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私は大人になった日から、アダムくんに対する罪悪感と心臓が破裂しそうなのが合わさって、少し挙動不審な姿を彼の前で見せてしまうようになった。
雄大はそんな私の行動から色々察してくれたようだが、由美は本気で私の頭がおかしくなったのではないかと心配して来た。
アダムくんは、そんな私の姿を見て笑っていた。彼は最近よく笑う様になった。本当に良かったのだが彼の笑顔を見ると私は、変になってしまうのだ。邪な私が「アダムくん、めっちゃエロい」と囁いてくる。そいつを殺すために机に頭を何回も本気でぶつけて、それを見た周りはドン引きするというのが最近の日課だ。
そんな日々を送っていると、夏休みがやってきた。夏休みといえば、プール、キャンプ、ホラー映画鑑賞だ。あ、あと夏祭り。去年は由美と雄大と一緒に行った。皆んなで、綿菓子、りんご飴、たこ焼き、ベビーカステラなどを食べまくった。屋台の料理は美味しい。
今年は彼らとアダムくんとで行こうと思っていたら、当日、由美は夏風邪をひき、雄大は百歳のひいおじいさんの御葬式に行かなければならなくなった。結果、アダムくんと二人で夏祭りを回ることになる。
やばい、心臓がやばい。これはデートという物ではないか? アダムくんは、どう思っているのだろう? 彼はいつも通りで特に何も意識していない様に見える。少しへこんだ。
「水谷、射的やろう」
アダムくんがそう言うのでやる事にした。こういうゲームは当たりはするものの、景品が落ちないのだ。だから少し苦手なのだが、アダムくんが楽しんでくれるなら、私もやろうと思った。
「私、射的で何か落とせたの初めて! コツを教えてくれてありがとう! 」
私は興奮しながらアダムくんに言った。彼は私に口で色々と教えてくれたのだ。お陰で私は「頑張れ! トビタくん〜元祖〜」を手に入れられた。
「役に立てて良かったよ。水谷、相変わらずそれ好きなんだな」
アダムくんは、私の手の中のトビタくんを見てそう言った。当たり前だ、トビタくんは目の中に入れても痛くないぐらい可愛いのだから。この元祖のトビタくんは今のより厳つく、目が鋭くて、やの付く自営業の方の様でこれもまた可愛い。私がトビタくんにメロメロになっていると、アダムくんが言った。
「昔ここで偶然会って、その時も水谷はトビタくん取ろうとしてたよな。あの時の水谷の浴衣姿、可愛かったな〜」
え、と驚いてしまった。アダムくんは今なんて言ったのだ? 私を可愛いと言ったのか? 心臓がバクバクと言い始めた。何故、今日の私は半袖でシャツにスカートという普段着で来てしまったのだろうか? こんな事なら浴衣を着てこればよかった! 私が百面相しながら悔しがっていると、たこ焼き屋の前まで来ていた。私はたこ焼きが大好きだ。
「わー! たこ焼きだー! 一つください! 」
「あいよ〜」
たこ焼き屋のおじさんは気の抜けた返事をしながら八個入りのたこ焼きを作ってくれた。
私はお金を払い、アダムくんの元へ戻る。
「ごめんね、急に離れて」
「いいよ、そんなの。水谷がなんか食べるなら俺も食べようかな」
そう言って、今度はアダムくんが離れていった。たこ焼き屋の向かいにあるイカ焼き屋に彼は言った。確かにイカ焼きも美味しいよね。
「よし、食べれる場所探すか」
戻ってきたアダムくんはそう言った。
私達は、お祭りの休憩所でたこ焼きとイカ焼きを食べる事にした。たこ焼きは、外はカリッと中はとろーりとしていて、べったりとついたソースと鰹節とマヨネーズがいい仕事をしている。しばらくたこ焼きに酔いしれていると、「アチっ」という声がしたので上を向いた。舌を火傷したアダムくんがいた。冷やすためか少し出している舌がエロ…ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン‼︎
「おい、水谷、大丈夫か? 」
急にテーブルに頭をぶつけ出した私に、アダムくんは心配そうに聞いてきた。
「大丈夫、ちょっと煩悩を消去していただけ。アダムくんって猫舌? 」
私は、努めて冷静にそう聞いた。心の中では消しきれなかった煩悩が「猫舌可愛い」と言っているが聞こえない聞こえない。
「そうなんだよ。熱いもの好きなんだけど、この体質のせいで食べにくいんだ」
そうか、そうなのか。きっとたこ焼きなんて食べちゃったら口の中が大変なことにになってハフハフとかしちゃうんだろうな。ふんっ
バシリ‼︎
「どうしたんだ⁈自分の顔を殴って⁈ 」
「いや、顔に蚊が止まってて……」
私は苦しい言い訳をした。
私達は食べ終わった後、いろんな屋台を見て回った。アダムくんは器用で、輪投げは百発百中、ヨーヨー釣りやボールすくいでは大量に収穫していた。
「アダムくん、凄かったねー! 見物客が出来る程取ってたじゃん」
「いや、今日はヨーヨー三十個しか釣れなかったし、前は五十個ぐらい行けたんだけど……」
いやいや、二桁も取れるところから凄いから。流石にそんなに持って帰る事は出来ないので、アダムくんは五個だけもらって他は返していた。
「結構遊んだから、お金も無くなってるよなー。残金幾らだろう」
アダムくんはポケットから財布を出した。その時、彼の家の鍵も落ちた事に私達は気づかなかった。
「五百円……微妙だな」
「あ!でも入り口の辺にあったかき氷は確か五百円だった気がする」
私はそう言った。遠くで「落としましたよー! 」という声が聞こえたような気がした。
「今、なんか……」
「かき氷か〜!俺はブルーハワイが好きだな!水谷は何が好き? 」
気のせいだったかもしれない。私は気にしない事にした。
「私はメロンかなー」
「あ!それもいいよな〜! 色も綺麗だし、味も……」
「待って! 」
後ろから女の人の声がした。彼女は高校生ぐらいだろうか? 白い生地に金魚が描かれている浴衣を着ていた。
「鍵落としてたよ。はい」
彼女の右手の中には確かに鍵があった。鍵のストラップは以前私がアダムくんにあげたトビタくんだった。それで、鍵は確かにアダムくんのだと分かった。それは別に良い。彼女の左手が問題だった。
彼女はアダムくんの右手を掴んでいた。
「ああああああああああああああああ‼︎ 」
アダムくんは悲鳴を上げた。
お読み頂きありがとうございました。
次はアダムくん視点です。