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お正月!
アダムくんが引っ越してしまって、ショックを受けたまま冬休みに入った。そして数日が経ち遂に今日、新年を迎えた。
「明けましておめでとうございます」
おじいちゃんは私の家に来て早々、そう挨拶をした。おじいちゃんの背後には河内さんもいる。
「お義父さん、河内さん、ようこそいらっしゃいました。どうぞ中へお入りください」
お父さんがスリッパを用意してそう言うと、二人は中に入ってきた。
「そうだ! 舞ちゃん、お年玉だよ」
そうおじいちゃんは着物の懐から封筒を出した。中身を確かめると一万円が入っている。小学生のお年玉って、こんなに高額だっただろうか。(まぁ、貰うけど)
それからは、皆んなでお節を食べたり、お雑煮を食べたり、この前の学芸会の話で盛り上がったりとのんびり過ごした。
そんな中「ピーンポーン」とインターホンが鳴った。誰だと思い、画面を見てみると由美と雄大がいた。通話を可能にして「どうしたの? 」と聞くと
「あ、舞〜初詣行かない? 皆んなで! 」
「親戚の人とかいると思うのにごめんね」
由美が元気よくそう言うと、雄大は謝った。
おじいちゃんとお父さんと河内さんに、由美たちと行っていいか聞いてみると
「いいよ、行ってきなさい。私は、早朝に近所の神社に行ってきたから」
「父さんも舞と朝に行ったし、いいよ。由美ちゃん達ともう一度行っておいで」
「私は旦那様が良いと仰るなら構いません」
三人から許しを貰い、私は由美と雄大と三人で家から一番近い神社へ向かった。
神社には人がいっぱいいてガヤガヤとうるさかった。それに比例して、神社の男巫さんは忙しそうに働いている。
この世界には巫女さんもいるけど男巫よりは少ない。男巫さんは、白い着物に赤い袴をはいていて前世の巫女さんのような姿をしている。初めて見た時は驚いたが、もう慣れた。
「まずお参りしよう」
雄大の一言に賛同して、お参りをする為に長蛇の列に並んだ。……このままだとお参りするだけで終わりそうなので、順番に二人ずつ遊びに行く事にした。最初は雄大が待って、私と由美で遊びに行った。
「何しよっかー、屋台にいいのあるかも! 」
と言うので、屋台を見て回る。たこ焼き、焼きそば、ベビーカステラ、どれもお腹がいっぱいなので食べられない。そんな中、甘酒を見つけた。
「あれ飲んでみない? 」
「甘酒? アルコール入って無いのもあるみたいだし、飲もっか! 」
由美と二人で甘酒を買いに行った。
甘酒は優しい甘さで暖かく、冷えた体に染み渡って行く。由美は猫舌なのか、ちょびちょびと飲み時折「アチっ」と言っている。私は気持ちよくて思わず「は〜〜」と溜息をついてしまった。
「ちょっと年寄りみたいじゃん。あついもの飲んで溜息つくとか」
「だって、寒かったのが一気になくなっていったから」
「舞って本当に寒がりだね」
由美の一言に、以前同じ事を言われたのを思い出した。アダムくん、今どうしているだろうか。どうして引越す事を教えてくれなかったんだろう。彼から貰ったプレゼントは、大切に保管している。
それからは一通り屋台を見て、交代の時間になったので私達は雄大の元へ戻った。次に待つのは私なので、由美と雄大を見送った。暇なので列の人々を観察する事にする。女の人は前世と同じように着物を着ている人もいるし、逆に男の人は普段着を着ている人の方が多かった。この世界はあべこべなところもあるが、前世と同じところもいくつかある。たまに自分の常識と食い違う事もあるが、剛に入ったら郷に従えの精神で今まで何とか平穏にやって来れた。これも神様のおかげだ。本日二回目だけどしっかりお礼を言わなければ。
しばらく列で待っていると、二人が帰ってきた。次は由美が待つ番で、私は雄大と一緒に列を出た。雄大も私も屋台は一通り見終わったので、別の事をしようという話になり、おみくじを引く事にした。
「十三番です」
「はい、どうぞ」
出た番号を言うと、男巫さんは笑顔でおみくじをくれた。中を見てみると「中吉」だった。
「雄大、どうだった? 」
「僕、大吉だった」
なんて運の良い男なんだ。私は「中吉だったよ」というと、「なんとも言えないね」と苦笑いされた。
おみくじの内容を見ていると、恋愛の所で「気持ちを伝える事で先行きが分かれる」と書かれていた。つまり告白したら良くなるかもしれないし悪くなるかもしれないという事か。
「あれ、羽山先輩と船橋先輩じゃない? 」
雄大の言葉に、顔を上げると確かに羽山先輩と船橋先輩がいた。何故二人で来ているのだろう。偶々今は二人でいるだけで私達みたいに別の場所に友達がいるのだろうか。うんきっとそうだ。そうに違いない。そうに……
「舞って羽山先輩の事好きなの? 」
雄大の言葉に一瞬時が止まったように感じた。私が先輩を好き?
「そんな訳ないじゃん。先輩としては好きだけど」
私の口からはそんな言葉が滑りでた。何故か胸がキリキリする。
「そっか」
雄大はそう言うと、もうその話題については触れなかった。
列に戻ると、すぐに私達の番になった。鐘を鳴らし、一礼二拍手して祈る。
(今年も無事に過ごせました。ありがとうございます。来年もよろしくお願いします。あと、アダムくんにまた会えますように。それと……羽山先輩が幸せになれますように)
最後の願いは、何故かまた胸がキリキリとした。羽山先輩の幸せとは、船橋先輩と結ばれる事なのかと思うと、辛かった。
二人と別れ家に帰ってくると、どうやら皆んなでお母さんの思い出話をしているようだった。私も混ぜてもらおうとリビングのドアを開こうとした時おじいちゃんが、おばあちゃんはなんで私に会おうとしないのか語り出した。
「正子は頑固なところがあって、一度決めた事は決して曲げようとしない。栄が持病で死ぬ間際の時も決して手を出さなかった。けれど本当は後悔をしているんだ。今も娘を見捨てた自分を責め続けている。彼女はプライドがあるために舞に会おうとしないのではなく、栄に対する罪の意識に苛まれて会いに行けないんだ。それだけは分かって欲しい」
おじいちゃんは苦しそうに話していた。お父さんは「分かりました。そういう事だったんですね」と言った。私はおばあちゃんに会っても親の仇を見るような目を向けるつもりはない。けれど、おばあちゃんにとっては私という存在そのものが罪の意識を借り立たさせるものなのかもしれない。そういう事なら会わない方がお互いの為かもしれないと私は思った。
「ただいま! 」
今の話を全く聞いていなかった風を装ってリビングに入っていった。皆んな優しく迎え入れてくれて、ホッとした。
それからはお母さんの話を沢山聞かせてもらった。お母さんは活発で面白い人だった。
何はともあれ今年も色々と頑張ろうと思った。
お読み頂きありがとうございました。