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遂にきました夏休み!
通知表の出来もまぁまぁで、後はこれから何をするか考えるだけだった。プールに行くのもいいし、夜更かししてホラー映画を観るのもいい。
由美は、家族で祖父母の家へ行くらしく、久しぶりに家族と居られると喜んでいた。
私の方は、最近お父さんの仕事が忙しくなってきたので遠出は無理そうだった。
お父さんが忙しいので家事の手伝いをしていたある日、夏祭りが近日中に行われることを知った。
由美と一緒に行こうと誘ってみたのだが、あいにくその日に祖父母の家へ行くようだった。
なら雄大と行こうと思い誘ったが、彼は既に男友達と約束をしているらしい。
最終手段で他の子を誘おうと思ったが、電話番号が分からなかった……
一人で行っても楽しくなさそうなので、夏祭りへ行くのは諦めた。しかしその前日、仕事がひと段落したお父さんが一緒に行こうと誘ってくれた。
「この夏休み、父さんのせいで遠出もさせられなかったから。舞が行きたかったらだけど」
私は「行きたい!」と言いながらお父さんに飛びついた。
お父さんに浴衣を着付けてもらって、私にしてはハイテンションで屋台を回っていると、羽山先輩を見つけた。
「羽山先輩!こんばんは!」
「あ、舞ちゃん。こんばんは」
先輩は少しニコリと笑ってくれた。そしてお父さんの方を見た。
「六年の羽山 棗といいます。舞ちゃんとは縦割り活動の班が一緒で、班長をしています。よろしくお願いします」
「こちらこそ。舞の父です。いつも娘がお世話になってます」
先輩は「いえ、私の方こそ舞ちゃんにはお世話になってます」と言うと、友達に呼ばれたようで、ぺこりと頭を下げて走って行った。
お父さんは「礼儀正しい先輩だね」と笑顔で言った。
その後、お父さんとたこ焼きを食べたり、射的をしたり(お父さんは凄く上手くて景品を二つ落とした)お面を買ってもらったり、綿菓子を買ってもらったりした。本当に楽しくて、時が経つのが早く感じた。
しばらくして疲れたので休憩していると、お父さんが「ちょっとトイレ行ってくるね」と言ってその場を離れた。
暇だなーと思いながら休憩室で座っていると、目の前に御神輿が通り過ぎた。御神輿を担いでいたのは全員女性だった。小さい男の子がそれに気づいて「なんで女の人しかいないのー? 」と聞いていた。親は「うーん、昔からそういう物だから」と言った。私はこの世界にも小さな差別はあるのだと思った。
御神輿が通り過ぎても、お父さんはまだ帰ってこなかった。暇なので、近くの屋台を見に行く事にする。
一番近い屋台は輪投げ屋だった。良い商品はないか見てみると、顔に傷のある鳥のマスコットキャラクター「頑張れ!トビタくん」のぬいぐるみがあった。私の一番好きなキャラクターである。
「おじさん、いくら? 」
「輪っか三つで五百円だよー」
私は持っているお金を全部見た。そしたら丁度五百円だった。おじさんにそれを渡して輪っかを貰う。
1回目、トビタくんの頭にかすって落ちた。
2回目、トビタくんの前にある景品をゲットした。
(私が欲しいのはコレじゃない‼︎)
間違って取った景品を握りしめて心中で叫ぶ。残りは後一回となってしまった。
(あ〜お父さんがいたらあんなの簡単に取っちゃうんだろうなー。本当にいつ帰ってくるんだろ)
そんな事を考えていると「何してんの水谷」と誰かが私に声をかけてきた。振り返るとそこにはアダムくんがいた。半袖シャツにスカートを履いていた。彼はスカートが好きならしく、ズボンを履いているところを見た事がない。
「トビタくんを取りたいんだけど、中々上手くいかなくて……」
私がそう言うと彼は
「じゃあ取ってやるよ」
と言い、輪っかを私の手から奪った。彼がそれを投げるとトビタくんはあっさり捕まった。
「あの、コレ取ってくれてありがとう」
「どういたしまして。俺もう帰らなきゃいけないから、じゃあな! 」
私がお礼を言うと彼は走っていった。
彼がいなくなった直ぐ後に、お父さんはトイレから帰ってきた。
「お父さん遅かったね、どうしたの? 」
「お腹こわしちゃって、屋台の食べ物が悪かったのかな? 舞は大丈夫? 」
私は首を縦に振った。
「そっか。舞は昔から胃が強かったもんね」
お父さんは嬉しそうに言った。
暗くなってきたので私達は帰ることにした。私の右手はお父さんと手を繋ぎ、左手はトビタくんを持っていた。
「それどうしたの? 」
「お父さんがいない時に輪投げで取った」
アダムくんに取ってもらった事は秘密にした。
お読み頂きありがとうございました。
アダムくんはメインヒーローになるかもしれません。