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「何、ポケ〜としてるの! アダムくんが引っ越すのショックなのは分かるけど…」
今は昼休み。私は机で放心していた。
「実はな、母親が家に訪ねて来たんだ」
アダムくんはそう言った。
「今まで俺の存在を知らなかったんだって。つい最近、父さんからその事を聞いたらしい。抱きしめられたんだけど、何故か拒否反応が出なかったんだ。本能的に母親だって分かったのかもしれない。…それで、母さんが一緒にブラジルへ行こうって誘って来たんだ」
アダムくんは一気にまくし立てた。
そんな事を思い出していると、昼休みは終わった。次の時間は、卒業式の練習だ。
「皆んなー! 廊下に並べー! 」
坂部先生はそう叫んだ。皆んなぞろぞろと教室を出て行く。中には「だり〜」と言っている男子もいた。
「水谷 舞! 」
「はい」
私は呼ばれたので立った。今は表彰状を貰う練習をしている。
校長先生は優しい笑顔で表彰状を渡すふりをしてくれた。私も受け取るふりをする。そして、お辞儀をすると横に移動し、みんなの方を向いた。これから将来の夢を告げるのだ。
「私は将来、この世界について調べる研究家になりたいです」
私は、前世の記憶を持ったままこの世界に転生して、沢山の事に動揺した。これからも前世とは違う価値観に悩まされるかもしれない。しかし、その違いを楽しもうと今では思っている。私はこの世界が好きだ。もっともっと色々なことが知りたい。それで私は研究家になる事にしたのだ。勉強とか凄く大変だと思う。でも、頑張りたい。
「私は将来、美容師になって沢山の人の髪を
綺麗にしたいです」
由美はそう言った。美容師になる夢は変わっていなかったようだ。由美ならきっとなれる。
「僕は将来、美容師になりたいです。そして
一流になって自分の店を持ちます」
なんと、雄大も将来の夢は美容師だと言った。雄大ならきっとなれる。そして、由美と結婚して二人で店を経営できるといいね。
その後も、皆んな色々な将来の夢を語った。
白田さんは、デザイナー。光くんは、映画監督。そしてアダムくんは
「俺は、カウンセラーになりたいです。苦しんでいる人を支えられるようになりたい」
そう言った。アダムくんは、とても辛い思いをした。だからだろうか? 人の痛みが分かる人だ。彼ならきっとなれる。素晴らしいカウンセラーに。
美山の番になった。彼女は将来の夢をこう語った。
「私は、母親になりたいです。夫と子供を愛するお母さんになりたいです」
真面目な顔で、そう言った。美山は変わった。ヘラヘラとしなくなった。
三山ならなれる。きっと。
卒業式の練習をそれからも毎日して、遂に本番まで3日を切った。
卒業式には、おじいちゃんも来るらしい。おばあちゃんも認めてくれたようだ。おばあちゃんは仕事で来れないようだが。
私は、卒業式の前に重大なイベントがある。アダムくんの誕生日だ。それは明日にある。買った時計を渡す時に、何を言おうか? それを私だと思ってね。とか? なんか恥ずかしいな。
私は悶々と考えながら寝た。
次の日、熱が出た。知恵熱だろうか?
「今日は学校休んで、ゆっくりしようね」
お父さんにそう言われてしまった。これではもう学校に行けない。
私は、渋々この日は学校を休み、一日中ベッドで丸くなっていた。
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