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三山視点です。

 

 あたし、父親がレイプされてできた子なんだ。


 あ、いきなりディープな事言ってゴメンね〜でも嘘じゃないから。親父がそう言ってたし。

 それ知ったの確か小四だったな〜 親父、泣きながらあたしを殴るんだって。すんごい痛かったよ。なんせ学生時代は運動部に入ってたもんだから、体格もしっかりとしてるし。

 そんな強そうな人がどうしたらレイプされるか気になるでしょ〜 どうやら薬飲まされて、体の自由が効かなくなったところを食べられちゃったんだって。親父プライドが高い人だから、襲われたなんて誰にも言えなかったんだって。だから妊娠の事に気づくのも遅れて、気付いた時にはもう下ろせない時期になってたんだって。



 親父、小さい頃は優しかったんだよ。殴ったり蹴ったりなんて絶対しなかった。親族にはあたしは望んで産んだ子なんだと親父が言ったらしいから、彼等から酷い事をされたりはしなかった。

 親父は確かに優しかった。私に笑いかけてくれていた。でも、いつも何か違和感を感じてたんだ。



 違和感はあたしが大きくなるにつれて酷くなっていった。親父は笑いかけてくれるんだけど、目は笑ってないんだ。あの目は凄く暗くて濁っていた。

 あの目が恐怖からなっているのだと知ったのは、それからしばらく後になってからだった。

 あたしなんでか忘れたけど、ある時親父の手を握ろうとしたんだよ。そしたら「触るな! 」って振り払われたんだ。そんな事今まで無かったからびっくりしちゃって…でもその時の親父の顔に違和感が全く無かったんだ。私を見つめる目はいつもと一緒だったのに。



 あたしは親父に愛されて無かったんだ。そう気づいたらもう悲しくて悲しくて、どうにかなりそうだった。

 あ、まだこの頃は普通だよ。あたしがおかしくなるのはもう少し後に起こる事件がきっかけ。

 話を戻すけど、愛されて無いと気づいたあたしが取った行動は「親父を襲った女なら絶対しない事をする」だった。例えば、小さい子には優しくするとか、親父が仕事で忙しい時は家事を全部やるとか。親父を襲った女だ。性格がねじ曲がってるに決まってると思ったし、絶対そんな善良な事しないと思ったんだ。そうやってしているうちにその女とあたしは全く違うって分かってもらえるんじゃないかって思ったんだ。



 でも無駄な努力だった。いつもの様に良い子をしてると「もうやめてくれ」って親父が顔を覆いながら言ったんだ。


「何で顔だけじゃなく性格まで似てくるんだ…」


 あたしはその女とそっくりなんだって。その女もオヤジの前では性格の良い女を演じてたそうだ。

 あたしはバカだったんだよ。本性さらけ出してる悪人なんているわけなかったんだ。本物の悪人は善人の皮を被ってるんだ。

 あたしは本物の善人にはなれなかった。よく腹の中で悪態ついてたし、自分の部屋でストレスを発散してた。親父はあたしが善人のフリをしてるのをとっくに見破ってたんだよ。



 それからはもう良い子をしなくなった。普通にありのままの自分で過ごした。こっちの方が疲れないし、楽だった。親父のあの恐怖の浮かんだ目は治らなかったけど、泣いたり蹴ったりはしなくなった。親父は時々リミッターの限界が来ると、暴れるんだ。で、落ち着くと、泣きながらあたしを抱きしめて「ごめん、ごめん」と連呼する。それが無くなったは言い過ぎた。少なくなったんだよ。





 そうやって落ち着いて生活してるうちに、親父の目が好きになった。親父があの目を向けるのはあたしにだけだ。他の人に対してはどうなのか観察したけど、誰にもしてなかった。親父の目はあたしの姿をとらえると次第に暗くなっていく。

 あたしは親父の特別なのだと思ったんだ。親は子供を特別に愛するものでしょ。だから愛されていなくても、特別なのは同じだからあたしたちは親子の関係が固く結ばれているんだと思えたんだよ。 よく分からない? 別に理解しなくても良いよ。あたしもあんたに理解されたいと思ってないし。




 五年生の途中から、親父はベランダに立つようになったんだ。親父と住んでたアパートのベランダ、柵が錆びついてて今にも壊れそうだったんだよ。だから親父は、あたしには絶対もたれてはいけないって言ったんだ。でもその頃の親父はよく柵にもたれていた。きっとあの頃にはもう死にたかったんだろうね。



 親父は死んだよ。あたしの誕生日の大晦日に。


 あたし、大晦日に産まれたんだよ。縁起がいいでしょ〜

 親父はあたしを愛してなくても、誕生日とか特別な日はちゃんと祝ってくれた。良い人でしょ。だから精神的に疲れちゃったんだろうな。

 親父の最期の言葉は「醤油買ってきて」だった。あたしは何も疑わずに買いに行ったよ。だって親父本当にいつも通りだったから。

 帰ってきたら、親父いないの。ベランダの窓が開きっぱなしで寒かった。ベランダにいるのかと思って見てみたんだ。


 そしたら、柵が無かったんだよ。



 あたしはへたり込んだよ。下を見る勇気なんて出なかった。でも見なくても分かるよ。悲鳴やらなんやらで騒がしかったから。

 テーブルに手紙が置かれてたんだ。多分遺書だと思う。多分っていうのは私が読まずに隠したから。これが見つからなかったから警察は事故だと判断したんだ。洗濯物を取り込もうとして誤って落ちてしまったと。

 遺書を隠したのは、あたしが望んで産んだ子じゃないって書かれてると思ったから。そんな事誰にも知られたくなかったんだ。あたしは結局自分可愛さで行動する最低なやつなんだよ。



 棺桶に入れられた親父の目は当たり前だけど閉じられていた。その時感じたのは、もうあの目で見てもらえない悲しみだった。あの目で見てくれるのは親父だけだった。他の人はみんな普通の目で、あたしのことをなんとも思っていなかった。あたしを「特別」に思ってくれる人が居なくなってしまったのが悲しかった。悲しくて悲しくて仕方がなかった。


 あたしを「特別」に思ってくれる人が欲しい。




 あたしは狂った。人を傷つけるのが楽しくなった。傷つけられた人の見せる目が、親父の目に少し似てるんだ。それを見るのがたまらなく嬉しかった。

 いまの両親、親父の姉夫婦は何度もあたしを叱ってきた。あの人たちはいい人だよ。あたしが問題を起こしても、捨てないでいてくれる。でも、お父さんの遺書を読んだらどうなるだろう。最悪殺されるかも(笑)

 田中に初めて会った時、驚いたよ。親父と同じ目をしてたから。親父と違うのは、あたしだけじゃなく他の女子にも同じ目を向けるとこだな。そこに私は激しく怒りを覚えた。その目は私にだけ向けられるべきものなのにと。だから何度も嫌がらせをした。最初の頃はいい反応だった。恐怖の浮かんだ目をしていた。でもだんだんと無くなっていった。寂しかった。こんな事なら、もっと虐めれば良かった。あんたじゃ立ち直らせれないぐらいに。そんで弱み握って、あたしから離れられないように……まいちゃんそんな顔しないで〜可愛いお顔が台無しよ!それにもうそんなことするつもり無いし。昨日の事で坂部に目つけられただろうしね。

 ドレス切り裂いてるの見られてたの知ってたよ。でも藤井止めてこなかったからほっといた。バレるのは別にどうでも良かった。ただ切り裂きたかっただけだから。最期の足掻きだったんだけど、ダメだった。田中完全に立ち直っちゃったわ。多分もうスカート履けるよ彼。



 長々と話しちゃってごめんね〜もう帰っていいよー! じゃーねー!

お読み頂きありがとうございました。


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