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 次の日、私は10時に目を覚ました。今日は卒業式があるので、五年生と六年生以外は休みなのだ。お父さんは講演をするとかで私が寝ている間に家を出てしまっていた。まだ卒業式は終わっていないはずだ。花屋に行って、花束を貰ってから学校に行っても間に合うだろうと思った。



 花屋に行くと、由美がいた。

「由美も花束受け取りに来たの? 」

「うん! お母さんの誕生日、今日だから」

 私が聞くと、由美はそう答えた。私達は綺麗な状態で花を渡したかったので、当日に受け取りに来ることにしたのだ。



「舞の花束可愛い〜! 」

 由美はガーベラばかりの小さな花束を見て、そう言った。由美の色合いに気を使った花束の方が断然綺麗なのに。

「先輩、ガーベラ好きって言ってたから」

「そうなんだ! それならきっと喜んでくれるよ! 」

 由美はそう言って自信をつけてくれた。きっと喜んでくれる。そうだと嬉しい。



 由美と別れて、私は学校へ向かった。ちょうど卒業式が終わったばかりのようで、校庭には沢山の保護者と生徒がいた。六年生の中には袴を着ている子もおり、煌びやかだ。

 私は、羽山先輩の姿を探した。まだ学校にいたらいいのだが、もう帰ってしまっただろうか。一応、卒業式の日に渡したいものがあることは伝えたのだが。

 ウロウロと校庭を歩いていると、校舎裏の方の門から外に出ようとする先輩を見つけた。

「羽山センパーイ!」

 私は大声をあげて先輩に近づく。先輩は足を止めて、私の方へ振り返った。先輩は全体的に紺色の落ち着いた感じの袴を着ていた。本当に綺麗だった。

「先輩! 卒業おめでとうございます! これ花束なんですけど、どうぞ! 」

 私は花束を渡す。

「わー! ありがとう! 私の好きなガーベラでいっぱい! そういえば渡したい物があるって言ってたよね。ごめんね、帰ろうとして」

 先輩は嬉しそうにした後、約束を忘れていたようで、謝ってきた。

「いいですよ、会えましたし。それより何で裏門から帰ろうとしてたんですか? 先輩って何時も正門から帰ってましたよね」

 私がそう言うと、先輩は顔を曇らせた。

「正門には、隼人がいるから……」

 確かに船橋先輩がいた。しかも彼はモテるのか、沢山の女子から告白されていた。本当にすごい沢山の女子に押し寄せられていたので、まだ正門にいるだろう。

「私、もし彼が女の子の告白を受けるところを見たら、平静でいられないと思う」

 先輩はそう言った。本当に苦しそうに。


「私、彼の事が好きだから」


 ガンッと衝撃を受けた。先輩の口から出た言葉に「やっぱりそうだった」という思いと「嘘であってほしい」という思いがごっちゃになり、胸が苦しくなった。

「私ね、私立の中学に行くんだ。これからあまり会えなくなるから最後に告白だけでもしようと思ったんだけど、あんなに可愛い子達に告白されてるから何だか言いにくくて……帰ろうとしちゃった」

 先輩は苦笑いでそう言った。先輩の心も私と同じで苦しいのだろう。

「……もういいの。ごめんね、こんな話しちゃ「先輩、行きましょう」

 羽山先輩の言葉に被せてそう言った。

「行きましょう! 船橋先輩のところへ! 」




「ちょっと、舞ちゃんやめてっ」

 私より何倍も大きい先輩を一生懸命引っ張って船橋先輩の元へ連れて行く。先輩は嫌そうだが、本気で抵抗したら私が吹っ飛んで怪我をするかもしれないので、素直に引きずられている。

「ふ、船橋先輩、先輩! 」

「ん? 水谷、何で学校に来てるんだ? 」

「ぜ、先輩が、船橋先輩に、話したい事があるみたいなんです! 」

 疲れで引っかかりながらも、そう言い切った。先輩は後ろで「舞ちゃん! 」と怒っているが、気にしない。

「話したい事?」

 船橋先輩が聞いた。先輩は、ビクッと震えた。でもすぐに冷静さを取り戻し、深呼吸をすると、女の子達を掻き分けて船橋先輩に近づいていった。

 先輩は、船橋先輩の前にたどり着くと、また深呼吸をして言った。


「私、隼人のことが好き。それを言いたかったの」


 先輩は、私立の中学に行くので最後に気持ちを伝えようとした事も言った。

「付き合いたいとは言わない。ただ私が貴方を好きだったという事は、知ってほしかったの」

「何過去形にしてんだよ」

 船橋先輩は怒ったように言った。

「付き合いたいとは言わない? 何で好きなのに付き合おうとしないんだよ! 俺はお前と付き合いたいんだよ! 」


「お前の事、好きなんだよ! 」


 周りがワッと盛り上がった。船橋先輩に告白をしていた子達は泣きだした。それでも構わず、船橋先輩は続ける。

「本当は俺から言うつもりだったのに……」

「遠距離になるんだよ。それでもいいの? 」

「そんなの構わないくらい、棗の事が好きなんだよ」

 船橋先輩の言葉に、先輩も泣き出した。恥ずかしいのか私があげた花束で顔を隠している。周りは先輩達に対して「ヒュー」と冷やかしていた。


 先輩が幸せになって本当に良かった。良かったはずなのに、目が熱くなって来る。

「羽山先輩! 」

 私は先輩に話しかけた。

「舞ちゃん、貴女のおかげよ。ありがとう。それで、どうしたの? 」

 先輩は幸せそうな顔でお礼を言ってくれた。

「……これもどうぞ」

 私はなるべく顔を見られないように、先輩にトビタくんを渡した。

「これトビタくん⁈ 可愛い!ありがとう!」

 先輩が笑顔でトビタくんを受け取ると「私、この後用事があるんで帰ります。一年間ありがとうございました」と頑張って笑顔をつくって言い、走って校門を出た。



 わんわん泣きながら走った。先輩との練習で少し速くなった足は、どんどん加速していった。あんなに幸せそうにしている先輩に、私の気持ちなんて言えないじゃないか。言える奴いたらすごいよ。出て来てよ。そして私の代わりに気持ちを伝えてくれよ。そんな事したら今までの関係が壊れるじゃないか。そんなの嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!



 私は走りながら泣き続けた。



 花束にベゴニアなんて入れるんじゃなかった。告白する勇気もないくせに。


お読み頂きありがとうございました。

次は一気に六年生まで成長します。

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