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アダムくん視点です。

 俺は母親を知らない。名前はアダムだし、肌の色を見れば純粋な日本人では無いと分かる。

 父は優しいが、女遊びの激しい人だった。俺はそれでもそんな父が好きだった。



 俺は足が綺麗だと、父や祖父母によく言われた。スカートがよく似合うとも。だからそれを履き続けた。ズボンは嫌いでは無かったがタンスの中を締めるのはスカートばかりだった。よくみんなから「アダムがズボン履いたところ見たことねー」と言われていた。



 父があの人と付き合い出したのは、一年生の時の学芸会が終わった頃だった。最初は、優しそうで良い人だと思っていた。でもその認識はある時覆された。

 その時父は買い物に行っていて、俺はあの人と二人きりになった。リビングのテーブルであの人の隣に座って、確か宿題をしていた気がする。

 最初はあの人の手が偶然足に当たったのだと思った。でもその手は全く離れず、その内それが滑るように動き出した。そこで撫でられていると気づいた。大人の女の人に足を撫でられたことなんて一度も無かった。気持ち悪いというより意味が分からなくて不安だった。

「足、綺麗ね」

 そう言われて嬉しく無かったのは初めてだった。



 それから何となく家に帰るのが嫌になった。何故ならあの人は毎日家に来るようになったからだ。父はあの人の事が好きなようで、とても幸せそうだった。きっと結婚も考えているのだろう。そんな父にあの人にされたことなんて言えなかった。

 雪がよく積もっていた日だった。その日も家に居たくなくて、ぶらぶらと歩いていた。そして気づいたら公園の中にいて、水谷達に誘われてかまくらを作った。

 かまくらを作った後、西島と城島が雪だるまを作ると言って離れていき、水谷と二人きりになった。水谷は面白いやつだ。カエルと言われて嬉しそうにしたり、あまり人気の無い微妙と言われているマスコットを好んでいる。誕生日がクリスマスらしくて誕生日会に呼ばれたが、その日はきっとあの人と父と三人で過ごさなければいけないだろうから断った。



 それは急に言われた。俺の知らないうちに父とあの人は籍を入れていて、俺の名字は田中になった事。そしてあの人の住む隣町へ明日引っ越すと。それはクリスマスだった。

 クリスマス、引っ越す日に水谷に会った。水谷への誕生日プレゼントとして買っておいたトビタくんを渡すためだ。水谷は本当に喜んでくれた。その時、何故引っ越す事を言えなかったのか今でも分からない。




 引っ越してからはあの人、あの女と嫌でも一緒に過ごさなければいけなくなった。

 あの女は、父がいる時は何もしてこない。しかし、父が会社に行っている間など二人きりの時に手を出してきた。

 足を触られている時はまだ良かった。しかし、尻を触られた時は我慢できなくて、初めて抗った。それ以上やったら容赦しないと。

 しかし、あの女は何も考えていなかった訳じゃ無かった。

「私を本当に傷つけられるの? きっとお父さんは貴方を責めると思うわ。何故ならあの人は貴方を愛していないもの」

 頭に血が上って、あの女を初めて殴った。しかし、その後絶望した。何故ならその後、父に殴られたからだ。手加減はしていたと思う。けれど、それから三日は腫れが引かなくてマスクをしなければいけなかった。父にあの女にされた事を言った。けれど「この人がそんな事をする訳ないだろう‼︎ 女性を殴るなんて最低のする事だ‼︎ 」と言われた。子供を殴るのも最低のする事じゃないかと思ったが、言わなかった。もう父に期待をする事はやめた。



 あの女の行動は俺の成長と共にエスカレートしていった。何度も裸を見られた。何度も色々な所を触られた。気持ち悪くて仕方なくて、これ以上受け止めきれないと思った時、現実逃避をするようになった。これは普通の事なのだと。そうする事で精神を安定させていた。

 何故こんな事になったのか、そもそもこの足を触られたのが始まりだったと思い出した。自分の足が嫌いになった。見ていたくなくなった。とても醜いものの様に感じた。


 俺はスカートを全て捨てた。



 小五の頃には、未成年が外出できるギリギリまで外にいる様になった。あの女は父に何と言ったのか知らないが、父は俺が非行に走ってると思った様で何度も怒られ、罵られた。

 俺は成長が早い方だと思う。背もクラスで一番高かった。だから、大人になるのも早かった。



 何となく腹が痛くて、悪い物でも食べたのかと思った。それで、トイレに入った時に気づいた。これが保険で習った生理なのだと。誰にもバレたくなかった。特にあの女には。

 もしバレたら今よりひどい事をされるかもしれない。そう思ったから俺は自分で生理用品を買って、タンスの奥にそれを隠した。そして使用済みの物は、少し遠くにあるゴミ捨て場に捨てた。持ち歩く事は凄く恥ずかしかったが、とにかくバレたくなかった。



 けれど、バレてしまった。学校から帰ってきた俺を待っていたのは、隠していた生理用品を持ったあの女だった。

「もう大人になっていたのね。アダム」

 目の前が真っ暗になった。終わった。もうダメだと思った。

 それから体を弄られているうちに、だんだんと何もかもが耐えられなくなっていった。今まで不安定ながらも保っていた精神が崩れだした。あの女の指が俺が一番触れて欲しくなかった所に入った時、精神が崩壊した。




 気づいた時には、病院にいた。俺はあの後、あの女をぶん殴って、家中の物を壊して叫びまくって気絶したらしい。

 近隣住民が警察を呼んだ様で、彼らが家に入ってきた時には気絶した下半身裸の俺と、顔を殴られて気絶しているあの女がいたらしい。

 俺は病院に運ばれ、外傷は無かったが発見された時の姿から察しられた様だった。目覚めてもすぐには家に帰してはもらえず、警察の人に色々と聞かれた。




 それから裁判などをして、(俺は被害者であの女は被告人だった)あの女は執行猶予を言い渡された。父は最後まであの女の味方だった。

 俺は、祖父母の家で暮らす事になった。祖父母は父とあの女の結婚に反対していたらしい。その為、父は祖父母の家に近かった昔の家から引っ越したのだ。

 俺は、女性全般が怖くなっていた。だから祖母も怖かった。それでも祖母はそんな俺を受け入れてくれた。一見捻くれている様に見えるが、祖母は優しい人だった。



 祖父母の家で飼っている犬のポチも、可愛らしく、壊れてしまった心を癒してくれた。そうして数ヶ月経った時、何とか女性と喋れるくらいには回復した。しかし、触られる事はまだダメだ。けれど、そろそろ学校に通わなければならない。



 校門の前に佇んで俺は思った。一年の頃の友人はどうなっているのだろうかと。何も言わずに引っ越した事を怒っているかもしれない。急な事だったとはいえ、水谷には言えたはずだ。本当に何故言わなかったんだろう。出来ればまた仲良くなりたい。触れることも喋ることも上手く出来なくなってしまったが、それでも受け入れてもらえるだろうか?色々な不安を胸に、校門をくぐった。

お読み頂きありがとうございました。

次は本編です。

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