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お父さん視点です。
高校三年の卒業間近、第一志望の大学に合格して大喜びして、両親も同じく喜んで「よく頑張ったな」なんていつもは言わないような事を父さんが少し泣きながら言うもんだからちょっと笑ちゃったり、とても幸せだった。
しかし、その幸せは数日後いっぺんに崩れた。
両親が死んだのだ。死因は居眠り運転の車との衝突だった。
その日、二人は俺の合格祝いを買いに行って事故にあったのだ。
それからは記憶が飛び飛びで、気づいたら両親の葬式が終わっていた。
そして俺は叔母の家でお世話になる事になっていた。
叔母は、とても俺の事を気遣ってくれたが、仕事で家にいる事が少なく、結果的に血の繋がりの無い叔父と従兄弟と過ごす事が多くなった。
まだ、小学生の子供を持つ叔父にとっては俺は厄介な存在だっただろう。事実、彼の俺に対する風当たりはキツかった。
俺は、高校を卒業したら直ぐ叔母夫婦の家を出た。これ以上居座り続けるのは迷惑だと思ったのだ。
幸い、叔母が教育費を出してくれたので、大学に通えなくなる心配は無かった。後は生活費をバイトで稼げば一人暮らしが出来た。
生活費を稼ぐ為、バイト漬けの毎日にストレスは溜まっていき、それを発散させる為に始めたのは小説を書くことだった。
小説を書くことは幼い頃から好きだった。
物語を自分で考えて、それを文章にするのが楽しくて仕方がなかった。
バイトの休み時間や家に帰った後もB5のノートに小説を書きまくった。
そんな毎日を過ごしていたある日、彼女に出会った。第一印象は、儚げで綺麗な人だと思った。
その日、大学の広場のベンチで次の授業まで時間があって暇な為、小説を書いていた。
そして、気づいたら授業が始まる五分前になっていて、焦っていたのでカバンにノートを入れ忘れてしまった。
授業が終わってからその事に気づき、急いで広場のベンチまで走っていった。
すると、そこに女性が座っていた。儚げで綺麗で、今にも消えてしまいそうな人だった。
彼女の手の中には自分のノートがあった。そして真面目な顔でその中身をよんでいた。
顔から火が出そうだった。いままで誰にも見せた事が無かったのだ。
それが面識もない女性に見られたのだ。自分の妄想の産物(?)を見てどう思っているのか気が気でなかった。もし「なにこれキモーい」とかだったら立ち直れなくなってしまう。
あのノートは諦めようと、取り戻すのをやめて帰ろうとした時、「待って」と声をかけられた。
「これって貴方が書いたの?」
声をかけてきたのは、その女性だった。
俺はその場で固まった。頭の中では(バレた)という文字がリピートしていた。
「はい」
混乱していた俺は、誤魔化す方法も思いつかず、肯定してしまった。
彼女は近づいてきて、ノートを渡してくると輝かしい笑顔を向けてきてくれた。
「この小説めっちゃ面白いね!続き書いたら読ませてもらってもいい?」
予想もしていなかった言葉が彼女の口から出てきて、ノートを持った状態のまま呆然としてしまった。
それを勘違いしたのか彼女は謝ってきた。
「あっ!勝手に読んでごめんね。なんか置いてあったから暇つぶしに読もうかな〜とかおもちゃって、読み始めたらめっちゃ面白くて止まんなくなって…」
彼女はそれから、あそこが良かったあれが好きだったと熱く感想を語ってくれた。
彼女の名前は永盛 栄と言った。永盛という名を聞いて最初に頭に浮かんだのは、大会社を連ねる永盛グループの事だった。
「永盛って、あの永盛?」
「そう、永盛グループの。私の母はその本社の社長なんだ」
彼女が大会社の社長令嬢だと知っても、あまり驚かなかった。見た目だけならお嬢様と言われても違和感無かったからだ。(中身は一般のお嬢様像とはかけ離れているけど)
彼女は見た目に反して明るく、花に例えるなら向日葵の様な人だった。
繊細さは微塵もなく大雑把で、床に落ちた煎餅を「3秒ルール、3秒ルール」と言いながら食べていた。
泣き虫で頑固で、色々な事に全力でぶつかって、努力家で可愛い彼女の事を次第に俺は好きになっていった。
「結婚してください」
栄に小説を褒められて以降、自信がついて出版社に送る様になり、大学卒業したあたりからそこそこ小説が売れる様になったので、遂に今日、彼女にプロポーズをした。
栄は驚いてポカンとした顔をした後、深刻な顔になった
(えっ、これもしかして断られる?付き合って五年でプロポーズは早すぎた?それとも何か気に触る様な事をしてしまったのか?)
冷や汗を流しながら、そんな事を考えてると彼女は決心したように口を開いた。
「私、持病があるの」
「いつ悪化するかも分からなくて、もしかしたら明日そうなるかもしれない病気なんだ。治療法も見つかってないから治しようもなくて、薬で進行を抑えるしかないらしくて、だから」
私は茂より早く死ぬ。
まだ続きます。