表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/48

22

 縦割り活動初日、アダムくんと私は前に出て自己紹介をした。

「……班長に成りました。田中 アダムです。一年間宜しくお願いします。」

「副班長になった水谷 舞です。頼りない所もありますが、頑張りますので一年間よろしくお願いします! 」

 パチパチと拍手が起こった。



 噂を聞いた日から、アダムくんと関わるのは縦割り活動について考える時だけだった。

「初日の縦割り活動でやる遊びは、だるまさんが転んだとかがいいと思うんだけど、どう思う? 」

「……いいと思うよ」

「アダムくんがやりたい遊びとかないの? 」

「……俺もそれがやりたい」

「そ、そう。じゃあだるまさんが転んだって事で」

 会話はそれで終了した。その後は今日まで全く話していない。

(私達はこんなんでやっていけるのだろうか? アダムくんは女子と話す事自体が苦痛そうだから、あまりグイグイいけないんだよな……)

「副班長、どうしたんですか? 」

 私が悶々と考えていると、隣で給食を食べている一年生の本山 大吾(もとやま だいご)くんがそう聞いてきた。本山くんは昔のアダムくんの様な性格で素直な良い子だ。

「いやね、この野菜炒めのピーマンはどうしたら消えてくれるか考えていたんだよ」

 私がバカらしい事を言うと

「そんなの食うしかないじゃないですか。副班長ピーマンダメなんですか? 俺、代わりに食べましょうか? 」

 と笑いながら彼はそう返した。

「うーむ、それでは後輩が真似する様になるかもしれない。私は、後輩が苦しみから逃げる様な人間に成るのは嫌だ。そう言うわけで食べまーす‼︎ 」

 私はバクリとピーマンをひとまとめにして食べる。ちなみにピーマンは本当に大の苦手だ。

「オグッ……ウップ」

「……副班長、絶対吐かないでくださいよ」

 大吾くんがマジな顔でそう言った。私はピーマンの逆流としばらく闘った。



 掃除の時間はふざける低学年を叱ったりもしたが、そこまで大事件も起きず終わった。

 問題は昼休みの時間に起こった。アダムくんが尋常じゃない程に震え始めたのだ。



「今日は、だるまさんが転んだをやろうと思ってるんだけど、知らない子も居ると思うから説明するね」

 私は、ざっと「だるまさんが転んだ」を説明する。

「じゃあ、最初の鬼は私がやるね。次からは別の子がやってね」

 私がそう言うと、ある子が手を挙げた。

「どうしたの?何か分からない所でもあった? 」

「それは無いけど、鬼は班長がやるべきじゃない? 副班長は説明をしたんだから。副班長ばかりがやるのは不公平な気がする」

 私が聞くと、彼女はそう言った。彼女は確か六年生の三山(みやま)さん。三山さんは私の為を思って言ってるのかもしれないが、正直余計なお世話だ。不公平など思ってないし、このゲームは私がやりたいと言ったのだから。

「そんな事無いよ。私がやりたいからやってるだけだし……」

「俺が鬼をやる」

 私が言っている途中で、アダムくんはやると言い出した。




 そして、現在アダムくんは震えている。女子が近づいてくるたびに、その震えは酷くなる。

(アダムくん恐いんだ。やっぱり違うゲームにするんだった。何故あの時の私は、だるまさんが転んだなんてやろうと言ったのだろうか)

 私は自分の考えの甘さが嫌になった。そしてアダムくんにちゃんと聞かなかった事を後悔した。

「田中先輩どうしたんだろう? 凄く震えてる」

「やっぱり噂は本当なのか? 」

「一旦やめた方がいいんじゃない? 」

 皆んな、ヒソヒソとそんな事を言い始めた。そんな中「ぷっ」という吹き出し笑いが聞こえた。聞こえた方を向くと、そこには三山さんがいる。

(何が面白いの? そもそもアダムくんが鬼になる羽目になったのは彼女の所為なのに。……もしかして噂を知っていてこの様な状況にしたの⁉︎ )

 そう思い始めたら、さっきから積極的にアダムくんに近づいていく女子達は三山さんと一緒にいる子達だと気づいた。

 彼女達は他の子が戸惑って止まってる中で、周りが見えてないのかと言いたいぐらい近づき続けている。どことなくアダムくんの反応を見て楽しんでいる様に見える。

「だ……だるまさんが転んだ」

 アダムくんがそう言う間に、思いっきり近づいた。ここ数年で鍛えた足であっという間にアダムくんに近づいた。他の誰よりも。

 振り返ったアダムくんは「ひっ」と悲鳴をあげそうになっていたが、人間は驚きすぎると声が出なくなるのか抑えることに成功したようだ。

「大丈夫、絶対触らないから」

 固まっているアダムくんに彼にしか聞こえないぐらいの声でそう言うと、彼は少しおどろいた顔をしてそろそろと顔を戻した。

「だるまさんが「タッチー! 」

 アダムくんが言い終わらないうちに、触る真似をしてそう言った。そして逃げる。周りの皆んなも私に合わせて逃げ出した。アダムくんはポカンとしていたが、すぐに我を取り戻し「ストップ!」と言った。

「アダムくん!大股で20歩!」

 私がそう言うと、アダムくんは素直に歩き出した。アダムくんが止まった場所の近くには大吾くんがいた。アダムくんは彼にタッチした。こうして次の鬼は彼になり、その後は何事もなく無事に昼休みは終わった。



「水谷、ありがとう」

 教室に帰る途中、アダムくんにそう言われた。彼から話しかけてきたのは、彼が戻ってきてから初めてだった。もう私は嬉しくて涙が出そうだった。

「どういたしまして! 」

 アダムくんとまた仲良くなれるかもしれないと私は思った。

お読み頂きありがとうございました。

アダムくんは女性恐怖症という設定です。女子と話すのはまだ大丈夫ですが、触れられるのはダメです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ