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地獄百景 第1話  作者: 倉本保志
1/1

K,地獄に降臨す

以前からあたためていたテーマで今回連載に挑戦したいと思います。一応地獄百景という、タイトルなので100話を目標に書こうと思っています。たとえ読み手が0となろうとも、それは、まさに倉本保志にとっての地獄なのでしょうが・・・まあ、先のことは、ほとんど考えずに、いつものように見切り発車で行こうと思います。R-15という縛りがはたしてどう出るのか、倉本本人としても、とても興味があります。それでは、三島由紀夫云々・・倉本保志の連載小説第一稿ここに投稿です。よろしく~。

 地獄百景 第1話 地獄なべ


地獄なべ 相手を騙す行為で財産等を奪ったものは、死後地獄へ行き、生皮や爪をはがされ身をそがれ、鬼たちのなべ料理の具材にされる。(骨はその出汁として使われる)


パーン パパーン

銃声が、乾いた音で、辺りに響き渡る。

その音を、まるで、掻き切るように、男が、勢いよく裏路地を駆けていった。

男の名前は、K この近辺を縄張りとする愚連隊のリーダーをしている。

この街での、ドラッグの売買の諍いをきっかけに、隣町のやくざ組織T組と抗争になり、リーダーのK自らが負われる身となった。Kは、事務所近くの雀荘に身をひそめていたのだが、その場所が、T組の構成員に見つかり急襲をうけてしまう。

Kは、雀荘の窓から、慌てて飛び出ると、裏の狭い路地を必死に逃げていた。

先ほどの銃声は、T組の若い衆が、Kを狙って発砲したものである。

Kはひたすら走る。無我夢中という形容がこれほど当てはまる状況は、そういくつも見当たらない。Kは、身体のすべてをあしにして、ひたすら走った。

「待て、この野郎・・・」

そう言って、追いかけるT組構成員の男は、俄かに立ち止まると、すぐに正面に両手を突き出し、拳銃を構えた。そして前方10メートル先を、韋駄天の如く走るKめがけて撃った。

パン パーン・・・ 

・・・・・・・・

拳銃から放たれた弾は、Kの背中右上部に命中した。

「がああ・・・・・」

Kは、大きな声で、叫ぶと、前につんのめる様に転がって、倒れ、そのまま、動かなくなった。地面には、薄黒い血が、Kの身体を包み込むように広がっていった。

・・・・・・・・・

どれくらいの時間が過ぎたのだろうか・・?

Kが気づいたとき、そこには、うっすらと霧のようなものが周りを包み、ぼんやりとして薄暗かった。

「・・・・・・」

「なんだ、ここは・・・?」

「確か、おれは、路地裏で、撃たれて・・・?」

Kは体を弄るように触ってみた。

「全然痛くない・・」

・・・・・・・・・

「そうか、死んだってわけか、はははは、おれは撃たれて死んだのか・・・はははは」

Kの乾いた笑い声が、辺りに響き渡る。

・・・・・・・・・・・

「・・・だとすると、さしずめここは・・・?」

「・・・地獄の3丁目ってとこかな・・?」

周囲に漂う不気味さ、そして澱のように、心に深く沈んでいく幾許かの不安を紛らわせるために・Kはいつもの軽口をワザとらしく吐いた。

・・・・・・・・

そこは、この世の世界ではなく、まさしく地獄界であった。

しかし、Kは死んだのではなかった。Kは先ほどの衝撃で、瀕死の状況に陥り、生きたまま、地獄界に迷い込んだのだ。

・・・・・・・・・・・

「・・・なんとも、薄気味の悪いところだ・・・」

そう言って、Kは辺りを見回したが、じっとこの場に、突っ立っていても仕方がない。Kはしばらく、この一本道を、道なりに歩いていくことにした。

・・・・・・・・・・・・

歩くうちに、何とか落ち着きを取り戻してきた。すると周囲の様子が、わりとはっきり見え出してくる。

そこは、だだっ広い平原のようなところで、青黒い不気味なじごくそうが生い茂っている。

その真ん中に、道がただ一本、はるか遠方まで、すうっと続いている。

道の右側には、平原のずっと向こう、連なるように険しい山がそびえ立っていた。左側は、赤茶けた空と陸地との境界に地平線が一本、平原の向こう側に見えるのみである。

天空の空は爛れたように赤黒く分厚い雲が一面を覆い、この世界を、塞ぎこみ、押しつぶすかのような威圧感を持って、大地に圧し掛かっている。

血の腐ったにおい、死臭が、むん と漂う薄暗い平原のなかを、Kは、暫く歩いて行った。

・・・・・・・・・・

1時間ばかり歩いただろうか・・? 

Kは、道のわきに一本の古びた、掲示板を見つける。

時代劇でよく見る、お触れ書き、将棋の駒を大きくしたような、あの板切れだ。

・・・・・・

Kは、そっと覗いてみる。

そこには、第5番、地獄なべ執行所、と赤い文字で書かれていた。

・・・・・・・・

Kは、少し疲れていたので、休憩がてら、その掲示板のまえで、ぼんやりと、その赤い文字を眺めていた。

・・・・・・・・・・・・

浴衣姿のひとりの男が、kの来た方向から、足を引きずるようにして、やってきた。

歳は60代といったところか・・? 腹がいくぶんつっかえそうな、その、男は、その看板の前で文字を読むと。がっくりと項垂れ、やがてその場に、ぺたんと腰を下ろした。

Kは、しばらく、様子を窺っていたが、ほかに誰も来る様子もないので、その男に近づいてみることにした

・・・・・・・・・

「おい、あんた」

・・・・・・・・・

男は、慌てて、振り返りかえり、Kの様子をじろりと見た。

「一体、ここは、どこなんだ・・・?」

「どこって、ここは、地獄なべの・・・」

その男は逆にKに訊き返した。

「お兄さん・・・兄さんこそ、閻魔大王に、ここに来るように、言われたんじゃないのかい・?」

「はあ、・・・? 閻魔だと・・・? 」

(地獄に閻魔がいるっていうのは本当なのか・・・?)

・・・・・・・・

「じゃあ、なにか・・? あんたは、閻魔さんに、ここに来るように言われたってのか?」

「・・・ああ、そうだ。」

「・・・もうすぐ、ここで、おれの処刑がはじまるんだ。」

「処刑官の鬼どもが来てな・・」

男はわりとあっさりした様子で、Kに答えた。

「・・・・・・・」

「ふん、・・・・なんだか、よくわからねえが、鬼が来るって言うんならおもしろい、ちょっと見物でもしてみるか」

Kは男に対して少し空意地を張るように言って見せた。

「見物だ・・・? 呑気なやつだ・・ははは、」

男はそういって笑うと、目を伏せ、意地悪そうに呟いた。

(おまえも、どうせここで、処刑されるんだろうが・・・)

・・・・・・・・・・

そういって、男は、地べたに胡坐をかいて座り込むと、そのまま、動かなくなってしまった。

・・・・・・・・・・・

しばらくして、向こうから大きな山のような男が二人やってきた。 

わいわい、何やら楽しそうに話をしている。ひとりはまな板を背負い、大きな包丁を右手に持っていた。

もう一人は大きな鍋を腕で頭上に高く掲げながらやってきた。

・・・・・・・・・・・・

(・・・お、鬼だ・・ほんとうに、鬼が来やがった。・・・)

Kは、慌てて、草の茂みに隠れた。

掲示板の前に来ると、鬼の一人が持っていた鍋を地面にドスンと落とす。

もう片方の鬼も、まな板と包丁を鍋のすぐわきに置いた。

・・・・・・・・・・・・

「さて、罪人は、どこだ・・・・?」

地響きのような、鬼の声に、先ほどの男が顔をあげる。

「お前さんかい?」

男が、こくりと頷いた。

「随分、しおらしいじゃないか?」

もうひとりの鬼が、にやりとして言った。

「生前は、さぞかし、暴れたクチじゃないのか・・・?」

「それとも、ここの異常な様に中てられて、観念しおったか・・?」

「なんとも、意気地のない・・・・ははは」

「そう言って、鬼は褌に仕舞っていた、紙切れを出すと、大きな爪の伸びた手で

広げて、なにやら、読み上げた。

・・・・・・・・・・・・

そこには、男の生前の行い、悪行についてが、詳しく書かれていた。

この男は、生前、不動産屋を経営していた。欲に目が眩み、地上げ屋とグルになり、老人

から無理やり家を取り上げて、土地を転がし、数十億という金を手に入れた。

その陰で、何人もの家を奪われた人たちが、心中、飛び込み自殺に追いやられていた。 

・・・・・・・・・・・・

「おまえ、この罪状に異論はないか?」

野太い声で鬼が言った。

「はい、・・・確かに・・・」

男は小さく頷いた。

「では、地獄法第231条、に基づき、地獄なべの刑を只今より執行する。

「罪人は、立ちませいい・・・」

大きな声で、そういうと、先ほどの男を、頭から持ち上げて、石の、まな板の上に無造作に置いた。

生前、悪どいことに手を染めたその男は、為すすべもなく赤子のように小さく縮みあがって震えている

「では、では、見事、意気まっせいい・・・」

「せああああ・・・・」

鬼は、なにやら、呪文のような言葉を、唱えると、包丁を大きく振りかぶり、そのままどおん・・と、男の胴体へ振り下ろす。

ぶつん

血しぶきが飛び、胴体が、真っ二つに切れてしまった。

・・・・・・・・

草陰で、様子を窺っていたKは、思わず目をつぶり、肩を竦めた。

鬼たちは、次々に男の手足に包丁を入れ、まるで魚をさばくかのように、細切れにしていく。

ぶつ、ぶつ、そのたびごとに僅かに血しぶきが、鬼の顔に飛び散る。

手首から切り取られた、2対の甲についた、手足の爪、都合20枚の爪は、まるでいんげん豆のヘタを取るように指で器用に引き剥がされた。

男の腹に縦に、すうっと切り込みを入れると、大きな手をその中にいれ、無造作に、男の内臓を取り出すと、すりこぎのようなもので潰して、水を張った大鍋に入れる。

薪をくべて、火をつけ、それを、今度はぐつぐつと煮始めた。

暫くして、細かく切った男の、肉の部分を、まな板から、両手で掬い上げると、鍋にそのまま、どぷんと放り込む。身をしっかりとこそぎ落した背骨は、包丁でぶつ切りにして、これも、鍋に放り込んだ。

とうとう、まな板の上には、激痛に顔を歪ませた、あの男の頭だけになってしまった。

鬼は、その頭を、むんずと掴むと、顔を近づけて、

「どうだい、弱り切った自分が、猛者に、なりふり構わず、無残に、こっぴどく、傷つけられる気分は」

「・・・・・・」

男は、一瞬、カッと目を見開いて、鬼を睨みつけたが、一言も答えなかった。

「さ、最後の仕上げだ・・。」

そう言って鬼は、ポーンと地面にその男の頭を放ると、足の裏でぐしゃりと

潰してしまった。

鬼は、頭についた土を払い、あふれ出た脳みそをすくい取る。

これをまた、ぐつぐつと煮えたぎった大鍋の中に入れる。

しっかりと煮えたころに、鬼はそこいらに生えている地獄草をひとにぎり調味料として加え、すりこぎで

なべをぐりぐりとかき混ぜ始めた。

・・・・・・・・・・・

こうして、その男を,具材にした、人間なべが出来あがった。

「ううん・・こいつは、酷い・・・」

「地獄ってのは、とんでもねえ場所だ・・・・・」

・・・・・・・

Kは草陰で、男が料理される一部始終を見ていた。まさに背筋が凍る思いだった。

・・・・・・・・

そのとき、草が微かに鼻先に触れ、Kは、とんでもない失態をしでかした。

「ふ、ふぇ・・・、ふぇくしょん」

「誰だ・・?」

鬼が振り向いた

・・・・・・・・・

(やばい、・・・見つかった・・)

「なんだ、そこにいるのは誰だ?」

「出てこい・・・」

・・・・・・・・・

「さっさと出てこないかあああぁ」

(どうしよう・・・・)

Kは、微かに震えながら、身をかがめて息を殺していた。


                第1話 おわり




一話目が完結になっていないスタイルっていうのも自分にとってはありなのですが、どうなのでしょう。

いろいろ試行錯誤を重ねていきたいと思っています。

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