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診療所



「ここは……」



 目を覚ますと見知らぬ天井が視界に入る。

 俺は白いカーテンで仕切られたベッドに寝かされている。


 確か“魔物”に襲われて体がぐちゃぐちゃになったはず……。いや、更にその後、俺は謎の少女に“燃やされた”。

 自分の体をペタペタと触ってみるが、火傷どころか目立った外傷一つない。


 “完全に治っている”。


 少女は“癒しの炎”と言っていたが、本当だったようだ。あれは“魔法”なのだろうか?



「あら? 体調はもう大丈夫?」



 物思いにふけっていると、いつの間にかカーテンが開かれており、白い看護服を着たお姉さんが立っている。



「先生、目が覚めたみたいですよ」


「いや~、気が付いてよかったよ。ナローシュ君」


「クーターさん!?」



 看護婦さんの後ろから白髪頭の白衣を着たおじさんがひょっこりと顔を出してきた。

 ニコニコと人当たりの良い笑顔をしたその人は、この村唯一の医者“クーター”さんだった。

 見知った顔の人に出会い少しホッとする。



「ここは私の診療所だよ。近くで爆発音がしたので見に行ってみれば、君が倒れていたのでね、運び込ませてもらったよ。目が覚めたばかりで申し訳ないが、少し話を聞かせてもらえるかな?」


「……、分かりました」



 一先ず俺は、クーターさんに先程起きた出来事を覚えている範囲で説明した。



 ◆



「なるほど魔物が……、とにかく無事でよかった」


「偶然居合わせた少女に助けられたんです。すごく変わった恰好をしていて……、魔法も無詠唱で使ったんです」


「無詠唱? にわかには信じがたい話だね。それは」



 この世界には“魔法”というものが存在する。

 “呪文を唱え”、“魂の力(マナ)”を“精霊”に捧げることで、その力を行使してもらう異能の力だ。


 精霊は異界の住人である。

 見た目も千差万別であり、タニアさんの召喚んだ、はねの生えた小人の様に愛らしい姿のものもいれば、山よりも大きい火を吹くトカゲみたいな凶悪な外見の奴もいる。

 精霊達の見た目で共通している事と言えば、どんな姿かたちをしていてもみんな実体を持たない“霊体”だということだ。


 彼らは普段この世界に存在しないし干渉もしてこない、魔法の使用時だけその姿をみせるのだ。

 故に人間は精霊の生態について知らない事の方が多い。



「いいかい? 魔法を使うのに“呪文を唱えない”なんてことはありえない。呪文とは、人と精霊が交わす契約の様なものだ。唱えることで精霊は術者の望みを知り、叶えることでその対価のマナを持っていく。無詠唱じゃ精霊は行動できないんだ」



 クーターさんは丁寧に言葉を選びながら確認してくる。

 もちろん俺だってそれくらいは知っている。



「ちなみにその無詠唱で魔法を発現させた精霊はどんな見た目だったんだい?」


「えっと……、その少女の魔法には精霊がいませんでした」


「精霊がいないだって? それはおかしいね。私達人間のマナを貰う為、精霊たちが起こす超常現象の事を魔法と呼ぶのだから」



 あごに手を当てながらクーターさんはう~んと、困った様に頭をひねる。



「それに君は、“魔法が効かない”体質だろう?」



 クーターさんの言う魔法が効かない体質というのは、正確には精霊を寄せ付けない体質という意味だ。

 例えば傷を癒す魔法を使っても、この体質の者に精霊は近づかない。魔法とは精霊が起こす超常現象だ。その精霊が近づけないのであれば魔法は成されない、故に魔法が効かないということになる。



「精霊を使わずに魔法の様な現象を引き起こす……、もしかしたらその少女自体が精霊だったのかもしれないね。でもそれだと、ナローシュ君に近づいてはこないか……ならば精霊に近い“何か”、傷を治してくれたわけだしさしずめ天使といった所かな?」


 

 少女の風体と言動を思い出し、苦笑いをしてしまう。助けてもらっておいて言うのはアレかもしれないが、天使というより悪魔の類のが近い気がする。

 


「少し話を変えようか、最近は例の夢を見るのかい?」



 俺は以前から悪夢の話をクーターさんに相談している。

 魔法の効かない俺には【回復魔法ヒール】や【精神治療キュア】での治療ができない為、定期的にクーターさんに話を聞いてもらい様子を見ているのだ。



「実は今朝も人を襲う夢を見まして……」


「イテムさんの娘さんかい? 今朝私は検死の為に診たんだが、確かに遺体の状態は君の言う夢の内容と酷似してはいたね」



 俺は直接見たわけではなかったのだが、そうか似ているのか……。



「やっぱり俺の夢と何か関係があると思いますか?」


「う~ん、どうだろうね。あくまで夢は夢だから」



 自分が化け物になって、親切にしてくれている村の皆を襲う夢。

 正直、気分の良いものではない。できれば見たくないのだが、解決策も特にはなく、やれることと言えばこうして誰かに話をして相談に乗ってもらうことだけだ。


 会話も途切れ、お互いに黙り込んでいると、コンコンと扉を叩く音が響く。

 


「先生、そろそろ日が暮れてしまいますよ」



 先程会った看護婦さんが日暮れを伝えに来てくれた。

 窓に目をやると、確かにカーテン越しに夕日が差し込んでいる。


 

「これはいけない、つい話し込んでしまったね。今日はここまでにしようか。家まで送るよ」


「そんな、大丈夫ですよ」


「いやいや、一見治っている様に見えても君は魔物に襲われたんだ。帰り道に急に体調を崩して倒れられたら困るし、ちゃんと責任をもって送るよ」



 確かに……、今調子が良くても今後も平気か分からないし、帰り道で倒れたらまた迷惑をかけてしまうか……。

 俺はお言葉に甘えてクーターさんと共に家路に就いた。






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