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学校に慣れ始めた頃、先生がある事を告げた。
「みんな、そろそろ学校に慣れ始めたと思う。しかし、まだ分からないことも沢山あるだろう。そこでみんなに縦割り活動をしてもらう事にした。縦割り活動とは一年生から六年生がランダムに一クラス分の班になって、週に一度給食を共に食べたり、掃除をしたり、昼休みに遊んだりする事だ。年上のお兄さんお姉さんを見て、色々な事を学んで欲しい」
私達の学校には縦割り活動というものがあるのだとこの時初めて知った。
私はくじの結果、六班になった。
「由美は何班だった?」
「アタシは五班。舞は?」
六班だと告げると由美は「惜しいっ!」と言った。
「僕も六班だったよ」
横からにゅっと雄大が入ってきた。
「え〜!それじゃあアタシだけ仲間外れ⁈」
「まぁ、週一だけだし」
「たまに他の班と合同で遊んだりもするそうだよ」
嘆く由美に、私と雄大は交互に慰めた。
遂に縦割り活動の日になった。
私達、六班は六年一組で活動をする事になっていた。
班長は六年生の女子で、羽山 棗先輩といった。厳しそうな人だった。
副班長は同じく六年生の男子で、船橋 隼人先輩といった。こっちは逆に優しそうで、羽山先輩のブリザードが吹きそうな自己紹介の後、場を和ませようとしたのかふざけて皆んなを笑わせた。
給食を食べる席はあらかじめ先生が決めたようで、私の席は窓側から三列目の一番前の席だった。隣は、羽山先輩だった。
『はじめまして、六班の班長になった羽山 棗です。班長になったからには、場の秩序を乱す者は低学年だろうと容赦はしませんのでよろしくお願いします』
先程の彼女の自己紹介を思い出した。何故私はこの席になったのだろうか?雄大と同じ班になったので、運は良い方だと思ったのだけれど。
他の席の子たちは、隣の席の人と楽しそうに会話をしている。当然、私達の間には会話が無い。
(何か話さなきゃ、話題話題…)
考えた末に取り敢えず挨拶をする事にした。
「あっ、あの一年の水谷 舞っていいます。よろしくお願いします」
「…こちらこそ」
会話は終了した。それからはもう何も思いつかなくて、黙々と給食を食べ続けた。
給食を食べたら次は掃除の時間だ。
私は、箒をする事になった。ゴミを箒で集めていると、同じ一年生の男子が遊びはじめた。とても嫌な予感がするので止めようとしたのだが
「何をしているの?」
遅かった。教室ではブリザードが吹いていた。
「私、言ったわよね。容赦しないって。あなた達はその雑巾で何をしていたの?」
この空気ではキャッチボールをしていたとは言えない。
しかし、羽山先輩は許さなかった。
「ねえ、聞いているでしょ。答えなさい」
「きゃっ、キャッチボールをしてました。」
可哀想に、声が震えて裏返っている。それ程までに彼女の威圧は凄まじかった。
彼女の矛先は周りにも向いた。
「私が言うまで何故誰も止めなかったの?特に上級生」
ジロリと見られた近くにいた上級生は、震え上がった。
「も、もういいじゃん。君達、今度からは真面目に掃除してね」
ここでやっと副班長の船橋先輩が助け舟を出してくれた。それを聞いたキャッチボールの男子達は半泣きで首を縦に振った。
やっと縦割り活動最後の昼休みになった。しかし、ここで難問が訪れた。
三班から六班でリレーをする事になったのだ。
私は前世でも今世でも運動神経が悪い。当然足も遅いのだ。
憂鬱な気分でいると、いつのまにか隣には雄大がいて「ドンマイ」と言われた。
運動場に着くともう五班がいて、由美もいた。私達を見つけると彼女は大きく手を振ってきた。
リレーが始まった。唯一の救いは、学年ごとに走るという事だ。第一走者は五年生、第二走者は二年生と。
私の番はまだなので走っている人を観察していると、女子の方が早かった。
何故だろうと考えて、下半身が前世と違うからだと理解した。そして、それなら私も男子には勝てるかもしれないと、少し自信がついた。
私の番になった。現在六班は一位である。
バトンを受け取って走る。こんなに差が開いてるのだ。負ける訳がない。
私の前を一人が走っていった。あれ?と思っていたらどんどん皆んな走っていく。男子にも抜かされ、ビリになった。
(ア〜‼︎私のバカ‼︎幼稚園の頃も男子に抜かされてだじゃんか‼︎)
自信が付いたとか言っていたさっきの自分を殴りたい気分になりながら、がむしゃらに走る。
私のせいでビリになったら羽山先輩になんて言われるか、考えるだけでも恐ろしい。
がむしゃらに走っていると、一人抜かす事に成功した。この調子でどんどんいくぞ!と気合を入れた瞬間、靴の紐が切れた。
足が痛い。ピリピリとした痛みから血が出ていると思う。
皆んな次の子にバトンを渡してしまった。このままだと私の班だけ一周遅れてしまう。
せっかく皆んなが頑張って一位にしたのに私のせいでダメにしてしまった。申し訳なさすぎて目に涙が溜まる。
私は痛む足に鞭打って、ゴールまで走る。取り敢えず諦める事だけはしたくなかった。
何とか一周遅らせず、(でも差が激しくなってしまった)バトンを渡す事が出来た。
私は端に寄る前にうずくまってしまった。ここにいたら、邪魔になるので退くべきなのに足が痛すぎて力が出ない。
目の前に羽山先輩が現れた。きっと怒られるのだろう、そう思っていたら体が宙に浮いた。おんぶされたのだ。
「私はこの子を保健室へ運ぶので、皆んなは気にせず続けて」
そう羽山先輩は言った。
保健室で治療を受けて、痛みも引き落ち着いたところで、先輩に謝る事にした。
「羽山先輩、すいません」
「何が?」
先輩は不思議そうな顔をした。
「私のせいでビリになってしまったし、ここまで運ばせてしまいました」
私がそう言うと、羽山先輩は言った。
「人には向き不向きがあるから仕方ないわよ。それに怪我をした子を助けるのは班長として当然の事だわ」
私は呆然としてしまった。
六班はあの後巻き返したようで、一位にはなれなかったものの、二位になったようだった。
私達が保健室を出ると、もう昼休みは終わってしまい、アンカーだった羽山先輩は結局走る事は出来なかった。 (代わりに船橋先輩が走った)
一年一組に戻ると、由美と雄大に心配された。私はそれに「大丈夫」と答えながら、頭の中は羽山先輩の事でいっぱいだった。
(羽山先輩は、真面目なだけで本当は優しい人なんだな)
今度の縦割り活動の時はもっと関わろうと心に決めた。
お読み頂きありがとうございました。
怖いけど実は優しい先輩というのを書きたかったのですが、どうでしょうか?
感想を頂けると嬉しいです。