は可哀想に思ったのだろうか。
「練習見てあげようか? 」
そう言ってくれた。
その日の放課後、羽山先輩とグラウンドにいた。
「とりあえず走ってもらってもいい? 」
そう言われたので、私は少し走った。
「はぁはぁ……どうでした? 」
「まず背筋が悪い。脇も開いてるし、腕の振りも小さい。後、アゴが前に出てるし、胸が開いてない」
私、全然ダメじゃん。羽山先輩の酷評に落ち込んだ。
「まぁ、これから一緒に練習しましょう。そうしたら速く走れる様になるわ」
その言葉に私は驚いた。
「えっ、これからも付き合ってくれるんですか? 」
「私は初めからそのつもりだったけれど」
先輩はやっぱり優しかった。
それから先輩との特訓が始まった。
「脇開いてるよ!」
「ハイ!」
先輩の指導のおかげで少し速く走れる様になったと思う。でも、まだまだの様で厳しく注意される事が多かった。
その日もいつもの様に練習する為に、放課後グラウンドへ行くと既に先輩がいた。私は話しかけようとして止まった。先輩は誰かと話していたからだ。
誰だろうと、相手をよく見てみると副班長の船橋先輩だった。船橋先輩と話している羽山先輩は、幸せそうな顔で笑っていた。あんなに笑顔の先輩を見るのは初めてだった。前世でもよく、恋をしている女の子がああいう表情をしていた。
(先輩もしかして……)
そう考えていると、船橋先輩はどこかへ行った。その後、先輩は私に気づき、いつもと同じ様に練習を始めた。先輩の顔はいつもの真面目な表情に戻っていた。
先輩との練習のおかげで、体育で徒競走の練習をしてもビリにならない回数が増えてきた。
これで恥をかかずに済むと安心して、ルンルン気分で家への帰路を歩いていると、パシャリと写真を撮る音が聞こえた。何だと思い振り返ると、怪しげな人が走って行くのが見えた。
(私を撮ったの? ……まさかね)
少し不気味に思ったが、気にせず再び歩き出した。
「明日は運動会だね! 父さんお弁当がんばるから楽しみにしてて!」
お父さんは、そうニコニコしながら言った。
遂に明日、運動会が始まる。
舞に怪しい影がつきまとう中、運動会が始まります。