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「うちらは何もしてませんよ! 」

「そうですよ! 」

「証拠はあるんですか⁉︎ 」

 三山の取り巻き達は、ギャーギャーと騒ぎ始めた。そんな中、三山だけは何も言わない。

「お前達が服を切り刻んでいる所を見たやつがいるんだ」

 坂部先生は怒りを抑えながらそう言った。

「ウソッ! ちゃんと誰もいないか確認したのに! 」

「バカッ! 」

 取り巻きの一人が口を滑らした。やはり彼らが犯人だったのか。

「……そいつは学校に忘れ物をしたらしく、放課後取りに来たらしい。その時にドレスを切り刻んでいるお前達を見たそうだ」

「ッ! 誰ですか⁈ それ! 」

 もうとっくに犯人だとバレているのに、まだ悪あがきをするようだ。クラスの誰もが彼らに呆れていると「…はい、私です」と控えめな声が聞こえた。



「……私、犯人が分かっていたのに、勇気が出なくて、朝は言えませんでした。でも、やっぱり良くないと思って……」

 小さな声で途切れ途切れにそう言ったのは、藤井さんだった。彼女は大人しくて、クラスであまり目立たない。そんな彼女にしてみれば、犯人を見た事を皆んなに言って目立つのは相当苦しい事だろう。ましてやその犯人が上手だったら、逆に自分が犯人にされるかもしれないのだ。…その心配は杞憂に終わったのだが。

 三山の取り巻き達は苦虫を噛み潰したような顔をしている中、三山は無表情でやはり何も言わない。

「先生! うちは三山にやれって言われたからやりました! 」

 取り巻きの一人、所沢がそう言った。

「わたしも、三山に命令されたのでやりました! 」

「わ、私も! 三山に逆らったら怖い目にあうと思ったんです! 」

 他の二人もそれに便乗して来た。どうやら責任を全て三山になすり付けようと考えたようだ。脆い友情だ。

「三山、お前はどうなんだ? 」

 坂部先生は何も言わない彼女にそう聞いた。すると彼女は清々しい笑顔でこう言った。


「田中くんが悲しんだり恥ずかしがったりするのを想像しながらドレスを切り刻むのは凄く楽しかったです」


 最初、彼女が何を言ったか良く分からなかった。聞いた先生も唖然としている。彼も言い訳をするか、素直に謝るかのどちらかだろうと考えていたのだろう。まさか開き直るとは思わなかった。

「田中くん、普通にドレス着ちゃうんですもん。もっと露出を多くしてあげたら悲しんだり恥ずかしがったりしてくれると思ったんです」

 三山はにっこりとして、そう言い切った。





 次の日、三山は学校を休んでいた。

 あの後、先生は三山達を職員室に連れて行った。アダムくんは呆然としていた。やはり、三山は狂っていた。人を傷つける事を平気で言うおかしい奴だった。

 私はそんな事を思い出していたら、アダムくんが話しかけて来た。

「水谷、俺は三山さんを傷つけるような事をしたか? 」

 どうしてそんな事を聞くのだろうか?

「アダムくんは何も悪くないよ。あいつがおかしいだけだって」

 私がそう言うと、彼は言った。

「でも、三山が俺を見る時、いつも悲しそうなんだ」

 そうだろうか? ニヤニヤ笑っているイメージしかない。




「水谷さん、これ三山さんに届けてもらえない? 」

 放課後、帰る支度をしているとクラスの女子にそう言われた。

「え、何で? 」

「お願い! 三山さんと家近いの私だけだったから頼まれたんだけど、今日ピアノのレッスンがあって寄り道してる暇ないんだ! 他の子にも頼んだんだけど……昨日のこともあって皆んな断られた」

 そうか。確かにあんな狂ってる奴と関わりたいと思ってる子はいないだろう。仕方がない。

「良いよ。私が行く」

「本当⁈ ありがとう! 」

 彼女は私にプリントやら何やらを渡すと「じゃあね!」と言って走り去っていった。そして気づいた。

「三山の家ってどこ? 」




 いろんな子に聞いて周り、やっと美山の住むマンションにたどり着いた。確か五階に住んでいると聞いたので、三山という文字を探す。

「あ、あった」

 私はインターホンを鳴らした。しばらくするとガチャリという鍵を開ける音がして、中から顔色の悪い三山が出てきた。目は虚ろでだるそうだ。仮病じゃなかったのか。

「……プリントとか持ってきた」

「あっそ。ありがと…」

 三山はプリントを受け取ろうと身を乗り出した瞬間ふらついて倒れ込んだ。相当体調が悪いようだ。

「まいちゃん、手を貸してくれんかね」

「…チッ」

 私は不本意ながら、三山の家に上がった。



 三山の部屋まで肩を貸してやった。

「いや〜助かったよ。ありがとう〜」

 彼女はいつものようにヘラヘラと笑った。

「じゃあ、私帰るから」

「待って」

 三山の声が真面目になったので、私は足を止めた。

「今家にだーれもいなくてさー、寂しいんだよー。もう少し一緒にいて〜」

「は?嫌だし」

「は?バラすよ」

 私は三山に脅され、帰ることができなくなった。




 しばらく二人とも黙っていたが、沈黙を破ったのは三山だった。

「昨日、親と一緒に田中の家に行って謝ってきたんだ」

 そうだったのか。三山の両親は常識のある人で良かった。

「その時の田中、あたしの事全然怖がらなかったんだよね。むしろ哀れんでた。前までは少なからず恐怖が目に浮かんでたのに」

 アダムくんはだんだんトラウマを克服してるのだ。お前の嫌がらせなんかに屈するほど彼は柔ではない。

「お祭りでの彼を見た時は、また戻ると思ったんだけどなー」

「あんた見てたの? 」

「うん!バッチリ! 女の人に触られてパニックになってたよね〜」

 あの顔すごく良かった〜と言った三山の顔を怒りで殴りそうになった。

「病人の顔を殴ろうとするなんてサイテー」

「うるさい」

 もう嫌だ。早く帰りたい。

「私も昔は普通だったんだよ」

 また三山の声が真面目になった。

「でも、あの日からおかしくなった」


 三山は語りだした。

お読み頂きありがとうございました。

次は三山視点です。

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